2008(平成20)年3月24日
北海道知事 高橋はるみ 殿
札幌弁護士会
会長 向井 諭
第1 意見の趣旨
第2次消費生活相談体制整備推進計画に下記事項を明記すること。
- 消費生活相談推進員体制については、北海道内各市町村の消費生活相談に関わる人材育成及び現場における支援のため、各市町村の身近な相談支援体制として位置付け、存続させること。
- 北海道内の各支庁の消費生活相談体制においても、消費生活の相談に関わるあっせん等を積極的に行うこと。
- 支庁相談体制の重要性に鑑み、各支庁における消費生活相談推進員体制については、常勤・複数体制とし、予算の増額などの処置も含め、抜本的に強化すること。
第2 意見の理由
- 消費生活相談推進員の存続が暫定的に決まった経緯
北海道は、平成17年1月、支庁における消費生活相談窓口のあり方について北海道消費生活審議会に諮問したが、当会は、平成17年4月27日に支庁相談窓口(地域相談所)の廃止に反対の意見書を北海道に提出した。
支庁における地域相談所を廃止することについては、当会のみならず、北海道消費者協会、市町村長、市町村議会議長等からの反対がなされたことを受け、北海道は、これに代えて消費生活相談推進員を設置することとし、事実上、支庁における相談体制は存続することとなった。
しかしながら、北海道は、平成19年12月の消費生活審議会において、消費生活相談推進員を第2次消費生活相談体制整備推進計画(以下、「第2次推進計画」という。)においては廃止(終了)する方針であり、その旨を第2次推進計画に明示することを報告した。廃止時期は平成21年3月との報道もなされた。
この廃止問題は、上記審議会のみならず道議会においても審議されたが、いずれにおいても強い反対意見が出されたことを受け、北海道は、今般、平成21年3月での廃止は撤回し、当面の存続が決まった。その結果、第2次推進計画では、廃止について明示することは見送られた。
- 第2次推進計画における支庁相談体制の欠如
この度、北海道が消費生活相談推進員の早期廃止を見送ったことは評価できるが、これはむしろ当然のことというべきである。他方で、第2次推進計画において、支庁における消費生活相談体制の項目が全て削除されたことは、極めて遺憾である。
当会は、これまでも北海道における消費生活相談体制の充実を主張してきた。それは札幌市を中心とした道央圏のみならず、地方を含めた北海道全域の充実を求めるものである。
北海道の広域性にかんがみれば、地方においては、消費生活相談推進員の存続で足りるものではなく、以下に述べるとおり、なお一層の拡充が必要である。したがって、当会は、支庁における相談体制の充実が第2次推進計画の中に明確に位置づけられなくてはならないと考えるものである。
- 道内における消費生活相談の実態
(1) 相談処理の水準
第2次推進計画では、すべての各市町村に相談窓口が設置され、専門の相談員を配置している自治体が増えてきていること、消費者相談について概ね処理できる地域に居住している住民が88.7%に至ったことから、各市町村相談体制は充実してきたとして位置付けている。
しかし、実際には、概ね処理できるとされる地域は、札幌を中心とした道央圏、その他都市部を中心とした地域に偏っており、全道を見る限りは、広範な地域が取り残されている。
また「概ね処理できる」とされている場合も、どの程度の処理ができるかという北海道からの問い合わせに対し、各市町村が自らの判断で回答したものであって、概ね処理できるとされるための客観的基準や根拠に乏しく、その水準は担保されていない。
また、各市町村の相談窓口は、相変わらず他の職務との兼職が多く、その職務に専念しうる体制とは言い難い。
(2) 不十分な相談員養成体制
市町村の相談担当者の養成については、第2次推進計画においても引き続き、人材の育成・確保に努めていくものとされており、その実践が強く求められるところである。
もっとも、消費生活相談業務の対応能力は、処理マニュアルのみで対処することに限界があるため、一朝一夕に身に付くものではなく短期間で習得できるものでない。ましてや各担当者について、他部門との短期間での配置換えを前提としているのであれば、なおさらその習得は困難である。
消費者事件においては、悪徳業者とのやり取りが求められる場面が想定されるが、百戦錬磨の悪徳業者との対応では、実際に事件を処理するなどの実践経験が必要であり、またその実践のためには適確な指導の下で行われる必要があり、経験を積むことが重要である。
これらの能力を身につけるためには、研修制度や処理マニュアルだけでは限界があることは明らかであり、身近に経験者を配置することが不可欠である。
