声明・意見書

共謀罪法案の再提出に反対する会長声明

  1. 今春の報道によると、政府は、共謀罪の新設を目的とする組織的犯罪処罰法改正案(以下、「共謀罪法案」という。)を今秋開催される臨時国会に提出することを検討しているという。
     共謀罪法案は、過去3度、国会へ提出されたが、いずれも廃案となっている。
  2. そもそも、共謀罪とは、犯罪の結果が発生することはおろか、その準備行為すらない段階で、犯罪を行うことを合意しただけで、処罰することを目的とするものである。
     そのため、処罰対象が極めて曖昧、かつ、不明確なものとなる。
     実際、過去、国会に提出された共謀罪法案では、「共謀」自体については、犯罪の「遂行を共謀した者」とのみ定めており、その方法・内容や具体性の程度などを限定しておらず、その他の限定要件である「団体の活動として」「当該行為を実行するための組織により行われるもの」は、いずれも極めて曖昧かつ不明確である。
     これは、人権保障のため、具体的な行為があって初めて犯罪が成立し、しかも、どのような行為が犯罪になるかを事前に明確に定めなければならないことを定めた罪刑法定主義等の近代刑法の大原則に反する。
  3. また、過去、国会に提出された共謀罪法案は、対象犯罪を長期4年以上の刑を定める犯罪としており、その範囲は、窃盗罪、横領罪など特殊犯罪とはいえないものを中心として実に600以上の犯罪類型に及ぶだけでなく、その中には公職選挙法違反なども含まれており、表現の自由などの基本的人権を不当に侵害することも明白である。
  4. さらに、共謀罪は、私人の合意内容を処罰対象とするため、必然的に、私人間の会話内容そのものが、捜査対象となる。
     そのため、現在、国会において、警察による電話盗聴の対象を拡大することを目的とする通信傍受法「改正」案が成立した場合、国民の会話(電話、メール、SNSのやりとりなどを含む)が捜査機関によって、監視されることになり、結果、国民のプライバシー権の著しい侵害を招くことは必須である。
  5. これまで政府は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」を批准するためには、共謀罪法案の成立が必要であると説明してきた。
     しかし、同条約は、共謀罪の創設まで求めてはおらず、締結国がそれぞれの国内法の基本原則に基づき必要な立法等をなすことを求めているに過ぎない。そして、我が国には広範な未遂処罰規定及び一部重大犯罪に関して未遂前処罰を可能とする規定が存在することなどから、既に同条約の比準が可能な状況にある。よって、同条約の批准と共謀罪法案の制定は、無関係である。
     従って、政府の説明は誤りであり、共謀罪法案を成立させなければならない理由はない。
  6. 以上のとおり、共謀罪法案には、成立させるべき理由がなく、他方、その内容は、近代刑法の基本原則に反する結果、基本的人権を著しく侵害する危険が含まれている。
     よって、当会は、過去、2005年7月20日及び2006年4月26日に共謀罪法案に反対する会長声明を発していたが、今回、改めて、政府が同法案を提出することに、強く反対する。

2015年10月5日
札幌弁護士会
会長  太田 賢二

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