前のカテゴリへ | 一覧へ戻る | 次のカテゴリへ |
札幌弁護士会は、2004年3月、人権擁護活動の高揚に寄与することを目的として札幌弁護士会人権賞を創設し、人権擁護の分野において活動を行い、優れた業績を上げた個人、グループ又は団体を表彰させていただいております。
本年度も、地域社会で優れた人権擁護活動をしている方々を表彰させていただきたく、下記要領で募集いたしますので、皆様から積極的にご応募、ご推薦をいただきますようお願い申しあげます。
基本的人権の擁護と社会正義の実現は弁護士の使命であり(弁護士法1条)、札幌弁護士会は、その役割を果たすべく、法律相談センター、刑事弁護センター、高齢者・障害者支援センターなどを運営し、人権擁護委員会をはじめ、「消費者」「情報問題」「子どもの権利」「犯罪被害者」「公害対策・環境保全」「両性の平等」「民事介入暴力対策」などの委員会活動を行っております。
社会にはさまざまな分野において地道にたゆみなく人権擁護活動をされている方々が多数おられます。そのような方々に敬意を表すとともに、この賞の選考を通じて私ども自らの活動を顧みる機会ともしたいと考えております。
どうぞ、本賞の趣旨をご理解いただき、多数の方々に応募いただきますよう、また、推薦いただきますようお願いいたします。
札幌弁護士会
会長 三木 正俊
■対象者
人権の侵害に対する救済活動、人権思想の普及・確立のための活動、その他人権擁護のための活動を通じて優れた功績を挙げた個人、グループ又は団体(ただし、弁護士及び弁護士のみで構成されるものを除きます)に授与します。
本賞の対象者は、札幌地方裁判所の管轄内(石狩・空知・後志・胆振・日高)に住所、事務所又は活動の本拠を置く者とします。ただし、その活動が全国的又は国際的な広がりを持ち、本拠地が札幌地方裁判所管轄地域外であるものでも同地域内において活動を行う者は、本賞の対象者とします。
■応募・推薦方法
推薦(自薦又は他薦)により、受賞候補者を募ります。
受賞候補者を推薦いただく場合は、推薦の理由と活動実績の資料等を添付して、下記の「応募・推薦書」をダウンロードいただき札幌弁護士会宛てに提出してください。
応募の締め切りは、2008年(平成20年)7月15日(必着)となっています。
推薦いただいた方の中から、札幌弁護士会人権賞選考委員会で選考の上、受賞者を決定してご連絡いたします。受賞者決定は、9月中を目途としております。
受賞者には表彰盾と副賞(20万円)を贈呈いたします。なお、本賞は財団法人札幌法律援護基金のご協力を得ております。
会長 小寺 正史
2005年度人権賞には8団体の応募があり、選考委員会の厳正な選考を経て、「社会福祉法人浦河べてるの家。」を受賞者と決定いたしました。
以下に受賞者の活動内容、選考経過等をご紹介します。
「浦河べてるの家」は、浦河町に暮らす統合失調症等精神障害をかかえる当事者と町民有志によって開設された地域活動拠点です。1978年に浦河赤十字病院精神科の退院者が作った「回復クラプどんぐりの会』を中心にして精神科医やソーシャルワーカー等にも支えられながら発展してきました。2002年に『社会福祉法人浦河べてるの家』が設立され、小規模通所授産施設(2ケ所)、グループホーム(3ケ所)、共同住居(3ケ所)を運営しています。
浦河べてるの家では、精神障害をとりまく様々な課題を解決する主人公は病をかかえる障害者自身であるということを何よりも大切にし、「弱さを絆に」、「弱さの情報公開」、「三度の飯よりミーティング」、「昇る生き方から降りる生き方へ」等々を合言葉にして回復者自身がその返営と活助に取り組んでいます。
また、過疎化が進行する地城の厳しい現実の中で、障害者も地域住民と共に地域の課題を担い、地域経済の活性化に共に取り組むパートナーとなることを目指して、「社会復帰から社会進出へ」、「地域のために」等をキャッチフレーズに日高昆布の産地直送事業など多様な事業活動に取り組み、現在では地域経済の一翼を担うまでになっています。これまでともすると社会の片隅に追いやられ埋もれていた精神障害をかかえる人たちの声と存在を牡会に明らかにし、そのことを通じて、精神障害をかかえる人たちも固有の人生を生きようとする一人の市民であり、当たり前に人として尊重されるということを示してきました。このことが地域にもしっかりと受け止められ、現在では浦河町という地域社会全体が、「浦河べてるの家」の存在と活動を積極的に受け入れこれを支えています。
