声明・意見書

最低賃金額の大幅引上げと全国一律最低賃金制度の実施及び中小零細企業への実効的な支援等を求める会長声明

  1.  現在、北海道の最低賃金額は、920円です。この金額は前年から31円引き上げられたものの、全国加重平均である961円を大きく下回っています。この水準ではフルタイム(1日8時間、週40時間、月平均173.8時間)で働いても、各種控除前の名目給与金額で月収15万9896円、年収約192万円にしかなりません。これでは労働者が賃金のみで生活を維持することは難しく、安定した生活を送ることはできません。
     日本の最低賃金は国際的に見ても低位であり、フランス、ドイツ、イギリス、韓国等の多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の大幅引上げが実現しました。
     また、ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響などによるエネルギー価格の上昇や食料品の値上がりに拍車がかかっており、これは2022年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数)が前年度比で3.0%も上昇しているという形で表れています。
    物価高から労働者の生活を守り、経済を活性化させるためにも、最低賃金額を大きく引き上げることが重要です。
     もとより、時間額1000円という金額であっても、1日8時間、週40時間(月平均173.8時間)働いたとしても、各種控除前の名目給与金額で月収約17万4000円程度、年収約209万円にしかならず、いわゆるワーキングプアと呼ばれる水準(年収200万円以下)をわずかに超える程度で、単身者にとってすら十分な額ではありません。まして、子どもを育てていくためには、この程度の金額では足りないことは明らかです。
  2.  最低賃金の地域間格差が依然として大きく、格差が是正されていないことも重大な問題です。現在の地域別最低賃金額は、最も高い東京都で時間額1072円であるのに対し、最も低い10県では時間額853円であり、219円もの開きがあります。
     地域別最低賃金を決定する際の考慮要素とされる労働者の生計費は、最近の調査によれば、都道府県間でほとんど差がないことが明らかになっています。そもそも、最低賃金は、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むために必要な最低生計費を下回ることは許されません。労働者の最低生計費に地域間格差がほとんど存在しない以上、全国一律最低賃金制度を実現すべきです。
     この点、厚生労働省の中央最低賃金審議会に設置された「目安制度の在り方に関する全員協議会」が本年4月6日にまとめた報告では、現行のAないしDの4段階の目安区分を3段階とすることが提案されています。しかし、これではCランクの引上額を、Aランクの引上額より大幅に上回るものとするなど抜本的な方策でも採られない限り、地域間格差の迅速な解消は望めません。中央最低賃金審議会は、現行の目安制度が地域間格差を解消できなくなっていることを直視し、目安制度に代わる抜本的改正策として、全国一律制実現に向けた提言をなすべきです。
  3.  他方で、最低賃金の大幅引上げと全国一律最低賃金制度の実現のためには、中小零細企業への実効的な支援策の充実が不可欠です。
     最低賃金の引上げに伴う中小零細企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度により、支援を実施していますが、利用件数はごく少数であり、十分に機能していません。我が国の経済を支えている中小零細企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるよう、中小零細企業に対する社会保険料の事業主負担部分や消費税等の各種公租公課の減免、現行の「業務改善助成金」をさらに使いやすい制度に改善すること、申請しやすい新たな補助金の創設・支給を行うこと、原材料費等の価格上昇を取引に正しく反映させることを可能にするよう法規制すること、中小零細企業とその取引先企業との間での公正取引の確保等の充分な支援策を講じることが必要です。
  4.  さらに、中央最低賃金審議会及び北海道地方最低賃金審議会は、最低賃金額についての実質的な議論を行う審理を例年非公開としていますが、審理の適正を担保するために、審理を全面的に公開すべきです。
     重要部分を含めて全面的に公開することにより、適正な審議が担保されるとともに、今日益々重要となっている最低賃金の決定過程を国民が知ることができます。公開に、特段の支障もありません。現に、鳥取地方最低賃金審査会においては、審理の全面公開が実現しています。他の審議会でも実現できない理由はないはずです。
  5.  以上により、当会は、日本国憲法第25条の生存権の理念等に照らし、「労働者の生活の安定、労働力の質的向上」(最低賃金法第1条)といった最低賃金法の趣旨を実現するために、政府、中央最低賃金審議会、北海道地方最低賃金審議会及び北海道労働局長に対し、最低賃金額の地域間格差を解消し、直ちに北海道を含め全国の最低賃金額を時間額1000円を超えるように大幅に引き上げることを求めます。また、審理の適正を担保するため、最低賃金審議会の審理を全面的に公開することを求めるとともに、政府においても、中小零細企業への実効的かつ充分な支援策を直ちに実施するとともに、早急に全国一律最低賃金の実現に向けた具体的な取り組みを開始するよう求めます。

2023(令和5)年6月12日
札幌弁護士会
会長 清水 智

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