声明・意見書

2013年からの生活保護基準の引下げに基づく処分を違法として取り消すととも に国賠請求を認容した名古屋高裁判決を受けて生活保護基準引下げの撤回等を求める会長声明

  1.  2023年11月30日、名古屋高裁民事第2部(長谷川恭弘裁判長)は、愛知県内在住の生活保護利用者(以下「控訴人ら」といいます)が、2013年から3回に分けて行われた生活扶助基準の引下げ(以下「本件引下げ」といいます。)を理由とする保護変更決定処分の取消し及び国家賠償を求めた訴訟において、控訴人らの請求を棄却した第1審判決を取り消し、処分を違法であるとして取り消すとともに、控訴人らの国家賠償(慰謝料)請求も認容する判決(以下「本判決」といいます。)を言い渡しました。
  2.  本件引下げについては、全国29か所の地方裁判所において1000名を超える生活保護利用者が原告となって取消訴訟の提起がなされており、ここ札幌においても153名もの生活保護利用者が訴えを提起し、現在札幌高裁に係属しています。これらの訴訟についてはこれまでに22地裁で判決が言い渡され、うち12地裁の判決において処分の取消請求が認容されているところ、本判決は高裁における初の取消請求についての認容判決であるとともに、地裁も含めて全国で初めて国家賠償を認容した判決です。
  3.  本件引下げは、生活扶助基準額と低所得世帯の消費実態との乖離を調整することを名目とした「ゆがみ調整」、物価変動への対応を名目とした「デフレ調整」の二点を理由として、生活保護利用世帯の生活扶助基準額を平均6.5%、最大10%引き下げたものでした。
     本判決はこれらについて、いずれも統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を欠いており、個別にみても全体としても著しく合理性を欠き、違法であると判示しました。
     さらに、このような引下げを行ったことについて厚生労働大臣には少なくとも重大な過失があると断じ、健康で文化的な最低限度の生活を下回る生活を強いられた原告らの精神的苦痛に対する慰謝料(国家賠償)をも認めました。
     本判決は、厚生労働大臣の裁量には法律に定められた制約があることを明らかにしただけでなく、生活保護利用者が置かれた厳しい現状とこれによる精神的苦痛を真摯に受け止めたもので、人権を擁護するという司法の職責を果たした歴史的判断として高く評価できるものです。
  4.  当会はこれまで、本件引下げについて2012年11月26日付「生活保護基準の引き下げに反対する会長声明」により反対の意見表明を行い、その後も、2013年6月11日付「『生活保護法の一部を改正する法律案』に反対する会長声明」、2014年10月21日付「経済財政運営と改革の基本方針2014(社会保障改革部分)を受けて,生活保護の冬季加算の見直しが行われることに反対する会長声明」、2015年に札幌市白石区で起きた姉妹孤立死事件についての札幌市に対する警告書、2018年1月29日付「生活保護基準について一切の引下げを行わないよう求める会長声明」、さらに2018年4月27日付「生活保護法63条に基づく返還債権を、差押えや生活保護費からの天引きなどにより徴収することを可能にし、非免責債権化する生活保護法改正案に反対する会長声明」をそれぞれ発出し、近年の生活保護基準の諸々の引下げに反対するとともに、生活保護制度のあり方や運用等の改善を求めてきました。
  5.  31年ぶりという記録的な物価高の中、生活保護利用者の生活はますます苦しくなっており、このような状況において生活保護基準の見直しは憲法25条に謳われた生存権が保障されるうえでまさに喫緊の課題といえます。
     当会は、国及び各地方公共団体に対し、本判決を受け入れて本件引下げを直ちに撤回し、真に健康で文化的な最低限度の生活が可能となるような生活保護基準とすることを強く求めます。

以上

2023年(令和5年)12月14日
札幌弁護士会会長 清水智

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