労働者派遣法改正案に反対する会長声明
- 政府は、本年3月11日、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下、「改正案」という。)を閣議決定した上で、国会に提出し、通常国会での成立を目指している。
改正案は、従来の専門26業務による区分を廃止した上で、派遣会社で無期雇用されている派遣労働者については、派遣期間の制限を行わないこと、派遣会社で有期雇用されている派遣労働者については、これまで業務単位であった上限3年の派遣期間の制限を人単位に変更することとしている。 - しかしながら、改正案は、労働者派遣法の制定以来の基本的な理念である「常用代替防止」の考えを実質的に放棄して、派遣先において派遣労働者を永続的に利用することを可能とするものであり、労働者全体の雇用の安定と適正な労働条件の確保が損なわれる結果をもたらすものである。
すなわち、派遣労働者と直接雇用労働者との均等待遇が確保されておらず、派遣労働者が直接雇用労働者よりも低い待遇におかれている現状において、派遣労働者の期間制限が撤廃されれば、企業が直接雇用労働者を派遣労働者に置き換えていくことは容易に想定されることである。加えて、派遣会社で無期雇用されている派遣労働者だからといって雇用が安定しているわけではない。厚生労働省「労働者派遣契約の中途解除に係る対象労働者の雇用状況について」(2009年5月1日)によれば、派遣先から派遣契約を打ち切られた時に、派遣会社で無期雇用されている派遣労働者でも、70%以上が派遣会社から解雇されている。
また、派遣雇用で有期雇用されている労働者については、これまでは業務単位での規制であったため、ある業務において3年間以上派遣労働者を働かせることができなかったが、人単位の規制に変更することで、3年を超えて無期限で派遣労働者を使い続けることができることになる。3年を超えて派遣労働者を働かせる場合、その職場の労働者代表等の意見聴取が要件とされているが、ここで、義務付けられているのは意見聴取であり、その意見に拘束されるわけではなく、かかる規制に実効性があるかは甚だ疑問であり、この関係でも、企業が直接雇用労働者を派遣労働者に置き換えていくことは容易に想定されることである。 - 当会は、2009年7月27日、労働者派遣法の抜本的な改正を求める会長声明を発し、働いても人間らしい生活を営むに足りる収入を得ることができないワーキングプアが急増している原因の一つに派遣労働者の増大があり、その規制をするために、派遣労働の対象業務を臨時的かつ専門性の高い業務に限定する等の労働者派遣法の抜本的な改正を提言した。しかしながら、この5年間の間で、ワーキングプアの解消に進むどころか、格差の拡大が進行している。改正案は、かかる事態を一層深刻化させるものであり、当会は、強く反対するともに、派遣労働者の雇用安定を確保し、常用代替防止を維持するための労働者派遣法改正を行うよう求める。
以上
2014年(平成26年)4月30日
札幌弁護士会
会長 田村 智幸