声明・意見書

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆる「カジノ解禁推進法」)の成立に抗議し、廃止を求める会長声明

 2016年(平成28年)12月15日、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(以下「カジノ解禁推進法」という。)が成立した。

 同種法案は、2013年(平成25年)12月に国会に提出されたものの、実質的な議論が行われないまま2014年(平成26年)11月の衆議院解散に際し一旦廃案となった。その後、平成27年(2015年)4月に今国会で成立したカジノ解禁推進法の法案が改めて提出されたものの、以後1年半以上もの間、何ら審議されずにあったものが、2016年(平成28年)11月30日、衆議院内閣委員会において突如審議入りし、わずか6時間という短い審議のみで、3日後に採決が強行されたものである。
 また、参議院内閣委員会においても十分に審議されることなく、修正動議の後すぐに可決された。その際、カジノ解禁に伴う弊害について対策をとるべき旨の附帯決議が為されたものの、いかなる弊害・問題点があり、これらに対していかなる予防策・解決策を講じるべきかについて具体的な内容は示されておらず、「カジノ解禁」という結論ありきで強引に成立させられたものとの評価は免れない。

 当会の2014年(平成26年)5月29日付会長声明でも既に述べているとおり、カジノの解禁には、ギャンブル依存症患者の増加やこれに伴う多重債務問題の再燃、犯罪増加と周辺地域の治安悪化の問題、カジノを資金源とする暴力団対策やマネーロンダリング対策の問題、青少年の健全育成への悪影響等、看過できない問題点が多数含まれている。

 また、我が国では、歴史的にも度々禁止令が出され、現行刑法においても刑罰の対象とされている民間の「賭博」を、カジノ解禁推進法は、一定限度ではあるものの正面から認めようとするものであるから、その違法性を阻却すべき根拠については慎重な審議を要するものであった。
にもかかわらず、上記のとおり実質的な審議も経ず採決が強行されたものであり、我が国の刑事司法政策上においても看過し得ない重大な問題がある。
 
 一方、「カジノ解禁」を推進する柱となる経済的効果や地域振興についても,必ずしも期待どおりになるとは限らない。他国の先行事例では、たとえば、米国・アトランティックシティでは大型カジノ施設が相次いで閉鎖されており、韓国・江原ランド(カンウォンランド)では、治安、風俗環境の悪化とこれに伴う人口減少、ギャンブル依存症患者や多重債務を苦にした自殺者の増加等、地域経済と市民生活への深刻なダメージが指摘されている。
 特に、日本国民も利用できるカジノを解禁するならば、これによってもたらされる税収や雇用といった側面があったとしても、これに伴う弊害、すなわち地域住民を中心に増加するであろうギャンブル依存症や多重債務問題、犯罪の増加と治安の悪化、ひいては地域における市民生活それ自体が荒廃する懸念等、負の側面も慎重に検討しなければならない。
 そもそも、ギャンブル依存症対策については、カジノ解禁推進法とは無関係に推進されなければならない。現在検討されているとされるギャンブル依存症対策は、当該ギャンブルの運営主体に責任を持たせることが予定されているというもので、結局カジノを解禁することによって増加するギャンブル依存症の対策をギャンブルによって得た利益で賄おうとするものであり、本末転倒というほかない。
 経済の活性化は、ギャンブルではなく勤労によるべきであり、観光立国や地域振興は、カジノ解禁ではなく我が国の豊かな自然や文化と、その地域に住み、守り続ける人々の活発な交流によって推進されるべきである。

 よって、当会は、カジノ解禁推進法の成立に強く抗議するとともに、その廃止を求める。

2017年(平成29年)1月31日
札幌弁護士会
会長 愛須 一史

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