商業登記規則等の一部を改正する省令における代表取締役等の住所非表示措置に関し弁護士による職務上請求制度の創設を求める会長声明
本年4月16日、商業登記規則等の一部を改正する省令(令和6年法務省令第28号、以下「本省令」といいます。)が公布されました。本省令は、一定の要件を満たした場合には、代表取締役等の住所の一部について、申出により、登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービスに表示しないこととする措置を定めるものであり、本年10月1日に施行されました。
当会は、代表取締役等のプライバシー保護という本省令の趣旨には賛成します。
しかしながら、会社の形態を使った詐欺による消費者被害が以前から存在します。近年でも、例えばSNSを用いた投資詐欺に会社形態を利用する、あるいは会社名義の預金口座等が使用される、などの形で社会問題化しています。これらの被害にあった場合、従前は、本人、ないし被害回復の依頼を受けた弁護士が、個人としても法的責任(会社法429条1項)を負うべき代表取締役等の住所を登記事項証明書等で特定して、被害回復の手がかりとしたり、訴訟や保全処分を行ったりすることが可能でした。本省令施行後は、これらの場合の迅速な住所把握に問題が生じます。
すなわち、本省令施行後は、代表取締役等の住所非開示措置がとられている場合で、代表取締役等の住所を把握する必要がある場合は、利害関係があることを疎明して、管轄法務局で登記官の面前での閲覧をすること、あるいは商業登記規則の一部を改正する省令(令和6年法務省令第32号)で導入されたウェブ会議システムを利用した非対面での閲覧方法をとることで、代表取締役等の住所把握は可能です。しかしながら、前者は利害関係の疎明のための書類作成に要する時間、管轄法務局への出頭が必要な点で、後者は請求の後、登記官がこれを相当と認め、正当な理由があると判断してから日程調整を行い閲覧ができるという点で、迅速性に欠けます。被害救済のための代表取締役等の住所特定は一刻も早くなされる必要があり、これらの制度のみでは、被害者救済の観点からの措置として不十分です。
この点に関し、戸籍や住民票について、弁護士による職務上請求が存在します(戸籍法第10条2の2及び住民基本台帳法第12条の3)。弁護士は、戸籍の記載事項等を利用する正当な理由を明らかにすることで、戸籍謄本等を取得できますが、この制度を用いて取得した戸籍を悪用した場合は、懲戒処分の対象となります。このような仕組みのもと、戸籍や住民票について、実務上、弁護士による職務上請求制度はプライバシーの保護を図りつつ、必要な場合に迅速な情報が取得できる制度として確立しているものといえます。
そこで、当会は、戸籍や住民票の例にならい、代表取締役等の住所についても、弁護士による職務上請求制度の創設を行うことを求めます。
2024(令和6)年10月22日
札幌弁護士会
会長 松田 竜