声明・意見書

札幌弁護士会 第一次男女共同参画・性の多様性尊重推進基本計画 ~誰もが自分らしく活躍できる弁護士会であるために~

2022(令和4)年11月25日

札 幌 弁 護 士 会

第1 総論

 当会は、2021年5月28日の定期総会において、「札幌弁護士会男女共同参画・性の多様性尊重宣言」を採択し、男女共同参画及び性の多様性尊重の推進を実現するための「基本計画」を策定し、総合的かつ継続的な取組を行うことを宣言した。
 弁護士会が男女共同参画・性の多様性尊重を推進しジェンダー平等な弁護士会を実現することは、会員である弁護士個人が性別や性自認・性的指向を問わず個性や能力を発揮して自分らしく活躍するために不可欠であるとともに、司法におけるジェンダー・バイアスを排除し、司法への市民の信頼を高めるとともに、社会における多様な法的ニーズへのアクセスを確保することにつながる。さらに、弁護士・弁護士会が率先して取組を進めることで、ジェンダー平等な社会の実現に寄与することになる。
 本計画は、上記宣言で掲げた次の活動指針について、今後5年間(2023年度から2027年度)の目標及び具体的施策を定めるものである。本計画は、2027年度に目標の到達状況と施策の取組状況を検証し、見直しを行う。

  1.  政策・方針決定過程への女性会員の参画推進
  2.  仕事と生活の両立を支援する制度の整備
  3.  性別による差別的取扱い、ハラスメント(いずれも性的指向及び性自認に関するものを含む)の防止のための制度の充実・創設
  4.  性別を問わず多様な分野で活躍する環境を整えるための取組
  5.  男女共同参画及び性の多様性に関する理解を深める研修・啓発の充実
  6.  女性弁護士数の増加、女性弁護士割合の拡大の推進
  7.  男女共同参画、性の多様性を尊重する社会の実現に向けた対外的発信や取組

 男女共同参画・性の多様性尊重の推進は、札幌弁護士会全体として取り組むべき重要かつ喫緊の課題であり、本計画は、会長を本部長とする男女共同参画・性の多様性尊重推進本部が中心となって取り組むこととする。

第2 当会の現状分析

  1.  当会の女性会員の状況
    (1)女性会員の割合(別表1)
    (2)修習期別の女性割合(別表2)
  2.  副会長・常議員に占める女性会員の割合(別表3)
  3.  正副委員長に占める女性会員の割合(別表4)
  4.  委員会委員に占める女性会員の割合(別表5)

第3 目標と施策

  1.  政策・方針決定過程への女性会員の参画推進
    【目標】

    (1)2027年度までに女性会員が会長に就任することを目指す。

    (2)毎年度、副会長に1人以上の女性会員が含まれることを目指す。

    (3)毎年度、常議員に占める女性会員の割合を、20%(5人)以上とすることを目指す。

    (4)委員会委員長(本部長・座長・事務局長含む)の総数に占める女性会員の割合を、2027年度までのできるだけ早い時期に15%以上として、その状態を継続する。

    (5)委員会副委員長(副本部長・事務局次長含む)の総数に占める女性会員の割合を、20%以上として、その状態を継続する。

    (6)すべての委員会に1人以上(10人以上の委員会には2人以上)の女性会員が含まれるようにし、その状態を継続する。

    (7)会長、副会長、常議員、正副委員長及び委員会委員に女性会員が就任し、会務を担いやすい環境を整備する。

    (8)日弁連の副会長・理事に当会の女性会員が就任しやすい環境を整備する。

    【具体的施策】

    目標 具体的施策
    (1)
    (2)
    (3)
    (4)
    (5)
    (6)
    (7)

    ① 女性会員が会長・副会長、常議員、正副委員長に就任することについて、障壁となっている課題を調査・分析し、具体的施策を検討する。

    ② 理事者と女性会員との意見交換会、女性会員同士の経験交流会等の機会を設け、女性会員の意見を会の施策に反映させる。

    ③ 女性の会長・副会長、常議員、正副委員長の経験談をインタビュー等により会員に情報共有し、ロールモデルを提供する。

    ④ 弁護士会総会、常議員会、委員会等の定例会議の開催時間をできる限り日中に行う。

    ⑤ IT技術による会務の合理化について、具体策を検討する。

    ⑥ 女性会員の参画推進に関する(1)~(6)の目標について、実数値を年度末に取りまとめ、定期総会において全会員向けに報告し、目標達成に向けた意識の醸成、会員各自の更なる取組を促す。

