離婚後共同親権を導入する家族法制見直しに反対する共同声明
- 法制審議会は本年2月15日の総会で、離婚後の父母双方に親権を認める共同親権の導入を含む民法等の改正要綱案(以下「要綱案」という。)を決定し、法務大臣に答申した。
しかし、離婚後共同親権には以下のような重大な問題があるため、たとえ選択的なものであってもこれを認めるべきではない。また、仮に認めるとしても、離婚後共同親権について父母双方の真摯な同意がある場合に限るべきである。 - 夫婦間の信頼関係が損なわれたために離婚に至る場合が大多数であることからすると、離婚後に父母間で親権の行使について円滑な協議を行うことは、一般に困難である。
離婚後も父母の双方が親権者と定められた場合には、子に関する重要な決定(転居、進路決定、医療行為など)について、離婚後の父母間で協議することが必要となるところ、その協議が円滑になされなければ、子に関する重要な決定が適時適切にできず、子の利益が損なわれることになる。 - 要綱案は、親権の行使に関する父母間の意見対立の問題に対処するため、「子の利益のため急迫の事情があるとき」や「監護及び教育に関する日常の行為」については、一方の親による単独親権行使を認める例外規定を設けるとしている。
しかし、「急迫の事情」や「日常の行為」の範囲が不明確であるため、現実に子を監護している親は、事後的には裁判所により適法と判断される親権行使についても、他方の親の同意を得ない違法なものであるとして、他方の親から裁判を起こされ、応訴負担を強いられるなどの危険にさらされることになる。これでは、ただでさえ経済的・精神的負担の大きいひとり親が更に追い詰められることとなり、子の生活の安定が損なわれる結果につながりかねない。
また、上記の例外規定は、離婚前の父母にも適用されるものであるため、主に子の世話をしていた一方の親が子の福祉のために子連れで別居することも違法な親権行使であるとの論拠として不当に用いられるおそれがある。本来であれば支援の対象となるべきDV・虐待事案においても、子連れ別居が「急迫の事情」のない違法な親権行使であるとして裁判を起こされるなどの事案が多発することが予想され、委縮効果からDV・虐待事案の保護が後退しかねない。 - 要綱案は、離婚後の父母の双方を親権と定めるに当たって、父母の一方を子の監護者に指定することを必須とはしないこととしている。
しかし、監護者の指定がなされないと、養育費の請求権者や児童手当等の受給者が不明確になり、現実に子を監護している親が経済的に困窮し、子の生活基盤が脅かされることが懸念される。また、離婚後の関係が良好でない多くの父母は、緊密に連携を保ち、子の利益にかなう形で共同監護を実施することが不可能であるから、監護者の指定がなされなければ、父母間の意見対立を招来し、その解消のための家庭裁判所の判断にも時間を要するなどの理由で、監護権行使に停滞が生ずることが予想され、子の利益の観点から有害である。 - 要綱案には、その他にも子の利益の観点から問題とみられる点があるが、以上に述べたとおり、父母の真摯な同意がない場合にも離婚後共同親権を認める点及び監護者の指定を必須としない点について、到底看過できない重大な問題があることから、これに強く反対するものである。なお、仮に離婚後共同親権が導入されるとしても、DV・虐待事案の保護が後退することのないよう、主に子の世話をしていた一方の親が単独で親権行使できる例外事由を拡張すべきである。
また、要綱案の附帯決議に指摘があるように、仮に離婚後共同親権が導入された場合、家庭裁判所はこれまで以上に大きな役割を課されることになり、その負担が著しく増大することは明らかである。離婚後共同親権を導入するのであれば、同時に家庭裁判所がその役割を適切に果たすことができるよう、人的・物的体制の強化及びそのための財源確保が不可欠である。
以上
2024(令和6)年3月8日
札幌弁護士会 会長 清水 智
特定非営利活動法人女のスペース・おん 代表理事 山崎菊乃
しんぐるまざあず・ふぉーらむ北海道 代表 平井照枝