「谷間世代」に対する一律給付実現を求める会長声明
1 はじめに
当会は、2018(平成30)年1月12日付「速やかな『谷間世代』の不平等・不公平是正等を求める会長声明」を、2020(令和2)年6月12日付「『谷間世代』の不平等・不公平を是正するための措置・施策等を求める会長声明」を発出するなど、日本弁護士連合会及び全国の弁護士会と一体となって、谷間世代の全員に対して、国費による司法修習期間における修習給付金相当額の一律支給等、不平等・不公平を一律に解消するための抜本的な是正策を講じることを求め続けてきました。
しかし、現在まで、谷間世代に対する国による経済的支援策は実施されていません。
2 司法修習制度の意義と給費制の廃止、谷間世代の出現
司法修習は、三権の一翼たる「司法」の担い手、つまり国民の権利の守り手の養成制度であり、司法という社会インフラの整備は本来公費によって行われるべきものです。
しかし司法修習生に対する給費制は、2011(平成23)年11月に廃止され、新第65期以降の司法修習生は、無給での司法修習を強いられ、いわゆる貸与制が導入されました。
この給費制度の廃止に多くの批判の声が上がり、2017(平成29)年4月19日に裁判所法が改正され、第71期以降の司法修習生に対する修習給付金制度が創設されましたが、貸与制度下の修習生(いわゆる谷間世代)に対しては、給費の支給はなく、極めて不平等・不公平な状態で取り残されました。その数は約1万1千人であり、実に全法曹の約4分の1を占めています。
3 谷間世代救済の必要性
この谷間世代の法曹にとっての経済的負担と不平等・不公平は、決して無視できるものではありません。
近年、各地で繰り返される大規模自然災害やコロナ禍等により困難を抱えた人々のための活動など、谷間世代の中にも、社会の役に立ちたいという志を持ち、既にそれぞれの職務において現に実力を発揮している者も多く存在しています。今後も、司法の担い手として、困難を抱えた人々のための活動も含む社会の不公正や権利侵害に立ち向かう活動を行うことへの期待は、谷間世代の法曹にも平等に向けられます。
しかしながら、志があるにもかかわらず、不平等・不公平な経済的負担が障害となって、その能力を思いどおり発揮できないことは、法的救済を求めている司法サービスの利用者(国民)にとっても、社会にとっても、大きな損失です。日本弁護士連合会が2019(令和元)年に実施した谷間世代に対するアンケートでは、多くの谷間世代の弁護士が、経済的困難が解消されれば、活動範囲を広げ、社会のために更に役に立ちたいと考えていることが明らかになりました。
谷間世代が抱える経済的・精神的足かせを、国による一律給付の実現により是正することで、谷間世代の法曹が活躍する分野の拡大、その活動量が増加することが期待できます。そして、このように司法機能が強化されることは、国民にとって大きな利益や権利救済に結び付くものであることは明らかです。
4 名古屋高等裁判所判決の指摘
名古屋高等裁判所は、2019(令和元)年5月30日、給費制廃止違憲訴訟判決において、「従前の司法修習制度の下で給費制が果たした役割の重要性及び司法修習生に対する経済的支援の必要性については、決して軽視されてはならないものであって、いわゆる谷間世代の多くが、貸与制の下で経済的に厳しい立場で司法修習を行い、貸与金の返済も余儀なくされているなどの実情にあり、他の世代の司法修習生に比し、不公平感を抱くのは当然のことであると思料する。」「例えば谷間世代の者に対しても一律に何らかの給付をするなどの事後的救済措置を行うことは、立法政策として十分考慮に値するのではないか」と言及しました。国は、この判決の言及を真摯に受け止め、谷間世代への不平等・不公平を一律に解消するための抜本的な是正策を速やかに行う必要があります。
5 国会議員の過半数の賛同メッセージがあること
これまで日本弁護士連合会では、国会議員からこの谷間世代の問題の解決のための多くの賛同メッセージをいただいています。その数は、令和5年3月に全国会議員の過半数を超えました。この事実は、国民の声が、谷間世代が上記のように社会の不公正や権利侵害に立ち向かって法の支配を実現し、国民のための力強い司法を体現することができるように期待していることを物語っているといえます。
6 最後に
当会は、あらためて、国に対し、谷間世代に対する一律給付の実現を直ちに行うよう、強く求めます。
2023(令和5)年3月6日
札幌弁護士会
会長 佐藤 昭彦