    (1)
    (2)
    (7)

    ① 会長・副会長経験者の座談会、インタビュー等を行い、理事者業務の内容・やりがいを会員に共有する。

    ② 会長・副会長業務の負担軽減・合理化への課題を確認し、改善策を検討する。

    ③ 会長・副会長就任者に対する会からの支援の拡充を検討する。

    (3)
    (7)

    ① 常議員選出にあたり、女性会員への呼びかけを行う。

    ② 常議員会の合理化等、女性会員も参加しやすい環境整備を図る。

    (4)
    (5)
    (7)

    ① 各委員会の正副委員長選任にあたり、女性会員の割合を意識した配慮を行う。

    ② 各委員会に対し、会議の合理化等、女性会員も参加しやすい環境整備を要請する。

    ③ 女性の正副委員長の経験交流会等、経験・情報共有や相談ができる機会を設ける。

    (6)
    (7)

    ① 各委員会の委員選任にあたり、女性会員の割合を意識した配慮を行う。

    ② 各委員会に対し、会議等の合理化等、女性会員も参加しやすい環境整備を要請する。

    (8)

    ① 日弁連の(クオータ制を含む)副会長・理事への当会女性会員の就任を支援する施策について検討する。

    【基本的考え方】

    (1)日本社会の総人口に占める女性割合は50%を超えており、それを前提とすれば、弁護士会においてもこれを反映した会員構成となることが、社会における多様な人々の法的ニーズに応え、市民からの信頼を得ることにつながる。すなわち、本来、弁護士会の女性会員の割合、そして、会長・副会長、常議員、各委員会の正副委員長に占める女性会員の割合も、本来的には50%を超えるべきことを念頭に置く必要がある。
     政府も、同様の認識から、2020年代の可能な限り早期に指導的地位にある女性の割合を30%程度とし、2030年代には、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを掲げており(内閣府第5次男女共同参画基本計画)、弁護士会に対しても、クオータ制を含めた積極的是正措置(ポジティブ・アクション)による意思決定過程への女性会員の参画拡大を求めている。

    (2)政府が中間的に掲げている30%という数値は、1990年の「国連ナイロビ将来戦略勧告」によって採用された数値で、集団の中で存在を無視できないグループになるための量的分岐点があり、それが30%程度だとするクリティカル・マスの概念などに由来するものである。女性割合が30%を超えたとき、男性主導の組織文化に変化が生じ、女性と男性の多様性のみならず、女性の中にある多様性も意思決定に反映され、多様なニーズの取り込みと組織文化の変化につながるとされている。
     当会においても、男女共同参画の目的であるジェンダー平等や多様性確保のためには、政策・方針決定過程において、まず30%という数値目標を掲げ努力することが肝要であると認識している。

    (3)もっとも、当会における女性会員の割合は、本年5月1日時点で約16%であり、近年女性割合は高まっているとはいえ、50期以降に限定しても約18%(60期以降に限定すると約20%)である(別表1,2参照)。この状況で、環境整備が不十分なままに、目標値に30%を適用すれば、一部の女性会員の急激な負担増につながるおそれがある。したがって、第1次基本計画においては、漸進的な数値目標を掲げ、環境整備とともに取組を進めることが相当である。

    (4)以上を前提として、政策・方針決定過程への女性会員の参画推進に関し、本計画において定めた目標について、個別に説明する。
     当会の会長・副会長、常議員、各委員会の正副委員長及び各委員会委員に占める女性会員の数・割合は、「第2 当会の現状分析」記載のとおりである。

    ア 目標(1)について
     会員数500人以上の単位会において、女性会員が会長に就任したことがない単位会は札幌のみである。会長については、その職責の重さや、人格・識見の高さ、弁護士として相応の経験年数が求められることなどから、本来的には、性別に関係なく適任者が就任すべきである。しかしながら、これまで当会の女性会員にも、そのような適任者が存在したと思われるにもかかわらず、会長に就任することがなかったのは、いわゆるガラスの天井(グラス・シーリング)が存在すると考えるべきである。女性会員の会長就任を目標に掲げることで、女性会員が会長へ就任することへの障壁・課題を分析し、環境整備や障壁除去への取組を推進することにつながると考える。したがって、本計画の最終年度である2027年度までに、女性会員が会長に就任することを目指すことを目標と掲げることとした。

    イ 目標(2)について
     副会長(定員4人)については、令和2年度以降、1人は女性会員が就任するという状態が続いている(別表3参照)。しかし、それ以前は、会長を含め執行部に一人も女性会員がいない年度がほとんどであった。このため、副会長については、この3年間続いている、1人は女性会員が就任する状態を維持し、さらにその人数を増やす努力をすべきである。

