司法試験予備試験の受験資格制限等に反対する会長声明
- 司法試験を受験するためには法科大学院課程を修了するか、あるいは司法試験予備試験(以下、「予備試験」という。)に合格することが必要である。近年、予備試験志望者は増加の一途を辿り、その反面、法科大学院志望者が激減しており、受験者の法科大学院離れが顕著になっている。
そのため、現在、法曹養成制度改革顧問会議において、受験資格として、資力が乏しいことや社会人経験を要件とする案、一定年齢以上であることを要件とする案、法科大学院在学者を外す案が対応方策として検討されている。そして、国会議員・政党・経済界などからも、このような受験資格制限等の方策が提言されている。 - しかし、上記のような予備試験の受験資格制限等という手段では法科大学院志望者を回復させることはできない。
法科大学院志望者の激減を招く要因は、法科大学院課程を修了するために相当な費用と時間を要する上、それを乗り越えて法曹資格を取得しても就職することが困難な状況が存在することにある。法科大学院志願者を呼び戻すためであれば、こうした要因を抜本的に改善することが必要なのであって、予備試験の受験資格制限は有効な解決策となりえない。 - 現在、法曹を志す者は、法科大学院への入学を目指しつつ、あるいは法科大学院の課程を習得しつつ、予備試験に挑戦することが可能である。ところが、予備試験に受験資格制限を課することは、このような選択肢ないし将来設計の多様性を奪うため、法曹資格取得を尻込みさせる弊害をもたらす。
具体的には、法科大学院在籍者を受験させないとすると、法科大学院受験を前に、法科大学院卒業に要する期間と費用の負担を回避し、早期に就業等の見通しを立てようという誘因がはたらく。法曹を志す者が法科大学院を受験することなく、最初から予備試験を受験する者が増加することとなり、かえって法科大学院を敬遠させる。年齢制限を課すると、例えば、法曹を志すものの、一定年齢までにそれが叶わなければ、法曹外の就業先を確保したいという将来設計を有している志願者に対して、法曹資格取得の途を事実上封ずることとなり、若年層の法曹志望者を減ずる危険を招来する。所得制限については、所得基準の問題や財産状況の把握等の技術的不可能性から、そもそも制度設計当初からその導入が見送られたものである。
また、以上の実際上の弊害のほか、年齢や所得による制限については、国家試験である司法試験の受験資格は、試験の成績や能力等に係らしめるべきであるから、年齢や所得の多寡だけで、同資格を制限することには合理的な根拠を見出すことはできず、憲法上の疑義さえあるというべきである。
さらに、地方の法曹志望者の門戸を確保する観点からも問題である。昨今、地方の法科大学院が文科省による補助金の削減により相次いで募集を停止したが、司法試験合格率の低迷から全国の法科大学院の統廃合がさらに進められようとしている。このような統廃合によって、法科大学院への進学が困難な法曹志願者を潜在的に抱える地域が生ずることに鑑みると、予備試験の受験資格制限は、事実上、地方の法曹志望者の門戸を閉ざす結果も招く。 - 当会は、2013年(平成25年)3月27日、法曹志望者離れを招いている原因の1つに法科大学院制度のもとで受験資格が制限されていることを指摘し、司法試験受験要件から法科大学院課程修了を外すよう提言した。他方、法科大学院制度を法曹養成の中核であることを前提としても、法科大学院志望者の減少を招いた要因そのものを解決することなく予備試験の受験資格を制限しても、予備試験志望者がそのまま法科大学院を目指すことはない。
司法試験合格者の激増が司法修習生の就職難を招くなど法曹養成制度全体が機能不全に陥っており、その結果、法曹志望者自体が減少していること自体を直視するのであれば、法曹志望者の減少を招く予備試験の制限は背理である。
当会は、司法試験予備試験の受験資格制限等に強く反対する。
2014年(平成26年)6月18日
札幌弁護士会
会長 田村 智幸