「福井女子中学生殺人事件」再審開始決定の確定を受けて、改めて再審法の速やかな改正を求める会長声明
- 2024年(令和6年)10月23日、名古屋高等裁判所金沢支部は、いわゆる「福井女子中学生殺人事件」の第2次再審請求事件に関し、再審開始の決定をした。
本件は、1986年(昭和61年)3月の卒業式の夜に、当時中学3年生だった15歳の少女が福井市内の自宅で殺害された事件である。
事件発生から1年後、当時20歳であった前川彰司氏が犯人として逮捕され、前川氏は一貫して犯行への関与を否定し続けたものの、犯人性を基礎づける客観的な証拠がないまま起訴されるに至った。 - 確定第一審(福井地方裁判所)は、1990年(平成2年)に変遷を重ねる関係者供述の信用性を否定して無罪判決を言い渡した。
しかし、確定控訴審(名古屋高等裁判所金沢支部)は、関係者供述の変遷や供述相互間の食い違いは些末な点に過ぎず、大筋で一致するとして逆転有罪判決を下し、1997年(平成9年)に最高裁判所で懲役7年の有罪判決が確定した。 - 前川氏が、2004年(平成16年)に第1次再審請求を申し立てたところ、名古屋高等裁判所金沢支部は、2011年(平成23年)に、確定審で凶器と認定された2本の包丁では形成不可能な創傷が存在することなどに加え、関係者供述の信用性を否定して再審開始を決定した。
しかし、検察官の異議申立てを受けた名古屋高等裁判所(異議審)は、2013年(平成25年)に、新証拠はいずれも旧証拠の証明力を減殺しないとして再審開始決定を取り消し、最高裁判所(特別抗告審)もこの判断を是認した。 - 2022年(令和4年)10月に前川氏が申し立てた第2次再審請求に対する判断が今回の再審開始決定である。
本決定は、新たに開示された287点もの証拠や関係者の証人尋問などを踏まえて再審開始を認めたものであり、「疑わしいときは被告人の利益に」との刑事裁判の鉄則に則った、上記2度の無罪方向の判断に続く3度目の判断であり、高く評価することができる。
特に本決定は、確定審検察官の訴訟活動に関し、前川氏の無罪を裏付ける方向の重要な事実関係を認識したにもかかわらず、それを明らかにしなかったことについて、「知らなかったと言い逃れができるような話ではなく」、「不利益な事実を隠そうとする不公正な意図があったことを推認されても仕方がな」いうえ、「公益を代表する検察官としてあるまじき、不誠実で罪深い不正の所為」と断じて痛烈に批判した。
これは、「3つのねつ造」を認定した、えん罪袴田事件の再審無罪判決と同様に、捜査機関による人証(証言)や物証のねつ造などの違法捜査に対し、裁判所として強い警鐘を鳴らしたものということができる。 - 検察官が異議申立てを行わなかったことから本決定は確定し、今後は、再審公判が開かれることになる。事件発生から既に38年余りもの歳月が経過していることから、袴田巌氏に続いて、一刻も早く前川氏の雪冤が果たされる必要がある。
当会は、2023年(令和5年)5月30日開催の定期総会において、「刑事訴訟法の再審法規定の改正を求める決議」を採択しているところであるが、今回の「福井女子中学生殺人事件」第2次再審請求審の再審開始決定の確定を機に、前川氏の雪冤に加え、改めて国に対し、再審請求手続における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止を含む再審制度(再審法)の全面的な改正を速やかに行うよう求める。
以 上
2024(令和6)年10月31日
札幌弁護士会 会長 松田竜