    ウ 目標(3)について
     常議員(定員25人)については令和3年度は5人(20%)、令和4年度は6人(24%)、女性会員が就任している(別表3参照)。常議員会は、本会の運営や規則制定に関する事項等を審議し、役員はその議決を尊重して職務を行うこととなっている。したがって、常議員には、会員の多様な意見を反映させるため、年齢、修習期、性別等について、多様性が求められる。会内の女性会員の割合は、約16パーセントであるが、マイノリティである女性会員の意見を反映させるためには、クリティカル・マスの概念に従い30%を達成することが強く求められる。
     他方、常議員については拘束時間が長く業務やプライベートとの両立がしづらいことなどが指摘されており、環境整備が不十分なままに高い目標値を設定することは、若手会員など一部の女性会員に負担が集中することが懸念される。このため、目標値は令和3年度以降継続している20%以上を維持することとした。

    エ 目標(4)(5)について
     委員会委員長の女性割合については、徐々に増加し、令和4年度は初めて10%を超えたものの、委員長を中心的に担っている40期から60期の女性割合である約15%をかなり下回る。他方、副委員長の女性割合については、令和2年度、令和3年度は16%前後で推移していたが、令和4年度は初めて20%を超えており、副委員長を中心的に担っている50期から70期の女性割合である約18%を上回る結果となっている(別表4参照)。これは、女性会員の意欲や理事者による意識的な配属によるものと思われ、この取組をさらに推進していくことが望まれる。
     以上により、委員長については中心的に担う修習期(40期~60期)の女性割合と同程度である15%、副委員長については中心的に担う修習期(50期~70期)の女性割合より少し高い数値である20%を目標とする。

    オ 目標(6)について
     近時3年間の委員会委員に占める女性会員の割合は、別表5記載のとおりである。
     各委員会委員については、その活動内容から女性会員の求められる数が多い委員会があること、会員の希望を尊重する必要があること等から、一律に高い数値目標を掲げるのは必ずしも相当ではない。他方で、委員会活動も会の活動として男女共同参画や多様性が求められる。このため、各委員会に1人以上(10人以上の委員会では2人以上)の女性会員を委員とすることを目標に掲げる。

    カ 目標(7)について
     2021年度に実施した「参加しやすい会務の在り方に関するアンケート」では、当会の会長・副会長、常議員、各委員会の正副委員長に占める女性会員の割合が低いことの原因として、女性会員の人数が少ないこと以外に、「女性の方が家事・育児・介護等の負担が大きく、会務との両立が困難だから」(回答数の65.2%)、「女性の委員長、理事者が少なくロールモデルがいないから」(回答数の40.6%)、「女性会員の平均年収が男性会員に比べて低い傾向があるから」(回答数の21.7%)等の回答が寄せられた。
     家庭における性別役割分業や所得格差自体、解消されるべきものではあるが、現実として女性の方が家事・育児・介護等の負担が大きいことや、所得格差があること、さらには女性割合を高めるために家事・育児・介護等の負担のない女性会員へ負担が集中する懸念があることを踏まえ、政策・方針決定過程への女性の参画拡大にあたっては、女性会員に対して過度な負担を強いることにならないよう十分配慮し、参画促進のための環境整備を進めることが必要である。
     また、女性に限らず、正副会長を引き受けづらい理由として、「通常業務との両立が難しそうだから」(回答数の80%)、「会務により夜間帯や長時間の拘束が生じそうだから」(回答数の55%)、「家事・育児・介護等の負担があり時間が取れないから」(回答数の47.5%)、「経済的負担が大きそうだから」(回答数の22.5%)等の回答が寄せられた。上記環境整備は、女性に限らず、男性にとってもワーク・ライフ・バランスを図りながら会務に参加しやすい環境を整備することにつながるものと考える。

    キ 目標(8)について
     札幌弁護士会は、会員数800人以上を有する中規模会であり、北海道弁護士会連合会の中では最大の会員数を有する単位会として、日弁連の副会長・理事を輩出する責任がある。また、日弁連では、2018年度から副会長クオータ制、2021年度から理事クオータ制を導入している。日弁連の男女共同参画を推進するため、クオータ制を含む日弁連副会長・理事に、当会の女性会員が就任しやすい環境を整備しなければならない。
     当会は地理的に東京から遠く、男女を問わず、就任する会員の負担が大きいが、女性については家庭における役割が大きい傾向にあることや男女の所得格差があることから、会として就任を支援する施策を特に検討すべきである。

