声明・意見書

「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有に反対し、即時撤回を求める会長声明

1 日本は、日本国憲法の下での不戦の誓いと77年以上に渡って享受してきた平和な社会を手放して、戦争当事国への道を突き進むのだろうか。私たちは、憂慮している。

 

2 2022年12月16日、政府は「国家安全保障戦略」、「国家防衛戦略」、「防衛力整備計画」のいわゆる安保三文書(以下「三文書」という)を改定することを閣議決定した。
 改定された三文書には、相手の領域内において「我が国が有効な反撃を加えることを可能とする、スタンド・オフ防衛能力等を活用した自衛隊の能力」としての「反撃能力」を保有することが盛り込まれている。
 この「反撃能力」は、従来は一般に「敵基地攻撃能力」と呼称されてきた概念の延長線として新たな考え方を示すものと考えられるが、いずれも他国に対して直接、攻撃できる兵器を保有し、常に他国を攻撃できる状態に置くことを意味する点に違いはない。
 政府は従来、憲法9条2項の「戦力」について、自衛のための必要最小限度の専守防衛であればこれに該当しないと解釈し、「平生から他国を攻撃するような、攻撃的な脅威を与えるような兵器を持っているということは憲法の趣旨とするところではない」との見解を示してきた。しかるに、「反撃能力」は、相手国の領域に直接的な攻撃を加えることを可能にすることから「戦力」の保持に該当するものであって、同条に違反するものである。

 

3 さらに、当会は一貫していわゆる安保法制の違憲性を指摘してきたものであるが、いわゆる安保法制下で「反撃能力」をもつことは、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」(存立危機事態、自衛隊法第76条第1項第2号)においては、日本が直接的な攻撃を受けていなくても、密接な関係にある他国の相手国を直接、攻撃することができることを意味する。そもそも専守防衛という従来の政府の憲法解釈からこのような存立危機事態を想定しうるのかという疑問があるだけでなく、「反撃能力」に基づく攻撃は日本が相手国に対して先制攻撃を行うことにほかならず、安保法制制定時の国会審議でも否定されてきた内容である。
 このように「反撃能力」の保有と行使は、個別的自衛権の行使のみならず集団的自衛権の行使を想定した場合はなおさら憲法9条に違反することになる。

 

4 上記の通り、今般の三文書の改定は、従来の政府見解を前提にしても憲法9条に違反するにもかかわらず、憲法改正手続を潜脱し、解釈改憲の手法で「反撃能力」を保有するものである。
 「反撃能力」保有について政府は、現在の安全保障環境に照らして防衛戦略の根本的見直しが必要だと説明するが、これは我が国の平和国家としての在り方や安全保障の在り方を根底から覆すものであるから、憲法改正手続によらなければならないことは、立憲主義からの当然の要請である。
 閣議決定により従来の政府見解の一方的な変更を行ったことは、集団的自衛権行使の際の閣議による解釈改憲と同様であり、立憲主義に反し、到底許容されるものではない。

 

5 先の大戦で多大な犠牲を生み、唯一の戦争被爆国ともなった日本は、戦後77年以上に渡って、恒久平和主義を堅持し、平和な社会を維持してきた。
 しかし、三文書に定められる防衛方針によって相手国領域を直接攻撃する攻撃能力を保有することは、当然に相手国のさらなる軍事力強化を招き、軍拡競争に直結する。そしてまたこのことは、日本を戦争当事国へと導く危険性が極めて高いものであり、ひとたび「反撃」の名のもとに相手国領域への直接攻撃を行えば、当然に相手国からのさらなる反撃を招き、武力の応酬に直結する。
相手国が持つ攻撃力に対し、同様に相手国を直接に攻撃する「反撃能力」で対抗するという抑止論を押し出すことは、無限の軍拡競争を招くだけであり、しかもその効果も何ら確約されているものではない。他方で、ひとたび抑止が破られれば拡大した軍事力同士の衝突となって破局的な結末を迎える恐れも否定できない。
 北海道においても、自衛隊基地及び駐屯地が多く存在し、基地周辺では、多くの市民が日々の生活を営んでいる。日本が「反撃能力」を保有することは相手国による直接の攻撃対象になることを意味するが、そのような状況は平和を享受しているといえるものではない。
 これらの意味するところは平和主義のあり方についての大転換であり、国会での審議や国民的な議論が全くなされずに閣議決定がされたことも問題である。

 

6 憲法9条の恒久平和主義が実現される社会を求めることは、決して単なる理想主義ではない。
 国際社会が混迷を深める中で、軍事力を増強することによってではなく、粘り強い対話と外交努力によって平和を維持しようとする営みは、国際平和及び市民の生命と自由を守るための、現実的な選択肢であるし、これが憲法の恒久平和主義からの帰結である。
 戦争は最大の人権侵害である。
 当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律家団体として、憲法9条に違反し、立憲主義を逸脱する今般の閣議決定による三文書の改定と「反撃能力」の保有に強く反対するとともに、政府に対して即時撤回を求める。

 

 

2023年3月6日
札幌弁護士会
会長 佐藤 昭彦

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