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昨日(2010年7月28日)、政府は、東京拘置所において、2人の死刑確定者に対し死刑を執行した。政権交代により昨年9月に千葉景子法務大臣が就任して以来、初めての執行である。
報道によれば、千葉景子法務大臣は、記者会見の中で、死刑執行に立ち会ったこと、東京拘置所の刑場を今後公開し、法務省に存廃を含めた死刑制度を考える勉強会を立ち上げる方針である旨を述べているが、政権交代が行われて以後も、政府内での議論がすすんでいない中で、突然の執行がなされたことは、誠に遺憾であり、改めて政府に強く抗議する。
2008年10月、国連人権規約委員会は、わが国の人権状況に関する審査の総括所見において、死刑制度につき、政府は世論を理由に避けるのではなく死刑廃止を前向きに検討すること、死刑確定者の処遇及び高齢者・精神障がい者への死刑執行に対し、より人道的な対応をとること、執行日時を事前に告知すること、恩赦・減刑・執行の猶予等が利用可能となること、必要的上訴制度を導入し、再審・恩赦の請求による執行停止効を確実にすること、再審弁護人との秘密接見を保障することを、日本政府に勧告した。
日弁連も、2002年11月に出した「死刑制度問題に関する提言」の中で、時限立法として「死刑執行停止法案」を提案している。同法案は、政府が、死刑に関連する情報を最大限開示し、死刑の犯罪抑止力効果及び停止期間中の犯罪情勢の推移と死刑執行停止の相関関係の調査・検討等現行死刑制度の持つ複数の諸問題について検討審議を尽くした上で、死刑制度の存廃の検討・見直し等国民的議論がなされるのに必要な相当期間、死刑確定者に対する死刑執行を停止すること、との内容を含んでいる。
わが国は、今回の2人を含め、過去約3年半の間に37人の死刑を執行した。しかし、その間、国連の勧告、死刑制度問題に関する提言にあるような死刑制度の改善や議論が進んでいるとは言えない状況にある。
昨年5月21日に裁判員裁判が施行されたことに伴い、一般市民が、死刑について議論すべき深刻な事件に直面することとなった。しかし、2009年10月、すでに死刑が執行された飯塚事件について、DNA鑑定に誤りがあったことを理由とした再審請求がなされ、今年4月27日、最高裁判所第三小法廷で、高等裁判所の死刑判決の破棄・差戻判決が下されているなど、わが国では、死刑判決をめぐる問題が繰り返し浮上している。
そのような時期に、死刑執行がなされたことは、死刑廃止の国際的な潮流にも逆行するものと言わざるを得ない。
当会は、過去の死刑執行に対しても繰り返し会長声明を出してきたが、今回改めて政府に対し、国連の決議や勧告を真摯に受け止め、わが国における死刑確定者の処遇、死刑執行対象者の決定手続と判断方法、死刑執行の具体的方法と問題点などに関する情報を開示するとともに、死刑制度の存廃に関する国民的議論が尽くされるまでの期間、死刑の執行を停止するよう重ねて強く要請する。
2010年7月29日
札幌弁護士会 会長 房川 樹芳
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