「大崎事件」再審棄却決定に関する会長声明
2022(令和4年)7月15日
札幌弁護士会
会長 佐藤 昭彦
鹿児島地方裁判所(中田幹人裁判長)は、2022年(令和4年)6月22日、いわゆる大崎事件第4次再審請求事件につき、再審請求を棄却した。これに対し、弁護団が即時抗告を行ったところである。
大崎事件は、1979年(昭和54年)10月12日に、鹿児島県大崎町で発生し、原口アヤ子氏(以下、「請求人」という。)が同氏の元夫、義弟を含めた計3名で共謀し、別の義弟を殺害したとして、主犯格とされた請求人に懲役10年の有罪判決が言い渡された事件である。
この事件は、客観的な証拠が乏しく、共犯者とされた親族の知的障がいへの配慮がないまま獲得された「共犯者の自白」が主な証拠とされたものであり、えん罪事件である可能性が高い。
請求人は、過去3度にわたって再審請求を申し立て、第1次再審請求に続き、第3次再審請求、同即時抗告(福岡高等裁判所宮崎支部)の各審理において、3度にわたり再審開始決定が出されたが、検察官の特別抗告を受けた最高裁判所第一小法廷(小池裕裁判長)が、2019年(令和元年)6月25日、再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却する形で再審の門を閉ざした。
今回の棄却決定の内容には多くの疑問点が残るものであったが、請求人は、長年にわたって無実を訴え、現在95歳であるところ、一旦出された決定が最高裁で覆され、今回の決定内容も含めて、その都度司法の判断によって翻弄されてきた。えん罪被害者である請求人に対しては、早期に再審が開始されるべきである。
また、大崎事件に関する現在までの混迷は、刑事訴訟法が定める刑事再審手続が極めて不十分なものであることに起因するものである。
翻って、大崎事件第2次再審請求の即時抗告審(福岡高裁宮崎支部)では、裁判所が、検察官に対し、積極的に書面による証拠開示の勧告を行い、これにより多数の証拠開示が実現していた。しかし、現行刑事訴訟法の再審規定は、戦前からほとんど変更がなく、たった19条の条文で審理が行われており、証拠開示に関する規定さえない。このように、再審手続自体、裁判官の対応によって大きく手続及び判断が異なることは、無辜のえん罪被害者を早期に救済すべき憲法上の要請を没却せしめるものである。
加えて、大崎事件では、即時抗告審も含め3度にわたり、再審開始決定が言い渡されたが、いずれも検察官による即時抗告及び特別抗告により、再審開始にたどり着けない状況が続いている。この点も、刑事手続として極めて異常な状況と言わざるを得ず、請求人は高齢に達し、生きている間に救済されるかさえ心もとない状況に置かれている。
当会は、請求人を含めたえん罪被害者の早期救済の実現を求めるとともに、刑事訴訟法を速やかに改正し、再審手続における証拠開示のあり方を根本的に見直すとともに、再審開始決定に対する検察官による不服申立制度を廃止し、無辜のえん罪被害者が、誤った判断から一日でも早く救済されるための再審規定の抜本的な改正を、強く要請する次第である。
以上