  2.  仕事と生活の両立を支援する制度の整備
    【目標】

    (1)会員が心身ともに健康に、弁護士業務・会務と出産・育児・介護を含む生活とを両立するために役立つ既存の制度を周知し、利用を促進する。

    (2)既存の制度の課題を調査・分析し、改善策を検討する。

    (3)仕事と生活の両立に関する情報収集・発信や、イベントの開催等を通じて会員の意識の変革を促進する。

    (4)仕事と生活の両立に関する会員同士の情報交換を促進する。

    【具体的施策】

    目標 具体的施策
    (1)

    ① 会員の出産・育児に関する当会の支援制度の情報を定期的に会員に提供する。

    ② メンタルヘルスについてのサポート制度を周知する。

    (2)

    ① 育児中の会費免除制度の期間延長等、出産・育児に関する支援制度の拡充や制度の利用を促すための改変を検討する。

    ② 介護と仕事の両立について、会員の置かれた状況、支援への要望等について実態調査をする等の取組に着手する。

    ③ 介護を理由とする会費減免制度等、介護に関する支援制度の導入を検討する。

    ④ 動画のオンライン視聴による研修参加をより拡充する。

    ⑤ テレワークのノウハウを収集し、会員に情報提供する。

    (3)

    ① 出産前後のサポートが充実している事務所、男女問わず働きやすさを追求している事務所などの好事例を紹介する等、ワーク・ライフ・バランス推進に資する情報を提供する。

    ② 会員(性別を問わないが特に男性会員)向けのワーク・ライフ・バランス及び長時間労働改善等に資するような講演会等を行う。

    (4)

    ① 子育て交流会の実施、介護の情報交流会の実施、メーリングリストの積極的な活用を推進する等、育児・介護を含むプライベートやワーク・ライフ・バランスについての会員間の情報交換の場を設ける。

    【基本的考え方】

    (1)ワーク・ライフ・バランスを健康的に図ることは、会員が性別に関わりなく、その個性と能力を十分発揮しながら、充実した仕事(弁護士会の会務を含む)を継続して行う基礎であり、男女共同参画推進の不可欠の前提となるものである。会員が性別に関わりなく、ワーク・ライフ・バランスを健康的に図るためには、男女が共同して育児や介護に取り組む必要がある。しかし、その実現は、個々の会員の自助努力だけでは困難であり、当会全体として取り組むべき課題といえる。

    (2)また、ワーク・ライフ・バランスの総合的な調和を図ることが社会全体や組織全体で取り組むべき課題であることが広く認識されるよう、啓蒙・啓発を図るとともに、両立支援を具体的に推し進める。

    (3)会員が育児と両立しながら会務・業務を継続していくために、保育に関わる支援を工夫すると共に、育児期間中の会費免除制度のあり方についても検討を加える必要がある。当会では産前産後・育児期間中の会費免除制度を設けて会員の支援にあたってきたが、これまで会費免除制度の要件や成果についての十分な検証はなされてこなかった。産前産後・育児期間中の会費免除制度をより有意な制度とするべく、これまで会費免除制度を利用した会員、育児期間はあったが利用しなかった会員などに対する調査・分析をし、制度の見直しを検討する。

    (4)出産前後のサポートが充実している事務所、男女問わず働きやすさを追求している事務所などの好事例(ロールモデル)を紹介する等、ワーク・ライフ・バランス推進に資する情報を提供する。

    (5)加えて、今後、高齢化が進んでいくことが予想されていることから、介護を担う会員に対する支援についても取り組んでいく必要がある。

    (6)委員会活動や研修等の開催方法(リアル、オンライン、あるいはリアルとオンラインの併用、録画映像の放映や貸出等)や開催時間、開催回数等、委員会活動や研修の実施方法についての検討を行う。

    (7)育児や介護と仕事との両立、弁護士活動の基礎となる健康、特にメンタルの健康に向けた取組の検討を行い、その施策の周知を図る必要がある。

  3.  性別による差別的取扱い、ハラスメント(いずれも性的指向及び性自認に関するものを含む)の防止のための制度の充実・創設
    【目標】

    (1)当会の個々の会員及び当会の活動の場における性別による差別的取扱い、ハラスメント(いずれも性的指向及び性自認に関するものを含む)(以下「差別的取扱い等」という。)の根絶を目指し、会員・会職員・法律事務所職員等関係者の意識や理解をよりいっそう高めるため、差別的取扱い等の防止に関する広報及び研修等の体制を強化する。