このように研修や処理マニュアルだけでは、各市町村の担当者を養成することは困難と言わざるを得ないにもかかわらず、今般第2次推進計画においても、人材の育成についての北海道の役割としては、研修の実施にとどまっており、かかる消費生活相談の特殊性を十分に認識しているのか疑問を感じさせる。そして相談処理の支援としても、マニュアルの作成等の他は、道立消費生活センターと市町村による共同処理の仕組みづくりの検討などにとどまっている。しかし、これも北海道の広域性を踏まえると、果たして札幌所在の消費生活センターのみで十分な共同処理体制が作りうるか疑問がある。
適切な相談担当者の養成体制が作れなければ、市町村の処理能力の向上は期待できず、実質的に地方の相談体制が切り捨てられる結果になりかねない。
(3) 広域相談体制について
第2次推進計画では、富良野市を中心とした広域相談体制について、地域独自の動きとして紹介されている。
各市町村による広域相談体制についても、個別の市町村で対応が困難な場合の1つの合理的な対応策ではあるが、各市町村に委ねているだけでは進まないことももちろんである。市町村同士の連携については、例えばゴミ収集問題などにみられるように、すべて円滑に連携ができているわけではなく、費用の負担割合など利害が衝突する場合なども決して少なくない。
富良野市を中心とした広域相談体制にしても、それが充実しているのか否かについては、その検証も含めて慎重に判断すべきであるし、また、「他の地域でも広域化の検討の動き」があるというが、支庁相談窓口廃止を前提にした広域相談体制の推進という議論であれば、なお慎重な議論を要するところである。
- 今後のあるべき体制
(1) 被害の実態
近時の消費者被害は、第2次推進計画が指摘しているように、被害が広域化していること、郡部で高齢化が著しく、高齢者からの相談が増加する傾向が見られる。
相談体制が弱く情報伝達の遅い地域ほど、悪徳業者によって狙われやすい傾向があることは明らかであり、地方を中心とした消費生活相談体制を強化することが求められている。
(2) 支庁相談体制の強化-あっせん機能の充実-
現在、各支庁における相談体制については広報がなされておらず、地域住民に周知されていない。
各市町村の相談窓口では、近隣住民は利用しやすい反面、市町村窓口では、市町村の規模が小さくなればなるほど、相談者が担当者と顔見知りであることも少なくなく、相談しづらい状況も生じている。
その場合にこそ、地域における身近な拠点としての支庁における相談が重要なのであるから、各支庁における消費生活相談についても広報により地域住民にその存在を周知し、自ら相談を受け、またあっせん等の対応を行うことが求められている。
もとより、事情によっては各市町村での対応でも支障がない場合など、直接の担当を各市町村に委譲することも考えられようが、そのような場合であったとしても単にたらい回しにすることなく、各市町村の担当者との連携を取った上で対応することが求められる。次項で述べるとおり、各市町村の対応能力には差があるのであるから、その点についても十分に考慮の上、対応することが求められる。
(3) 支庁相談体制の強化-人材の育成-
消費生活相談を充実させるための中核は、人材育成である。各市町村での人材育成(ないしは専門相談員を雇用することも含め)は、規模の小さな市町村では限界があることは否めない。それ故にこそ、北海道がリーダーシップを取って、各地域において相談体制を強化する必要がある。市町村に身近な各支庁こそがその拠点として最適であり、支庁に配置された生活相談推進員が各市町村担当者の良き助言者・指導者となりうるのである。
前述したように、支庁制度は、現在ある行政単位としては、広すぎも狭すぎもせず、もっとも適当な行政単位であると考えられ、地域住民によっても承認されてきたものである。
ところで、現在の消費生活相談推進員は、非常勤(週2日、しかも1日は巡回)であり、広域体制を担うには極めて不十分と言わざるを得ない。また地域に根差した消費生活相談推進員ということであれば、地元における後継の育成が不可欠であるが、現在の非常勤体制では、その育成も困難と言わざるを得ない。
消費生活相談推進員は、今後とも存続させることはもとより、常勤ないしそれに近い形で、複数体制を取るべきである。複数体制にすることによって、後継の育成が可能になるし、各市町村との連携強化も実効的になる。
また消費者被害を防ぐためには、地域住民への日々の啓蒙活動が重要となる。支庁相談体制は各地域において、啓蒙活動の拠点となる。
(4) 適正な予算処置を講ずること
もとより、消費生活相談体制を充実させることは、一定の予算を伴うものである。しかし、消費者被害の解決、また消費者被害を出さない取り組みの強化は、不健全な消費者被害を防止し、さらには、道民の財産の不当な流出を防止することによって健全な消費活動に資するのであって、その経済効果は予算を費やす以上のものがある。
また、道民の財産を守ることは北海道の道民に対する責務であり、道民の生活を支える最低限のセーフティネットでもある。
従って、北海道は、必要な予算処置を行うべきである。
以上