声明・意見書

「家族法制の見直しに関する中間試案」に対する意見

2023(令和5)年2月6日
札幌弁護士会
 会長 佐藤 昭彦

 
 法制審議会家族法部会でとりまとめられた「家族法制の見直しに関する中間試案」に関する意見募集がなされ、これに対して当会も2023年1月20日付で意見を発出しました。
 この中間試案は多岐にわたる論点を含むものですが、このうち最も注目されている論点は「第2 父母の離婚後等の親権者に関する規律の見直し」であるため、この点に絞って当会の意見の要点をお知らせします。

 この点の最も根幹にかかわる論点は、「1 離婚の場合において父母双方を親権者とすることの可否」であると思われます。中間試案では、
 
【甲案】
 父母が離婚をするときはその一方を親権者と定めなければならないことを定める現行民法第819条を見直し、離婚後の父母双方を親権者と定めることができるような規律を設けるものとする。
【乙案】
  現行民法第819条の規律を維持し、父母の離婚の際には、父母の一方のみを親権者と定めなければならないものとする。
 
という2案が提示されていました。
 この論点について、当会は概ね下記の理由により、【乙案】に強く賛成する意見を発出しました。
 

 

  1.  離婚は夫婦間の信頼関係が失われたためになされるものであり、またそれに至る過程で高葛藤に陥ることも多いにもかかわらず、引き続き子の養育に関する事項の決定を父母共同の意思で行うべきとすることは、父母に不可能を強いることになる。
  2.  子の生活の一部だけを切り取って子と生活を共にしない別居親の関与を認める(関与の認め方によっては、別居親に拒否権を与えることになる)ことは、子の監護に関する適時適切な決定を妨げ、子の利益に反する。
  3.  DVなどによる父母間の支配・被支配の関係が、双方関与の制度の悪用により、なお継続するおそれがある。
  4.  「未成年期に父母の離婚を経験した子の養育に関する実態についての調査・分析業務報告書」でも、父母離婚・別居後の子の居住場所、進路、重大な医療について同居親が決めるのが理想的であるとする回答が最も多い。
  5.  「父母間の協議」や家庭裁判所の確認手続によっても、離婚後双方関与が不適切なケースを完全に除外することはできない。
  6.  良好な関係にある父母に離婚後双方親権の選択肢を提供しなかったとしても、事実状態として共同で監護することは可能であるから、子にとっての不利益はない。しかし、不適合ケースで共同親権となった場合、子の不利益は明らかである。
  7.  現行の実務でも、親権と監護権の分属は極力避けられているし、分属による不都合は報告されていない。
  8.  【甲案】を採用した場合に、実効的にDVや虐待を防止する策は考えがたい。
  9.  甲案を選択することによって利益を得るのは、一方の親(例えば母)が共同養育を望まない場合にも、裁判を通じて共同養育を他方(例えば母)に強制することができるようになるもう一方の親(例えば父)であると考えられる。しかし、一方の親が共同養育を望まない以上双方の協力を期待することには無理があり、そのような場合に共同養育を強制したとしても子の利益にはならない。
  10.  円滑な面会交流や養育費の支払確保は双方親権を採用したとしても制度上何ら変更のない事柄である。当事者の意識への影響のような抽象的・精神的・不確実な効果を期待して、子に関する意思決定が機能不全に陥りかねない双方親権の制度を導入することは、得られる利益が小さく不確実であるのに対して失われる利益は重大かつ確実であり、明らかに均衡を失する。

以上

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