    (2)差別的取扱い等の防止に関する規則に基づく相談制度等、既存制度の周知・利用促進及び更なる改善を行い、差別的取扱い等の被害者の迅速かつ適切な救済を目指す。

    (3)差別的取扱い等の実態及び課題について、調査・分析・検討し、差別的取扱い等の防止及び被害救済について、より効果のある改善策や新たな施策の導入を検討する。

    【具体的施策】

    目標 具体的施策
    (1)
    (2)

    ① 差別的取扱い等の防止や既存の制度について、具体的事例や最新の情報などを充実させた定期的な広報を行う。

    ② 夏期研修、倫理研修、職員研修等で、差別的取扱い等の防止や既存の制度に関し、具体的事例や最新の情報などを充実させた研修を定期的に実施する。

    (3)

    ① ハラスメントの実態や課題の把握のために、アンケートその他の方法による調査や意見交換を行う。

    ② 差別的取扱い等の防止に関する制度が利用しやすい制度になるよう、各種規則の改定を含め、更なる改善や新たな制度の導入を検討する。

    ③ 就業条件や就業環境等について、性別による差別的取扱い及び実質的不平等に関する実態や課題の把握のために、アンケートその他の方法による調査や意見交換を行う。

    ④ 調査や意見交換の結果を踏まえて、具体的な施策の要否や内容について検討する。

    【基本的考え方】

    (1)性別による差別的取扱い及びセクシュアル・ハラスメントは、いずれもジェンダー・バイアスに関わる重大な人権侵害である。また、力関係の格差に乗じて行われるパワー・ハラスメントも、ジェンダー・バイアスが根底にあることも多く、セクハラ等と複合的に生じやすい。セクハラ等及びパワハラの根絶は、会を挙げて取り組むべき課題である。さらに近年は、性的指向や性自認に関するハラスメント(SOGIハラ)にも注目が集まっており、これに対する適切な対応が求められている。

    (2)当会は、2013(平成25)年に「性別による差別的取扱い等に関する規則」を制定し、2019(令和元)年には、差別的取扱い等に性自認・性的指向に関する差別やハラスメントを含むことを明らかにする改正を行った。また、2022(令和4)年には、同規則を改定して「差別的取扱い及びハラスメントの防止に関する規則」とし、パワー・ハラスメント及び妊娠・出産・育児・介護等に関するハラスメントについても、規制の対象とした。しかし、これらの規則に基づく相談制度等は十分周知・利用されているとはいいがたく、既存制度の周知・利用促進及び更なる改善が必要であるとともに、既存制度にとらわれない差別的取扱い等の防止のための効果的な施策を実施していく必要がある。

    (3)差別的取扱い等の防止にかかる実効性を高めていくにあたっては、相談制度等の整備・拡充のほか、一人一人が自らに関わる問題として主体的な意識をもって差別的取扱い等の理解を深めていくことが極めて重要である。そのきっかけとなるべく、会として充実した情報提供や研修の実施等に努める必要がある。

    (4)また、差別的取扱い等の防止に関し、法律事務所における業務や会務活動等の場に関わる全ての人が差別的取扱い等の被害を受けることのないよう、当会として、十分に自覚を持ち、会員以外の関係者(会職員、法律事務所職員、司法修習生等)を含めて、その責務を果たしていく必要がある。

    (5)これまで当会において、会員や会職員の就業条件、就業環境等に関し、性別による差別的取扱い及び実質的不平等が生じていないか否かについて、十分な調査や施策の検討等がなされてきたものとは言い難い。他方で、現実に、妊娠・出産・育児・介護などの様々なライフイベント等に関連して、就業上の不合理な格差が生じている可能性が懸念されるところである。そこで、会として、この点の対策や支援の要否・内容について検討が求められるところである。

  4.  全ての弁護士が多様な分野で活躍する環境を整えるための取組
    【目標】

    (1)会員の誰もが、性別や性的指向・性自認にかかわらず活躍できるよう、性別等に応じた旧来の固定観念にとらわれないよう意識の見直しを促す。

    (2)職務上の氏名使用における業務に関する障壁を取り除き、職務上の氏名を業務において不自由なく使用できるようにする。

    (3)女性会員の業務分野の拡大を推進する。

    (4)女性会員の悩みの共有や解決方法についての情報交換に資するよう、女性会員のネットワークづくりを進める。

    (5)性を理由とする業務妨害(ジェンダー・バッシング等)への対応を検討する。

    【具体的施策】

    目標 具体的施策
    (1)

