法曹養成制度検討会議に対し、パブリック・コメントの結果を全面的に公開し、これを尊重する最終的なとりまとめを求める声明
- 去る5月30日に開催された法曹養成制度検討会議(以下「検討会議」という)の第13回会議においては、同検討会議の「中間的取りまとめ」に対する意見公募(以下「本件パブリック・コメント」という)に寄せられた意見の概要(以下「意見の概要」という)が「事務局提出資料」として配布され、法務省のWEBサイト上でも公開されている。
しかしながら、この「意見の概要」では、寄せられた意見の総数(3,119通)と、「中間的とりまとめ」の各項目ごとの「この項目に関する意見数」と「意見の例」ないし「理由の例」を並列的に列挙するだけで、どのような意見がどの程度の数寄せられたのかが、全く明らかにされていない。
とりわけ、「中間的とりまとめ」第3の1(3)の「法曹養成課程における経済的支援」の項目では、実に2,421通(寄せられた意見全体の約78%)もの意見が寄せられているにもかかわらず、「意見の概要」においては、「司法修習生に対する経済的支援策については、修習資金の給費制(一部給費制を含む。)の実現を求める意見があった一方、貸与制はやむを得ないが、修習専念義務の緩和を求めるものなどが見られた。」と要約されるにとどまっている。
また、これに続く「意見の例」においても、
- 司法修習生に対する給費制を復活させるべきである(一部給費を求める意見、給費制と貸与制とを組み合わせるべきとする意見もある。)。
- 司法修習生に対する貸与制を維持すべきである。
- 司法修習生に対する現行貸与制を維持するのであれば、修習専念義務を緩和し、いわゆるアルバイトをすることを認めたり、職を有したまま司法修習を受けられるようにすべきである。
本件パブリック・コメントの中でも最も国民の関心が寄せられた「法曹養成課程における経済的支援」の項目につき、上記のように意見等の具体的比率を明らかにしないままに「意見の概要」及び並列的に列挙された「意見の例」のみを発表することは極めて問題であり、恣意的な公開方法であると言わざるを得ない。
そもそも、本件パブリック・コメントは、行政手続法に基づき命令等の制定に先立って必要的に行われたものではなく、「任意の意見募集」として行われたものであるとはいえ、行政手続法に基づいて行われる場合と同様に「電子政府の総合窓口(e-Gov)」のWEBサイト(http://www.e-gov.go.jp/)を利用して行われたのであるから、結果等の公示方法も同様に行われるべきである。
過去のパブリック・コメントの結果公示を見ても、例えば「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会 中間取りまとめ」に対する意見募集の結果公示(公示日は2010年11月11日)では、「概要」として、各選択肢ごとに寄せられた意見の数と団体・個人別の内数を明記し、主な理由例を記しているのみならず、「別紙」として、団体からの意見(52通)は顕名、個人からの意見(96通)は匿名で、各選択肢ごとの回答とこれに付された理由を一覧表に並べており、非常に公開度が高い。
本件パブリック・コメントは、法曹養成制度のあり方全般に関わる政策形成の過程で行われるものであり、国民全体の利害にかかわる重要なものである。
とりわけ法曹養成過程における経済的支援策については、谷垣法務大臣自ら、本件パブリック・コメントが実施される直前の平成25年4月3日、衆議院法務委員会において、「受験生も結構ですし、大学院生あるいは若手法曹に十分御意見を寄せていただければというふうに期待をしているところでございます。」と答弁したこと、実際に、直接の当事者である法科大学院生や司法試験受験生をはじめとする多数の国民から意見が寄せられたことに鑑みれば、寄せられた意見の総数のみならず主な意見、理由ごとの内数も正確に公開されて然るべきである。 - 検討会議の第13回会議においては、「意見の概要」のほか、「最終とりまとめ」についての「座長試案」が「司法修習生に対する経済的支援について」、「法科大学院に対する法的措置等について」、「司法試験について」の3項目にわたって示された。
このうち、「司法修習生に対する経済的支援」にかかる「座長試案」は、
「1 分野別実務修習開始時における転居費用(旅費法に準じて移転料を支給する)」
「2 集合修習期間中の入寮について(入寮希望者のうち通所圏内に住居を有しない者は入寮できるようにする)」
「3 修習専念義務について(兼業許可に関する従来の運用を緩和し、司法修習生が休日等を用いて行う法科大学院における学生指導をはじめとする教育活動により収入を得ることを認める)」
という3項目からなるものであり、要するに、現行の「貸与制」はそのまま維持した上、個々の司法修習生の間に生ずる不均衡につき必要最小限の配慮をするにとどめ、司法修習生全体への経済的支援策としては、修習専念義務についての「運用」を緩和して各自が休日等に教育活動のアルバイトをして収入を得ることを認めることによって対処するというものである。
しかしながら、司法修習生は、司法に携わる者に求められる中立性・公平性を維持する上でも、また、分野別実務修習は各分野ごとにわずか2か月、合計8か月と短く、この間実のある臨床教育が受けられるようにするためにも、その期間は文字通り修習に専念する必要があるのであるから、修習専念義務自体の緩和はまさに本末転倒というべきものである。また、修習に専念するためには、「休日」といえどもアルバイト等にいそしむ余裕はないはずであり、「兼業許可にかかる運用を緩和してアルバイト等を認めること」は実質的には修習専念義務の緩和を意味するのであって、このような座長試案を示した見識が問われるというほかない。
そして、前記のとおり、本件パブリック・コメントの結果についての公開度が極めて低いことと併せ考えれば、この「座長試案」が、本件パブリック・コメントの結果を考慮することなく、当初からの方針通りに作成されたものでないかとの疑いすら抱かせるものといわざるを得ない。
それゆえ、当会としては、検討会議における「最終とりまとめ」の作成に向けた手続そのものにつき、強い憂慮と懸念を表明するものである。
2012年7月、衆参両院での裁判所法等改正案の可決成立に際し、「我が国の司法を支える法曹の使命の重要性や公共性に鑑み、高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成するために、法曹に多様かつ有為な人材を確保するという観点から、法曹を目指す者の経済的・時間的な負担を十分考慮し、経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないようにすること」等について、新たに設けられる合議制の組織に「特段の配慮」を求めた附帯決議がなされた。検討会議は、これを踏まえて、法曹養成制度関係閣僚会議の下、設置されたのであるから、検討会議での議論や取りまとめは、附帯決議の趣旨を十分に尊重して行われるべきであることは当然である。
検討会議の各委員は、「最終取りまとめ」の作成作業に当たっては、「座長試案」に拘束されることなく、本件パブリック・コメントに寄せられた意見の分布状況と内容、総務省の政策評価書、世論の動向にも十分耳を傾けた上、たとえ司法制度改革審議会意見書に示された施策であっても改めるべきところは改め、将来に禍根を残さないような法曹人口・法曹養成制度をめぐる改革の方向性を示すことを強く希望するものである。
2013年6月6日
札幌弁護士会 会長 中村 隆