声明・意見書

死刑執行に関する会長声明

2015年12月18日,東京拘置所及び仙台拘置支所において,それぞれ1名の死刑が執行された。死刑の執行は,2015年6月以来であり,第2次安部内閣以降では8回目で,合計14人となる。 日本弁護士連合会は,2015年12月9日,岩城光英法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して,死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し,死刑制度に関する世界の情勢について調査の上,調査結果と議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止すること等を求めていた。その直後,この要請を無視してなされた死刑執行を到底容認することはできない。極めて遺憾であり,強く抗議する。

今回執行された死刑確定者のうち,東京拘置所で執行された1名は,裁判員裁判の死刑判決による初めての死刑執行であり,社会的影響は大きい。岩城光英法務大臣は,裁判員裁判事案であるか否かに関わらず「慎重な検討」を経た旨説明するが,裁判員経験者からは,死刑制度に関する情報公開が少なく,国民的議論が低調な状況下において極刑判断を強いられる苦悩を指摘する意見もあるところであり,就任後僅か2ヶ月足らずで,「慎重な検討」がなされたのか大いに疑問がある。また,本件は,控訴審係属中に自ら控訴を取り下げたことにより死刑が確定したものであるが,裁判員の量刑判断を事後的に審査する仕組みが欠如しており,死刑という特別な刑罰に関する手続保障が不十分といわざるを得ない。日本政府は,2014年7月,国際人権(自由権)規約委員会から,日本の死刑制度には,死刑判決に対する必要的な上訴制度がないこと等,手続面において,国際人権基準に照らし大きな問題があると批判されたばかりであり,控訴取り下げは死刑執行の根拠たりえない。

さらに,2014年11月に実施された死刑制度に関する世論調査では,「死刑もやむを得ない」との回答が80.3%であったものの,そのうち,40.5%は「状況が変われば,将来的には,死刑を廃止してもよい」としており,国民の多数が死刑制度を支持しているとは言い難い状況にある。死刑制度に関する国民的関心は,2014年3月の袴田事件再審開始決定を契機に高まりを示しており,もはや,死刑の是非に関する国民的議論を回避することは許されない。

当会は、今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、あらためて死刑の執行を停止し、死刑制度全般に関する情報を広く国民に公開し、死刑制度の廃止について全社会的な議論を直ちに開始することを求めるものである。

2015年(平成27年)12月21日
札幌弁護士会
会長  太田 賢二

その他のページ