    ① 会員の様々な働き方やライフスタイルに応じたキャリア形成に関する情報を収集し、会員や司法修習生等へ提供する。

    ② 会員や弁護士会事務職員に性的マイノリティが存在することを前提として、設備や制度について見直しを検討する。

    (2)

    ① 2021年度に実施した「職務上の氏名に関するアンケート」の結果を調査・分析するとともに、アンケート結果・分析結果を会員に向けて情報共有し、職務上氏名利用に関する情報を会員へ提供する。

    ② 不都合事例を集積する。

    ③ 上記アンケート結果及び報告を受けた不都合事例を踏まえて関係機関と意見交換を行い、課題を調査・分析し、改善に向けての働きかけを行う。

    (3)

    ① 「女性弁護士社外取締役名簿」事業の導入を検討する。

    ② 女性会員と他の女性士業・女性起業家等との交流会の実施を検討する。

    (4)

    ① 女性MLの存在を広報し、活用する。

    ② 小規模な懇親会の開催等により、副会長経験者、ベテラン、中堅・若手等、様々な女性会員が交流できる場を設ける。

    (5)

    ① 関連委員会と連携し性を理由とする業務妨害について調査し、対策を検討する。

    【基本的考え方】

    (1)近年、弁護士の業務取扱分野が広範化し、弁護士の社外役員への就任、企業内弁護士、行政機関内弁護士など、弁護士の働き方にも多様性が生じている。性別や性的指向・性自認にかかわらず、全ての弁護士が活躍の場を広げるためには、働き方の選択肢を広げる必要がある。会員の様々な働き方やライフスタイルに応じたキャリア形成に関する情報を収集し、会員や司法修習生等へ情報提供する。
     また、当会は、2019年度に、弁護士及び弁護士会事務職員について、同性カップルやその子も福利厚生の対象とするように規則の改正を行ったが、さらなる制度面での改革や弁護士会館1階のトイレに「誰でもトイレ」等の表示を設置することなど設備面での見直しも含めて、会員及び弁護士会事務職員に性的マイノリティがいることを前提とした検討を進める。

    (2)職務上の氏名を利用している会員は、例えば、金融機関において職務上の氏名を名義とする口座開設をする際に金融機関に拒否される場合や証明書類以外の書類の提出を求められる場合がある等職務上の氏名利用の障壁を感じている。2021年4月1日時点で、日弁連会員のうち、職務上の氏名を利用している会員の87%が女性会員であり(2021年4月1日時点:職務上氏名利用者~女性3090名、男性460名、会員数~女性8349名、男性34881名)、女性会員のうち、約37%が職務上の氏名利用者である。職務上の氏名使用者は、女性に大きく偏っており、女性会員の約37%が職務上の氏名を利用している現状に照らせば、職務上の氏名利用の障壁は、多くの女性弁護士の活躍を阻むものといえる。そこで、職務上の氏名利用の障壁を解消する取組が必要であり、また、職務上の氏名利用に関する情報について、会員への情報提供が必要である。

    (3)「第68期弁護士の就業状況に関する調査結果について(男女別)」によれば、「すべての収入から経費(事件費用、事務所経費等)を除いた月平均額について総合的に見れば、男性よりも女性の方が比較的低い傾向があるように思われる」と分析されている。また、日弁連が2020年に実施した「弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査」によると、女性会員の事業(営業等)収入の平均値は、男性会員に比べ47%(中央値では54%)で、所得合計額の平均値では、女性会員は、男性会員の61%(中央値では73%)であった。2010年の調査に比べ、平均値については僅かではあるが男女の差が拡大しており、中央値については男女間の差は僅かではあるが縮小している。やはり、収入に関し、男女間での格差の存在を否定できない。
     (1)記載のとおり、弁護士の業務取扱分野が広範化し、弁護士の社外役員への就任等活動分野や働き方にも多様性が生じている。他方で、企業においても、指導的地位への女性の参画を拡大することは、社会の多様性と活力を高め、経済を発展させる観点や、男女間の実質的な機会の平等を担保する観点から重要視されており、企業役員における女性の割合が着実に増えてきている。そこで、「女性弁護士社外取締役名簿」事業の導入を検討し、弁護士の業務分野の拡大を図る。

