声明・意見書

参議院選挙街頭演説中の北海道警察による強制排除行為についての控訴審判決を受けて、改めて公共的・政治的表現の自由の意義について確認しその保障と実現のため活動していくことを宣言する会長声明

2023(令和5)年9月22日
札幌弁護士会
会長 清水 智

  1.  2019(令和元)年7月15日、札幌市内での参議院議員選挙の街頭演説の際に、「安倍辞めろ」「増税反対」などと声を上げた2名の市民が、北海道警察の警察官らに肩や腕などをつかまれ演説現場から移動させられたり長時間にわたってつきまとわれたりするなどの事件が発生した。
     この2名の市民はこれら一連の行為について北海道を被告として札幌地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起し、2022(令和4)年3月25日に言い渡された一審判決では、原告両名について公共的・政治的事項に関する表現の自由等の人権侵害を理由として北海道の損害賠償責任が認められた。
     その後北海道が一審判決を不服として控訴し、本年6月22日、札幌高等裁判所はこの事件についての判決(以下、「控訴審判決」という。)を言い渡した。
     控訴審判決においては、一名の被控訴人(一審原告、以下単に「原告」という)に対する排除行為等については違法であり政治的表現の自由等の人権を侵害するものとして一審判決の判断が維持されたものの、もう一名の原告については一審判決と異なり排除行為等が適法であるとして請求を棄却する判断がなされた。
  2.  控訴審判決において、一名の原告について一審判決の判断が維持されたことの意義は大きい。
     政治家による街頭演説は、政治家がその主張を有権者に伝えるとともに、有権者が政治家の主張に対する反応(その中には当然批判的あるいは否定的な反応も含まれうる)を示す貴重な機会であり、こうした過程を通じて種々の政治課題に関する多数意見が練り上げられていくのであって、まさに立憲民主政において不可欠のプロセスである。
     こうしたプロセスにおける市民の意見表明に対する排除行為等が憲法上の重要な権利の侵害であると高裁においても改めて認定されたことは、公共的・政治的事項に関する表現の自由の保障のうえで重要な意味を有する。
     一審判決が説示したとおり、「主権が国民に属する民主制国家はその構成員である国民がおよそ一切の主義主張を表明するとともにこれらの情報を相互に受領することができ、その中から自由な意思をもって自己が正当と信ずるものを採用することにより多数意見が形成され、かかる過程を通じて国政が決定されることをその存立の基礎としている。したがって、憲法21条1項により保障される表現の自由は、立憲民主政の政治過程にとって不可欠の基本的人権であって、民主主義社会を基礎付ける重要な権利であり、とりわけ公共的・政治的事項に関する表現の自由は、特に重要な憲法上の権利として尊重されなければならない。」ことが改めて確認されるべきである。
  3.  他方で控訴審判決は、もう一名の原告に対する排除行為等について、一審判決とは異なり、声を上げた原告に立腹して有形力を行使した聴衆がいたことから原告が暴行等を受ける危険性が切迫していたなどとして、警職法第4条1項所定の避難等の措置として適法であったと判断した。
     しかしながら、避難等の措置として行われる行為であってもこれにより表現の自由が制約されることになるのであるから、その適法性を判断するに際しては表現の自由の重要性に配慮した慎重な吟味が求められるところ、控訴審判決においてはこの点について検討した形跡がない。
     公共的・政治的事項に関する表現の自由が問題となる場面において、その重要性が十分に踏まえられることなく表現の自由を制約する排除行為が正当化されてしまうことになれば、市民が公共的・政治的事項に関する表現を行うことについての委縮効果が生じ、ひいては、主義主張の相互受領による多数意見の形成という立憲民主政の政治過程の根幹が損なわれ、我が国の民主的意思決定のプロセスが機能不全に陥ってしまうことも危惧される。
  4.  この事件に関しては北海道弁護士会連合会が二度にわたり理事長声明を発出し、北海道公安委員会に対して憲法や警察法の趣旨に則り適切な職務遂行に努めるよう北海道警察を適切に管理すること等を求めてきた。
     また当会も、この事件に関する一審判決言渡直後の2022(令和4)年4月1日に「北海道警察に対し、参議院議員選挙の街頭演説において聴衆の一部を実力で排除した行為の違法性を認めた札幌地裁判決を真摯に受け止めること及び適切な職務遂行と表現の自由の尊重を求める会長声明」を発出し、北海道警察に対して職務遂行の際に表現の自由を尊重すること等を求めるとともに、当会として今後も少数意見を含めた市民の表現の自由が十分に保障される社会の実現に向けた取組を続けることを宣言した。
     これら一連の声明において当会及び北海道弁護士会連合会が表明してきたことの重要性はいささかも変わるものではなく、当会は引き続き北海道警察に対して憲法上の公共的・政治的事項に関する表現の自由を十分に尊重した職務遂行を求めるとともに、改めて政治的表現の自由の意義を市民と共に確認しこの自由の保障と実現のため活動していく所存である。

以上

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