このような活動と実績が、人権の擁護という観点からも商く評価されるものと認められ、今回の受賞となったものです。
北海道子どもの虐待防止協会代表
(北海道大学大学院教育学研究科) 間宮 正幸
はじめに
市民運動が勢いをなくしています。私ども北海道子どもの虐待防止協会の活動も例外ではありません。実際、この10年にわたる活動は、困難の連続でした。
そのようななかで、今般、札幌弁護士会人権賞という栄えある賞を頂戴しました。このことによって私たちは第一に励まされる思いがしました。札幌市弁護士会の皆様には、このことをお伝えし、心より感謝申し上げます。
児童虐待による年間死亡者が40人以上という事態が続いています。2005年9月に、私たちは、一丸となって第11回日本子ども虐待防止学会(1、863名参加)の開催に尽力しましたが、一方で、その年度は道内の児童相談所への通告件数が増加に転じました。2006年度もさらに増加傾向が続いています。このような時に、事も有ろうに、受賞の翌日に、札幌市内で幼い姉妹の死亡事件が発生しました。誠に遺憾千万の思いであります。
これらの数字が、このところ定着してきたかにみえます。当事者はもとより、報道に接する人々の心にも痛みが走ります。国民の生活意識、あるいは広く人生観に与えるこれらの影響は軽視できないものがあるに違いありません。子ども虐待問題は、他の要因と絡み合って若年層へ深刻な影響を与えています。それは、日々若い大学生に接していてひしひしと伝わって参ります。子ども虐待は、未来を拓く子育てにかかわる問題として少しもゆるがせにできないのであります。
社会のなかで憂え考える人々の、このような意を受けて、北海道子どもの虐待防止協会は、民間の立場から「子ども虐待の防止活動」を自らの任務と心得て活動してきたものです。今般、札幌弁護士会会員各位とともに、あらためて立ち止まって考える機会を与えられましたので、ここに従来の活動を振り返りつつ、民間団体としての役割と今後の活動課題について検討してみようと思います。
北海道子どもの虐待防止協会が発足したのは1996 (平成8)年のことでありますから、10年と少し経過しました。はしめに、医療・保健の関係者、弁護士、教育関係者、宗教に携わる人々、研究者などが呼びかけました。時の動きでありましょうか、その当時は非常な熱気がこもっていました。時代が民間の活動を求めていたのでした。以来、まことに多くの人々に支えられて活動が継続されてきたものです。
私たちは、活動の目的を「子どもに対する虐待の防止」と明快に掲げ、電話相談・啓蒙活動・研究活動などの事業を行うものとしました。このとき、北海道児童相談所との間に交わされた『被虐待児童の相談援助に関する覚え書き』は、全国的にも注目されています。所轄機関との具体的な「緊張関係」を、はじめから有することになりました。
このことは、北海道子どもの虐待防止協会の活動の特徴の一面を示しているのではないかと思います。
毎月1回、私たちは、防止協会活動を責任をもって運営するべく運営委員会を開催しています。ここには、発足以来、今に至るまで、行政職員、研究者などに加えて弁護士がほぽ欠かさず参加して大きな役割を担ってきましたが、これは特筆すべきことです。
私たちが言う「緊張関係」とは、民間と行政機関の対立構造のことではなく、当事者への実質的な支援をもたらすものです。改正された「児童虐待防止等に関する法律」(平成16年)の第四条に、「関係省庁相互間その他関係機関及び民間団体の間の連携の強化、民間団体の支援」とあるように、また、「民間の力が発揮できるような連携が必要」(社会保障審議会児童部会「児童虐待の防止等に関する専門委員会報告書」(平成15年6月))とあるように、行政はさまざまなかたちで民間団体と連携し、ときに「支援」の観点をもってかかわることが求められています。
一方で、民間団体は自立した高い水準の人権意識を養い、市民運動団体として自ら矜恃を保たなければなりません。必要な程度の「緊張関係」を保ちつつ連携を可能にするのは、ほかならぬ『児童虐待防止等に関する法律』第一条(目的)に掲げられている子どもの人権にかかわる質の高い議論と実践の共有であります。この間、私たちはそのことを第一に学びました。その際に、弁護士である会員が果たした役割は大きなものでした。
民間の立場での限られた範囲の活動ではありますが、私たちは、このように考えて多くの人々と連携を保ちながら、子ども虐待防止というむずかしい領域でいくらかの貢献をしてきたのではないかと思っています。