    (4)女性会員は、(5)記載の業務妨害等、業務上の同じ問題や悩みを抱える場合がある。他方、女性会員が少数であることから、勤務事務所に同性の弁護士がいないことも多く、悩みの共有や解決方法の情報交換を行う幅広いネットワークを持ちにくい。このため、女性MLの活用や女性会員同士の懇親会の開催等により、交流の場を設定し、相互に援助しあうことで、会員が多様な分野で活躍しやすくする。

    (5)被疑者・被告人による弁護人に対するセクシュアル・ハラスメントや離婚事件等において性差別意識を背景として女性弁護士が業務妨害に遭うことが全国的に報告されている。全ての弁護士が多様な分野で活躍するには、性別や性自認・性的指向を理由とする業務妨害を調査し、対策を検討し実行していくことが必要であり、検討にあたっては、関連委員会と連携することも必要である。

  5.  男女共同参画及び性の多様性に関する理解を深める研修・啓発の充実
    【目標】

    (1)男女共同参画及び性の多様性の尊重を推進するため、当会における男女共同参画及び性の多様性の尊重についての理解・関心を会員に促す意識啓発の取組を行う。

    (2)司法におけるジェンダー・バイアスや性的指向・性自認に基づく差別に対する会員の意識啓発の取組を行う。

    (3)基本計画の実施状況を検証し、その結果の報告、情報発信を行う。

    【具体的施策】

    目標 具体的施策
    (1)

    ① 会員向けに、男女共同参画、ハラスメント防止、ワーク・ライフ・バランス、性の多様性等に関する研修、勉強会、講演会、シンポジウム等を企画、実施する。

    ② 女性会員・育児をしている会員・介護をしている会員・勤務弁護士等による意見交換会等を継続的に企画・実施する。

    ③ 定期的なニュースの発行、会報への記事掲載等をして、男女共同参画・性の多様性に関する広報・情報提供をする。

    ④ 会内行事・規定・書面等において、性的マイノリティに関する不適切な企画・記載・運用等がなされていないか確認·検討を行う。

    (2)

    ① 会員向けに、司法におけるジェンダー・バイアスや性的指向・性自認に基づく差別に関する研修、勉強会、講演会等を実施する。

    ② 定期的なニュースの発行、会報への記事掲載等をして、司法におけるジェンダー・バイアスや性的指向・性自認に基づく差別に関する広報・情報提供をする。

    (3)

    ① 基本計画の実施状況を検証、分析し情報の集積を図り、その発表・発信を行う。

    【基本的考え方】

    (1)基本計画を実行していくためには、会員の男女共同参画及び性の多様性の尊重に関する理解が必要である。また、多様な働き方を尊重しながら、会員が十分に仕事・会務活動を行える環境整備を進めていくためには、様々な立場にいる会員(女性会員・育児をしている会員・介護をしている会員・勤務弁護士等)による意見交換会等を継続的に行い、会員間の埋解を深めていく必要がある。このため、男女共同参画についてのシンポジウム・研修などを定期的かつ持続的に実施するとともに会員への情報提供に努める。
     さらに、様々な会内行事・規定・書面(印刷物やパンフレット等)等において、性的マイノリティに関する不適切な企画・記載・運用等がなされていないか、不必要に男女二元的な自己の性別の申告欄が多用されていないか等について、順次、確認·検討を行い、これらの作業を通して、性の多様性を尊重する意識改革を図る。

    (2)司法におけるジェンダー・バイアス、性的指向・性自認に基づく差別等を是正するため、研修等を実施し、会員の意識啓発を推進する。

    (3)上記(1)、(2)の意見交換会、シンポジウム及び研修の実施にあたっては、当会の実情に応じた効果的な研修の開催方法を検討し、より多くの参加者が得られるように努力をする。

    (4)当会における男女共同参画及び性の多様性尊重を推進し実効性あるものとするため、基本計画の実施状況を検証し、定期総会においてその結果を報告するとともに、会報、男女共同参画・性の多様性尊重推進本部ニュース(GEP(Gender Equality Promotion)NEWS)等において、情報の発信を行う。

  6.  女性弁護士数の増加、女性弁護士割合の拡大の推進
    【目標】

    (1)当会の女性弁護士数の増加及び女性弁護士割合の拡大を実現する。

    (2)女性弁護士の就労継続に関する障壁を取り除き、女性弁護士の離職を防ぐとともに、女性有資格者の弁護士登録を支援する。

    【具体的施策】

    目標 具体的施策
    (1)
    (2)

    ① 弁護士に占める女性割合の拡大が喫緊の課題であることを会員の共通認識とするため、会報、GEPニュース等を用いた広報その他の方法により会員に周知する。

    ② 会報、ホームページ、GEPニュース等でロールモデルを提供する。

    (1)

