いわゆる共謀罪法案の国会への再提出に反対する会長声明
近時の新聞報道によると、政府は、かつて、3度提出し、いずれも廃案となった共謀罪の創設に関する法案を、来年1月から行われる通常国会に提出することを検討しているという。
政府が新たに提出を予定する法案(以下「新法案」という。)では、「組織犯罪集団に係る実行準備行為を伴う犯罪遂行の計画罪」を新設し、その略称を共謀罪ではなく「テロ等組織犯罪準備罪」とするという。
かつて廃案になった共謀罪創設に関する政府原案は、対象犯罪については単に「団体の活動」と規定していたため、処罰範囲が広がると厳しく批判されていた。
これに対し、新法案は、対象を「組織的犯罪集団」と定め、また、その定義について、「目的が4年以上の懲役・禁錮の刑が定められている罪を実行することにある団体」と規定したという。
さらに、新法案では、犯罪の合意に加え「犯罪の実行のための資金又は物品の取得その他の準備行為が行われたとき」にはじめて、処罰できるとしたという。
しかし、こうした修正を加えた新法案であっても、かつて批判された危険性は何ら払拭されない。
まず、「組織的犯罪集団」との要件に関しては、そもそも定義が曖昧であること及びその該当性の判断を第一次的には捜査機関が行うことから、十分な制限にはなり得ない。
また、「準備行為」との要件に関しても、その内容及び範囲が具体的でなく限定性に乏しい。たとえば「共謀」に関与した者が、生活費に用いる目的でATMで預金を引き出した場合であっても捜査機関によって「(犯罪実行のための資金調達としての)準備行為」と判断される危険性を否定できない。このように新法案の「準備行為」は、犯罪と無関係な行為までも含むものとされかねず処罰範囲を限定する機能を有さない。
さらに、「テロ等組織犯罪準備罪」の対象犯罪については、「目的が4年以上の懲役・禁錮の刑が定められている罪」が対象とされている。その結果、対象犯罪数は600以上にのぼり、公職選挙法違反の一定の犯罪など、テロ犯罪や国際的組織犯罪などとの関連性を認め難い犯罪も多数含まれる。新法案の処罰対象犯罪は不当に広すぎ、人権侵害を招く危険性が非常に大きい。
また、2006年、民主党(当時)が提案し、一度は与党も了解した修正案において要件とされていた、対象犯罪の越境性(国境を越えて実行される性格)を、新法案は要件としていない。
これらの点などから、新法案は、批判されてきた過去の法案の問題点がほとんど改善されていないというべきである。
当会は、過去、2005年7月20日、2006年4月26日及び2015年10月5日に共謀罪法案に反対する会長声明を発していたが、今回、改めて、政府が新法案を提出することに、強く反対する。
2016年(平成28年)12月14日
札幌弁護士会
会長 愛須 一史