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声明・意見書2007年度

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全被疑者の取調の全過程を録音・録画するための
立法措置を講じることを求める声明

2008年3月24日

札幌弁護士会 会長 向井 諭

1 わが国の取調べは、弁護人の立ち会いを認めず、かつ、録音・録画も原則として行ってこなかった。このように取調が完全な密室で行われてきたため、違法・不当な取調べが繰り返され、それによって得られた虚偽の自白によって、多くの冤罪が生み出されてもきた。
  これは遠い過去の話ではなく、今現在も横行している捜査の実態なのである。
2007年だけでも、全国各地の3件の事件でそのことが明らかにされている。すなわち、無実の者が虚偽の自白により有罪判決を受け、刑に服していたことが明らかになった強姦、強姦未遂事件(富山県・氷見事件)、被告人の多くの者が虚偽の自白を強いられ、6人もの人々が違法・不当な取調べに耐えかねて虚偽の自白をしていたことが認定され12名の被告人全員に対する無罪判決が言い渡された公職選挙法違反事件(鹿児島県・志布志事件)、任意取調べの名のもとに深夜に及ぶ17日間の取調べを受け、犯行を認める虚偽の上申書を書かされ、裁判所からも、取調官の強制と誘導によって書かされたもので重大な違法性があると厳しく指弾されて、無罪判決が言い渡された連続殺人事件(北方事件)により明らかにされている。これらの事件は幸いにして違法な取調が後日明らかにされ、誤りが是正された事件であるが、他にも違法捜査を立証し得ず有罪が確定した冤罪事件が多数存在していると考えられている。
  密室での取調に依存したわが国の刑事手続きが破綻していることはもはや疑う余地がない。

2 このような違法・不当な取調べと、虚偽の自白による冤罪を防ぐためには、取調べの全過程を録画・録音する方法による、いわゆる「取調の可視化」が必要不可欠である。取調の全過程を録音・録画することによって、取調の内容が事後的に検証可能な状態になるため、捜査機関が違法・不当な取調べができなくなるだけでなく、自白の任意性・信用性をめぐる争いがほぼなくなることは、諸外国の例がこれを示している。また、このような取調の全過程の録音・録画によって、捜査に支障を来したとか治安が悪化したという例は聞かない。

3 2009年5月までに実施される裁判員裁判では、市民にわかりやすい迅速な審理が求められる結果、これまでのように、自白の任意性・信用性をめぐって、長期間の審理をすることは許されなくなる。
  最高検察庁は、こうした流れを背景に、2008年3月21日、前年5月から開始した、「裁判員裁判対象事件における被疑者取調べの録音・録画の試行」の対象事件を原則として裁判員裁判対象事件全件とする旨を発表し、警察庁も、2008年1月24日、氷見事件及び志布志事件を踏まえ、「警察捜査における取調べ適正化指針」を発表し、「捜査部門以外の部門による取調べに関する監督」などにより取調べに対する監督の強化等を図る方針を明らかにしている。
  しかしながら、最高検察庁の方策は、録画・録音する事件でも、その範囲を取調過程の一部に限るという限定的なものに過ぎない点で極めて不十分であり、警察庁の方針に至っては、警察内部による監督に過ぎず、可視化の必要性が最も高い警察官による取調の可視化に踏み込んでいない点で論外というほかない。
このことは、最高検察庁や警察庁が、問題を矮小化して、捜査方法の現状維持を図ろうとしており、被疑者・被告人の人権問題、冤罪の防止の問題として全く考えていないことを示している。

4 被疑者に対する違法・不当な取調及び虚偽自白による冤罪を根絶し、裁判員裁判を適正・円滑に実施するためには、全ての被疑者の取調べの全過程を録音・録画して、取り調べ内容を検証可能なものとすることが不可欠である。当会は、速やかに、全ての被疑者の取調の全過程を録音・録画するための立法措置を講じることを求める。

以 上

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