声明・意見書

最低賃金額の大幅引上げと全国一律最低賃金制度の実施及び中小零細企業への実効的な支援等を求める会長声明

  1.  現在、北海道の最低賃金額は、889円です。この金額は前年から28円引き上げられたものの、全国加重平均である930円を大きく下回っています。この水準ではフルタイム(1日8時間、週40時間、月173.8時間)で働いても、各種控除前の名目給与金額で月収15万4508円、年収約185万円にしかなりません。これでは労働者が賃金のみで生活を維持することは難しく、安定した生活を送ることはできません。
     日本の最低賃金は国際的に見ても低位であり、フランス、ドイツ、イギリス、韓国等の多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の大幅引上げが実現しています。
     また、円安や原油価格の高騰に加え、ロシアのウクライナ侵攻の影響もあり、食料品や光熱費などの生活関連品の価格の上昇に拍車がかかると見込まれます。
    労働者の生活を守り、新型コロナウィルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額を大きく引き上げることが重要です。
     さらに、岸田内閣総理大臣は、2022年6月7日に閣議決定されたいわゆる「骨太方針2022」において、「できる限り早期に最低賃金の全国加重平均が 1000円以上となることを目指し、引上げに取り組む」として、政府として引上げに前向きに取り組む姿勢を見せています。
     もとより、時間額1000円という金額であっても、1日8時間、週40時間働いたとしても、各種控除前の名目給与金額で月収約17万4000円程度、年収約209万円にしかならず、いわゆるワーキングプアと呼ばれる水準(年収200万円以下)をわずかに超える程度で、単身者にとってすら十分な額ではありません。まして、子どもを育てていくためには、この程度の金額では足りないことは明らかです。

  2.  最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正されていないことも重大な問題です。最も高い東京都で時間額1041円であるのに対し、最も低い高知県と沖縄県は時間額820円であり、221円の開きがあります。
     最低賃金の高低と人口の転出入には相関関係があり、最低賃金の低い地方の経済が停滞し、地域間の格差が縮まるどころか、むしろ拡大しています。都市部への労働力の集中を緩和し、地域に労働力を確保することは、地域経済の活性化という点で極めて有効です。
     地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都道府県間でほとんど差がないことが明らかになっています。そもそも、最低賃金は、「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生活費を下回ることは許されません。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきです。

  3.  他方で、最低賃金の大幅引上げと全国一律最低賃金制度の実現のためには、十分な中小企業支援策が不可欠です。最低賃金の引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施していますが、利用件数はごく少数であり、十分に機能していません。我が国の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるよう、中小企業に対する社会保険料の事業主負担部分の減免、消費税等各種公租公課の減免、現行の「業務改善助成金」をさらに使いやすい制度に改善すること、申請しやすい補助金の支給を行うこと、中小企業とその取引先企業との間での公正取引の確保等の充分な支援策を講じることが必要です。
  4.  さらに、中央最低賃金審議会及び北海道地方最低賃金審議会は、最低賃金額についての実質的な議論を行う審理を例年非公開としていますが、審理の適正を担保するために、審理を全面的に公開すべきです。
     重要部分を含めて全面的に公開することにより、適正な審議が担保されるとともに、今日益々重要となっている最低賃金の決定過程を国民が知ることができます。公開に、特段の支障もありません。現に、鳥取地方最低賃金審査会においては、審理の全面公開が実現しています。他の審議会でも実現できない理由はないはずです。

  5.  以上により、当会は、日本国憲法第25条の生存権の理念等に照らし、「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」(最低賃金法第1条)といった最低賃金法の趣旨を実現するとともに、北海道の地域経済の健全な発展を持続させるため、中央最低賃金審議会、北海道地方最低賃金審議会及び北海道労働局長に対し、最低賃金額の地域間格差を解消し、可及的速やかに北海道の最低賃金額の時間額1000円を超える大幅な引上げを求めます。また、審理の適正を担保するため、最低賃金審議会の審理を全面的に公開することを求めるとともに、政府においても、中小企業への充分な支援策の実施とともに、早急に全国一律最低賃金の実現に向けた検討を開始するよう求めます。

     

    2022(令和4年)6月24日
    札幌弁護士会
    会長 佐藤 昭彦

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