2006 (平成18)年4月現在の会員数はおよそ380名で、最盛期からすると100名ほど会員の減少がみられます。実質的な会員数が維持できるか否かは、ただちに存続の鍵を握る財政的基盤にかかわりますが、会員一人ひとりにとっても、「年間会費5、000円」にはきわめて深い意味がこめられているに違いありません。それでも、毎年300名近い会員が会費を納入されていることは極めて重要な事実であります。これが私たちの力であり支えです。
会員構成を職業領域別にみると、実にはば広い領域の会員で成り立っていることが窺われます。なかでも、医療・保健の従事者が3割を占めているのは心強いものがあります。また、児童福祉関係者はもとより弁護士など法律・司法関係者が実際に大きな貢献を果たしていることも注目されます。毎月1回の定例運営委員会も、広い職域から選出された委員によって構成されています。この運営委員会には、医師、弁護士、保健師、児童福祉司、大学研究者など日々多忙をきわめる委員が、文字通り一日の仕事を終えて駆けつけます。とりわけ、時間的に余裕のない弁護士活動のなかでのこうした役割の成就には頭の下がる思いであります。
これらの人々が、北海道・札幌で、そして世界で起こっている子ども・家族の悲劇、子どもたちの権利に関する問題などを関達に議論し、その不備・困難にささやかであっても立ち向かおうとしてきました。この姿は「手弁当主義」と表現してもよい快いもので、7年前、これにはじめて接した私にも強い印象を与えました。また、ボランティア事務局員の使命感を帯びた職務ぶりと、電話相談員の貢献もまた会の活動の要であり、私たちの誇るべき財産であります。
北海道子どもの虐待防止協会には支部があります。北海道は非常に広域であるため、しだいにそのようなかたちをとることになりました。現在は、道北支部、釧根支部、十勝支部、道南支部があり、それらは連携を保ちながらも独自の活動を行っています。各支部がそれぞれに年次総会を開催し、また、会報を発行しています。組織上は、これらの支部会員は必ずしも当協会会員となっているわけではありません。前述のような会員の減少は、支部の発足と独自活動の高まりと無縁のことではありません。
これまでのおよそ10年を振り返ると、『児童虐待防止等に関する法律』(平成十二年)の施行に至るまでの期間は、電話相談活動と道内各地で開催された各種の研修会などでの講師活動が光っていました。毎週土曜日の電話相談は、数少ない貴重 な相談窓口として活用されてきました。また、後者は万難を排して非常に多くの機会をとらえ、弁護士や各種領域の研究者が年間に数十の講演会・学習会に参加してきたものです。北海道庁や北海道警察本部主催の催しでも発言の機会を与えられ、意見を述べてきました。むろん、毎年2回会議が行われる札幌市児童虐待予防・防止連絡会議(36団体)の一員でもあり、これにも、欠かさず出席しています。新聞・テレピ等でも北海道子どもの虐待防止協会のこれらの活動はしばしば報道されました。
このようにして、私たちの活動は北海道において子ども虐待に関する意識向上等に寄与したものと思います。これらが評価されて、2003 (平成15)年には、北海道小児保健研究会・永井賞を受賞しました。
振り返ると、前記法律施行後、北海道・札幌市の各地域で、各関係機関の体制の整備が進み、子ども虐待問題対応に変化がみられたことに気付きます。とりわけ、法律にもとづいて児童相談所や社会福祉事務所などの関係行政機関の対応が前進し、地域住民の意識向上も大きなものがありました。また、『児童福祉法』の改正に伴う児童家庭支援センターの創設(北海道内七箇所)によって、児童虐待に関連する電話相談がこれらのセンターでも担われることになりました。 24時間体制を敷く児童家庭支援センターで受け付ける相談件数は、北海道子どもの虐待防止協会の電話相談に比して格段の件数に及び、子ども虐待、子育て支援にかかわる地域住民の要求に答える新しい流れが形成されつつあります。
しかし、冒頭で述べたように、「通告」件数ひとつとっても決して減少しているわけではありません。課題は山積したままであります。
こうした経過に鑑みて、すなわち、電話相談と問題の啓蒙という役割の段階からそれぞれの現場での実際的な支援の内容が問われるに至っているという認識のうえに立って、私たちは新しい活動を模索しはじめ、さまざまに議論しました。