    ① 女子学生等向け進路選択支援イベント(「来たれ、リーガル女子」)を引き続き実施する。

    ② 北海道大学法科大学院での講義に女性弁護士を派遣する、女性弁護士との交流・意見交換の場を設けるなど、女性弁護士の活動について、法科大学院等に対し情報提供できる機会を持つ。

    ③ 女性の司法試験合格者及び司法修習生を中心に女性弁護士との交流を通じて進路選択の際の考慮要素等について必要な情報提供を行う。

    ④ 女性が弁護士として活躍する魅力を伝えるため、中学、高校、大学、大学院等の教育機関への出前授業・出前講座(授業メニュー「弁護士の仕事」)に女性弁護士を派遣する。

    (2)

    ① 離職理由や再登録理由等の調査を行い就労継続への障壁を調査する。

    ② 採用を予定あるいは検討している法律事務所に対して女性弁護士の採用に必要な情報提供等を行い、積極的な女性弁護士採用を促す。

    【基本的考え方】

    (1)弁護士全体に占める女性割合の拡大は喫緊の課題である。前述のとおり、当会の女性会員の割合は約15.4%、日弁連全体においても約19.3%にとどまっており、政府が定めた202030目標に大きく及んでいない。社会に存在する女性法曹に対するニーズに応え、女性の社会的地位を向上させるためには、女性弁護士の増加は必要不可欠である。
     女性弁護士数の増加、女性弁護士割合の拡大に向け、女性が弁護士として活躍する魅力を伝えるため、中学、高校、大学、大学院等の教育機関に弁護士を派遣して出前授業を行ったり、シンポジウムを開催したりする等して情報提供を行い、女性に対する進路選択支援を積極的に行うことが望まれる。さらには、司法試験の女性合格者が弁護士を職業として選択しやすくなるような取組や、出産・育児・介護など業務外の事情での女性弁護士の離職を防ぎ、離職者の再登録を支援する取組も必要となる。
     以上を前提として、女性弁護士数の増加、女性弁護士割合の拡大の推進に関し、本計画において定めた目標について、個別に説明する。

    (2)目標(1)について
     女性弁護士の割合を増加させるためには、司法修習生、司法試験合格者、学生らが弁護士(あるいは法曹一般)を目指すことが必要である。しかし、弁護士を選択してもらうためには弁護士の仕事の魅力のほかキャリア形成や女性を取り巻く環境等のうち、何が考慮要素となるかを知り、的確に情報を提供していく必要がある。また、特に学生にとって法曹は決して身近な存在ではないことから、まずは仕事の魅力などを知ってもらうことが必要である。

    (3)目標(2)について
     妊娠、出産、育児、介護等で離職する者が増加すれば、女性弁護士の増加にはつながらない。そこで、離職を防ぐこと、離職した者については再登録をしやすい環境を整備することが重要である。

  7.  男女共同参画、性の多様性を尊重する社会の実現に向けた対外的発信や取組
    【目標】

     男女共同参画、性の多様性を尊重する社会の実現に向けて、市民・社会・学校等に向けた対外的な発信や各種取組を行う。

    【具体的施策】

    ① 企業における各種ハラスメント防止規定の整備、性自認・性的指向に関する差別禁止の明文化、同性パートナーを配偶者と認める人事制度や福利厚生制度の整備等を進めるための取組を検討する。

    ② 各種教育機関、市民向けに、男女共同参画、ハラスメント防止、ワーク・ライフ・バランス、性の多様性等に関する勉強会、講演会等を実施する。

    ③ 男女共同参画、性の多様性尊重に関する取組について、企業、行政、隣接士業等との意見交換を行う。

    【基本的考え方】

     男女共同参画・性の多様性を尊重する社会を積極的に推進する立場から、弁護士会は、会内だけではなく、市民・社会・学校等に向けた対外的な発信や各種取組を行っていくことが重要である。
     現在、企業においても、男女共同参画の実現や各種ハラスメントを防止するための社内規定の整備、性自認・性的指向に関する差別禁止の明文化や、トランスジェンダーガイドライン、同性パートナーを配偶者と認める人事制度や福利厚生制度を整備する動きがあるが、その取組は未だ十分とはいえない。家庭内における役割の固定化やジェンダー・バイアス、性的マイノリティに対する偏見も未だ根強い。
     これらの問題を是正すべく、男女共同参画の推進・性の多様性を尊重する社会の実現に向けて、積極的な活動を進める必要がある。

  8. 以上

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