声明・意見書

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会長談話

  1. 札幌高等裁判所は、2013年3月1日、当会に対し実施の是非についての事前協議の申し入れを一切行なわないまま、札幌高等・地方裁判所庁舎(本館・別館の玄関)において、委託した民間警備会社による来庁者に対する所持品検査を実施している。
    その後、当会は、札幌高等裁判所に対し、6月24日、目的を明らかにせず、国民を司法から遠ざける所持品検査の実施に対して重ねて抗議するとともに、同検査を7月31日限り中止するよう書面をもって申し入れた。
    その後、札幌高等裁判所は、当会との協議の過程で、X線検査装置の導入を決定したとして,所持品検査そのものについては中止しなかった。
  2. 札幌高等裁判所によれば、8月1日から実施される所持品検査の概要は、次のとおりである。
    来庁者は、所持品が入っている鞄・バッグ等をX線検査装置に通し、危険物の所持が疑われると判断された場合には、危険物と目される物の提示を求められる。その際、来庁者は、物を提示した上、当該物をロッカーに預け入れるか、物の提示を拒否した上、鞄・バッグ等そのものをロッカーに預け入れるかを判断することになる。また、来庁者は、ゲート型金属探知機を通過しなければならず、ゲートが反応すれば、検査担当者からハンド式センサーで身体検査を受けることになる。
  3. 所持品検査の問題点は、来庁者のプライバシーの制約を伴うにもかかわらず、その目的が十分に明らかにされない点及び来庁者が所持品検査に同意しなければ裁判所内に立ち入ることができず、ひいては、所持品検査に抵抗感をもつ国民を裁判所から遠ざけている点にある。
    所持品検査の目的が特定案件に向けられているものであれば、当該案件に対象を絞った所持品検査を行なうべきである。現に、さいたま地方裁判所では、暴力団幹部の刑事事件の公判に際して所持品検査が実施されていたところ、これは5月15日から7月18日までの開廷日だけに限定されており、来庁者に対するプライバシー制約が一般的・網羅的・永続的にならないよう配慮されていた。
    他方、所持品検査の目的が、特定案件に向けられたものではなく一般的・網羅的なものであるならば、来庁者が、本件のような鞄・バッグ等の透視を伴うプライバシーの制約を受忍しなければならない合理的理由はない。警察官が不審者に対して実施する所持品検査においても、警察官職務執行法第2条1項が定めるような不審事由の存在が必要とされていることとの対比からして、そのような事由を前提としない所持品検査は、裁判の当事者や裁判を傍聴しようという正当な目的をもって来庁した者等に対してプライバシーの制約を受忍させる合理的根拠を欠いているというべきである。
  4. そもそも、裁判が公開法廷で行なわれるべきことを定める憲法第82条1項の規定の趣旨は、裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を確保しようとするところにある。また、今次の司法制度改革でも指摘されているとおり、裁判所は、国民にとって身近で利用しやすく、開かれた司法を実現するという重要な役割を担っている。かかる観点からすれば、裁判所は、裁判の当事者である国民や裁判所の司法権行使に関心を持って裁判を傍聴しようとする国民にとって、身近な存在でなければならない。
    今般の所持品検査は、このような裁判所の重要な役割に背いて、国民を裁判所から遠ざける結果になることは明らかである。このことは、今般導入されたX線検査装置による検査であっても何ら異なることはない。
  5. 以上から、札幌高等裁判所が今般導入したX線検査装置及びその他の方法による所持品検査はすみやかに中止されるべきである。また、当会としては、札幌高等裁判所との間で、引き続き所持品検査の必要性等について協議を行なっていく所存である。

以上

2013年8月7日
札幌弁護士会 会長  中村 隆

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