私自身は、滝川一廣大正大学教授(精神医学)よりご恵与いただいた著書のなかの「『防止運動』のいくつかの違和感について」と題する以下のような講話の視点が大切であると感じています。
「目先の危機感で『これは大変!』と騒いで法律を作ってしまう。少年法の改正でもそういう雰囲気がありましたね。それはやっぱり拙速で、問題解決に役だっていないと思うのですよ。『対策をした』という政策決定者や行政責任者のアリバイ作りに終り、現場は過剰負担を強いられ、そして『ブーム?』が去れば、そのまま捨ておかれます。アピューズという現象の全体像をもっと掘り下げて現実的な道筋を冷静に構想しなくてはなんにもなりません」という指摘です。確かに、全体像をもっと掘り下げて現実的な道筋を冷静に構想することが必要です。受賞式翌日に報道された札幌市内の死亡事件においても同様に考えます。
私たちはそのような立場から、2003 (平成15)年2月よりこれまで5回にわたって北海道社会福祉協議会と連携して「専門職のための児童虐待に関する研修会」を企画・実施してきました。これには合計で1、200名余の参加があり、道内の関係者の実際的な要求が実に高いものであることをあらためて知りました。第一線の実践者・研究者を招聘してのこの研修会のなかでは、弁護士である会員を講師として子どもの権利に関する研究も重視されています。直近の研修会では、新段階を迎えている性虐待に関する実際的な検討を行いました。
専門職研修だけでなく、一般参加が可能な小規模の研修会もたびたび開催して多くの参加者を得ていることも付加しておきます。これらの研修会の実績内容をよりすぐって編集したものを、『講演録』として刊行配布しましたが、これも好評を得ています。
このように、北海道・札幌市において、私たちは、子ども虐待問題に関する貴重な研修機会の提供に貢献したと思います。
述べてきたように、北海道子どもの虐待防止協会は、ささやかながらも多くの方々の支援を得てこれまで一定の活動を行ってきたと自負しています。民間であるからこそ可能なことも多いのです。また、しなければならないことも数多く残されています。
しかしながら、北海道・札幌市における子ども虐待防止の活動の今後を検討するとき、今の時点で、私たちにはいくつかの困難な課題があるとも考えており、運営委員会でもこの間ずっと議論を重ね、検討してきました。会費収入の不安定と寄付金依存の運営、事務局を担う人材の確保など具体的な制限は多々あります。
困難は多いのですが、冒頭に述べた如くに、私たちの存在理由、私たちが活動する意義があるとしたら、市民団体として「緊張関係」をつくりだすということにあるのかも知れません。世界史における子どもの人権獲得の歴史を覚めた目で見るとき、自ずとそこには緊張感がよぎるからです。また、そうでなくては問題に取り組むことができないのではないかと思います。長い歴史的観点からすると、子ども虐待の問題がこのように大いに議論され、報道され、研究されてきたことを評価してよい面があります。しかしながら、ようやくこの程度まできたのかというのが偽らざる歴史の段階です。
世界のなかでは計り知れない数の子どもの命が今日にも奪われている現実を直視しなければならないと考えます。受賞式に際して述べたところでありますが、パレスチナ人として冷静にこの問題を考えてきた文学者エドワード・サイード氏が語るように(3)、私たちの社会は今、filiation (血縁関係)の社会から、cultural afiliation (文化的非血縁関係)の社会に大きく移行しています。わが国における極端な少子化、シングル生活者の増加は、その問題をより現実的に鮮明に示します。日本の家族はいったいどこへ行くのか、という提起でもあります。
人々が支えあって生きていくのでなければ社会は維持しえないでしょう。しかし、その移行の過程で、子どもの存在や子どもの権利はどのように捉えられて行くでしょうか。子ども虐待の問題も、今後、この大きな歴史的な課題に直面するに違いありません。
そのように考えるならば、私たちのような民間団体は、「良好な家庭環境及び近隣社会の連帯」(『児童虐待防止法』第四条6)をつくりだす存在として、また社会の中で憂慮しながらともに考えてえて行動する「緊張」をつくりだす存在として、これからも重要な位置を保ち続けなければならないと考えています。
かかる点においても、札幌弁護士会人権賞の受賞の意味は大きなものです。誠にありがとうございました。
前のカテゴリへ | 一覧へ戻る | 次のカテゴリへ |