「オンライン接見」の法制度化を求める会長声明
- 法制審議会の刑事法(情報通信技術関係)部会(以下「本部会」という。)では、刑事手続のIT化の議論が進んでいる。
本部会では、被疑者・被告人(以下「被疑者等」と総称する。)との「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(電子データ化された書類の授受を含む。以下「オンライン接見」という。)を刑事訴訟法39条1項の接見として位置付けることが検討されている。 - 身体の拘束を受けている被疑者等にとって、刑事施設・留置施設が弁護人又は弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」と総称する。)の法律事務所から遠く離れている場合も含めて、弁護人等の援助を受けることは重要な権利である。憲法34条前段は、弁護人の援助を受ける権利を定め、これを受けて刑事訴訟法39条1項は、弁護人等が被疑者等と立会人なく面会し、書類の授受をすることができるとする接見交通権を定めている。
高度な情報通信技術の利用が広く一般化した現代社会では、弁護人等が被疑者等と「ビデオリンク方式」を用いて通話したり、電子データ化された書類の授受を行ったりすることも、現実的に必要とされる接見の手段である。
したがって、かかる社会情勢下では、オンライン接見も、刑訴法39条1項の接見交通権の行使に含まれるものと解するべきであり、権利性を有する法律上の制度として、法制審議会を経て制定され、国家予算を投じて運営されなければならない。 - この点について、当会が対応しなければならない札幌地方裁判所管轄地域は広大であり、当会の会員は、接見交通に当たって多大な時間と労力の負担を強いられている。
また、近時、札幌地方裁判所管轄地域内の拘置施設の収容停止や廃止が相次いでいる。具体的には、平成27年12月10日に小樽拘置支所が収容停止に、また、既に収容停止となっていた室蘭拘置支所は令和6年4月1日をもって廃止されることが予定されている。現時点で収容業務を継続しているのは札幌拘置支所及び札幌刑務支所並びに月形刑務所のみであり、当会の支部会員は、起訴後の被告人との接見のために長距離の移動を余儀なくされる状況にある。一例を挙げると、当会管轄である伊達市(室蘭支部)に事務所を構える弁護士が拘置施設(札幌拘置支所)に自家用車で接見に赴くとなると、峠を越える山道を経由して約2時間30分(距離にして約120キロ)、高速道路を使用しても約1時間45分(同約140キロ)を要する。さらに冬期間となれば、その時間は更に増すことになるほか、悪天候によって現地に赴くことを断念せざるを得ず、接見ができないこともある。
一部の留置施設等においては、現在、電話を用いた外部交通が行われているが、これについては、弁護人等と被疑者等との会話について秘密が保障されているものではない。そのため、事務的な連絡に用いることはできたとしても、事件内容にかかわる打合せに用いることはできない。被疑者等が適切に防御権を行使し、裁判に向けて充実した準備を行うためには、弁護人等と被疑者等とが、打合せ内容を他者に見聞きされることのない環境において、証拠等の資料を確認しながら打合せを行うことが欠かせない。
地理的な条件を問題としないオンライン接見は、接見の秘密が保障されるのであれば、弁護活動上の必要に応じた適時の接見を可能とし、被疑者等の防御権の実質的な保障に資する上、当会の会員が接見交通に要する負担をも軽減することとなる。
したがって、上記のような当会の実情を踏まえても、オンライン接見は、喫緊の要請として制度化されるべきである。 - もっとも、オンライン接見の導入によって、拘置所の廃止や集約が促進されることはあってはならず、当会も、本年5月29日,室蘭拘置支所の廃止に強く抗議し、撤回を求める意見書を発出したところである。
また、弁護人等と被疑者等との接見は、対面によって行うことによって相互の信頼関係が醸成されるほか、弁護人等が非言語的な情報を得たり、円滑なコミュニケーションを図ることが可能となるのであり、オンライン接見が対面による接見の代替手段とはならないことは当然である。 - なお、本部会では、捜査機関側の委員から、オンライン接見について、実施に伴う人的・経済的コストの負担の問題が指摘されている。
しかし、新たな設備の整備等に伴い人的・経済的コストが増えるのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することであり、捜査機関側の制度では克服される一方で、被疑者等の防御上の制度の局面では克服できないというのは、明らかに公正さを欠くものである。
本部会では、取調べ、弁解録取、勾留質問等をオンラインで行うことが具体的に検討されているが、それらが可能なのであれば、オンライン接見も可能なはずである。捜査機関側の利便性のみではなく、被疑者等の人権保障を全うする観点からも、人的・物的な対応体制や予算措置に関する議論が尽くされなければならない。 - 刑事手続のIT化の議論は、何よりも被疑者等の人権保障を拡充するという観点で進められるべきである。
当会は、法制審議会にて更に具体的な議論が尽くされ、オンライン接見が速やかに実現されることを強く要望する。
2023(令和5)年6月13日
札幌弁護士会
会長 清水 智