声明・意見書

憲法記念日にあたっての会長声明

 本日、憲法記念日を迎えました。日本国憲法が施行されて77年になります。 

 

 現在世界では、多くの戦争・軍事衝突が起こっています。2022年2月に始まったロシア連邦によるウクライナに対する軍事侵攻は、2年以上が経過しました。昨年10月には、ハマスによる襲撃をきっかけにイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への苛烈な攻撃が始まりました。いずれも、終息を見通すことのできない状況です。その他に内戦が続いている国も多くあります。
 そして日本国内では、政府が「厳しいアジア太平洋地域の安全保障環境など、日本を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している」「力による現状の一方的変更を許さない」との見解を繰り返し示しています。そのような事態であるなら、本来は緊張緩和のための外交努力と対話が重ねられなければならないところ、それらがなされないままで戦力(自衛力)の質的・量的増強が進められています。2022年には、敵基地攻撃能力(反撃能力)の保有を含めた「安全保障政策の大転換」を進めていくことを閣議決定し、2027年までの5年間の防衛費(軍事費)は従来の1.5倍の43兆円に大幅増額するとされています。また、本年3月には、英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機の輸出を解禁する方針を閣議決定し、さらに現在開会中の国会では、経済安保情報保護法案が審議されており、経済分野での軍事転用可能な情報が政府によって統制されようとしています。
 これら政府の対応は、かえって近隣諸国との緊張関係を高めるだけであり、日本国憲法の志向する平和主義の理念に反するものです。
 日本国憲法は「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」(前文)、「武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」(第9条)と規定しています。また、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と規定して(前文)、徹底した恒久平和主義に立脚し、外交と信頼関係による平和構築を目指すことを宣言しています。
 これは、武力によらない、公正と信義への信頼こそが平和構築のために必要であることを宣言したものです。
 私たちは、政府の行為によって再び戦争の惨禍を起こさせないことを改めて決意するとともに、政府に対しては、世界で起きている戦争・紛争や、日本周辺で起きているとされている「厳しい現状」に対して、外交協議を中心とした対話による国際紛争解決の道を追求することを求めます。それこそが、歴史から生まれた叡智の結晶である日本国憲法が求めているところです。それにもかかわらず、先に述べたような「対話ではなく武力による対処」という、憲法の理念に逆行する政策が重ねられているのです。
 日本を取り巻く近隣諸国との関係では、武力や実力で対抗しようとしても、それは問題を解決することにも、平和をもたらすことにもならず、かえって紛争を誘発し、憎しみの連鎖を生み出すことになりかねません。世界で起きている戦争が何故、防げなかったのかということも日本国憲法の理念に立ち返って考えるべきものです。
 札幌弁護士会では、昨年3月に「「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有に反対し、即時撤回を求める会長声明」を発し、また11月には「イスラエル及びハマス等パレスチナ武装勢力の双方に対して直ちに恒久的な停戦を求め、政府に対して日本国憲法前文の精神を踏まえ停戦の実現に向けて全力を尽くすことを求める会長声明」を発するなど、従来、日本国憲法の平和主義の理念に基づく、武力によらない平和を訴えてきました。
 また、昨年9月には、ウクライナの民族楽器バンドゥーラ奏者のナターシャ・グジーさんを招いて「平和の砦を築くコンサート」を開き、市民の方々ともに、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。」(ユネスコ憲章)との思いを共有しました。
 このように当会では、政府に対し日本国憲法の理念に基づく要求をしていくとともに、市民の皆さんと、平和の実現について共に考え、行動をしていきたいと考えています。

 

 
 当会は、憲法記念日にあたり、日本国憲法の価値を再確認し、私たちの国が国内問題においても国際問題においても、この憲法価値を実現すべく行動していくことを訴えるとともに、政府が日本国憲法の恒久平和主義の理念に基づき、外交と対話による安全保障を追求することを求めるものです。

   2024年(令和6年)5月3日
                   札幌弁護士会
                      会長  松田 竜

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