声明・意見書

入管法改定法案の成立に強く抗議する会長声明

 2023年(令和5年)5月8日、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という)等の一部を改正する法律案(以下「入管法改定法案」という)が衆議院本会議で採決され、同年6月9日、参議院本会議でも採決され、成立した。当会は、入管法改定法案の成立に対して強く抗議する。
 このたび成立した入管法改定法案は、同年3月8日に当会が「入管法改定案の再提出に反対する会長声明」で指摘したとおり、我が国も批准する難民の地位に関する条約の基準を踏み外しているものである。このことについては、当会のみならず、日本弁護士連合会や各地の弁護士会からも反対の会長声明が発出されており、他の人権擁護団体や外国人の支援団体、報道機関、研究者等からも問題点の指摘と反対の意見表明が相次いでいた。国連人権理事会の「移民の人権」の特別報告者も、同年4月18日付けの書簡において、入管法改定法案は国際的な人権基準を下回っているとして、国際人権法の下での義務に沿うものにするために、徹底した内容の見直しを求めていた。
 このような国内外からの批判を無視し、入管法改定法案が成立したことは、誠に遺憾である。
 今般の入管法改定法案の一番大きな問題点は、難民認定三回目以降の申請者は強制送還が可能なことにある。これは、迫害を受ける恐れのある国に送還することを禁じているノン・ルフールマンの原則に反するものである。
 この点に関し、法務大臣は、参議院法務委員会において、「三回目以降の難民等認定申請者は、二度にわたり難民及び補完的保護対象者該当性の判断がなされ、外部有識者である難民審査参与員が三人一組で審理を行い、法務大臣はその意見を必ず聞いた上で判断するなど、慎重な審査が既に十分尽くされた者である」ので、「当然に保護に値しない者」であると答弁し、入管法改定法案に対する非難をかわそうとする。
 しかし、我が国における難民認定率は欧米諸国と比べると極めて低い水準にあり、これまでの法務大臣の抑制的な判断にそもそも問題がある。年間1000件超える案件を担当する難民審査参与委員もいれば、年間数件しか担当しない難民審査参与委員もいる。入管当局が難民審査参与員に割り振る件数の偏りは歴然としており、入管当局が恣意的に案件を配点していることは明らかであって、参与員の審査の独立性に対して影響を与えているとみるべきである。
 それゆえ、法務大臣が強調する「慎重な審査」というのは、結論ありきの不公正なものであるとの疑いを払拭することができず、3回目以降の難民認定申請者を「当然に保護に値しない者」などと断じることは許されない。かかる入管法改定法案が施行されるのならば、条約や憲法で保障されている外国人の権利が侵害されることは必至である。
 当会は、政府に対し、入管法が国際的な人権基準を満たしたものとなるよう、さらなる法改正を行うなど、引き続き抜本的な改革を求める。また、改定された入管法のもとにおいて、本来難民として認定されるべき者が迫害を受けるおそれのある国へ送還されたりすることのないよう、さらに送還停止効の例外に該当するとして退去強制令書発布処分を受けた外国人が十分な法的支援を受けられるよう、外国人の人権保障に向けた取組に全力を尽くす所存である。

以上

2023(令和5)年6月28日
札幌弁護士会
会長 清水 智

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