声明・意見書

特定少年の実名報道に強く抗議する会長声明

 2024年(令和6年)10月25日深夜に江別市内の公園において成人2名、少年4名が集団暴行により大学生を死亡させた事件に関しては、少年らの検察官送致決定(逆送決定)後、2025年(令和7年)1月15日に札幌地方検察庁が少年らの公判請求を行い、これを受けて、一部の報道機関が18歳の少年2名の実名等を報道した。

 

 
 少年法は、第61条において、「氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができる記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載」すること(以下、「推知報道」という。)を禁止しているが、2021年(令和3年)5月に法改正が行われ(2022年(令和4年)4月1日施行)、本改正法は18歳または19歳の少年を「特定少年」と定義したうえで、特定少年に限っては、少年審判において検察官送致決定(逆送決定)がなされ、その後に検察官が公判請求を行った場合には推知報道の禁止は適用されないとした(同法68条)。

 

 
 少年法第61条が推知報道を禁止した趣旨は、少年の成長発達の観点から、事件に関わった少年や家族のプライ バシーや名誉を保護し、少年の更生を図ることにある。
 推知報道による少年のプライバシーの侵害は、少年の成長発達を妨げるとともに、社会復帰、社会参加を行う際に致命的な不利益を与えるおそれが強い。推知報道により少年の適切な更生を妨げることは、結果として再非行を発生させることにつながりかねず、それにより社会的不安を増大させるという悪循環に陥らせ、社会公共の利益にも反するというべきである。特にインターネットが発展した近年において、少年の推知報道が行われた場合、その少年のプライバシー情報はインターネット上において半永久的に閲覧可能な状態に置かれるのであり、推知報道が少年の更生を阻害するおそれは極めて高い。
 本改正法により、少年の推知報道の禁止が特定少年に限って一部解除されたが、少年の更生確保の必要性は、重大な犯罪行為を行い、逆送決定を受けた特定少年についても同様に当てはまるのであり、特定少年の推知報道が行われることによる不利益は十分に認識されるべきである。
 参議院の法務委員会における本改正法に関する審議においても、「特定少年のとき犯した罪についての事件広報に当たっては、事案の内容や報道の公共性の程度には様々なものがあることや、インターネットでの掲載により当該情報が半永久的に閲覧可能となることをも踏まえ、いわゆる推知報道の禁止が一部解除されたことが、特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮されなければならない」との附帯決議がなされており、衆議院の法務委員会でも同様の附帯決議がなされているところである。

 

 
 しかしながら、本件に関しては、2025年(令和7年)1月15日に札幌地方検察庁が特定少年2名を含む少年らの公判請求を行い、特定少年2名の実名を公表したことを受けて、一部の報道機関が特定少年2名の実名等を報道した。
 道内では旭川市内の神居古潭において発生した女子高生の殺人事件に関して、2024年(令和6年)8月2日の公判請求後に特定少年の実名等の報道が行われた事例に続くものである。このようにたて続けに道内において特定少年の実名等の報道が行われている現状は、上記付帯決議の「特定少年の健全育成及び更生の妨げとならないよう十分配慮」がなされているとは到底いえない。

 

 
 当会はこれまで、本改正法に関し、2021年(令和3年)1月14日付「少年法適用年齢に関する法制審議会の答申内容に反対する会長声明」、2024年(令和6年)12月27日付「特定少年の実名等を報道しないよう求める会長声明」を発出し、推知報道の解禁に反対するとともに、報道機関に対し、本件においても特定少年の実名等の報道を差し控えるよう強く要請してきた。
 当会は、本件に関して特定少年の健全育成及び更生に十分配慮することなく、一部の報道機関により特定少年の実名等の報道が行われたことに強く抗議するとともに、今後発生する特定少年の逆送事件について、特定少年の実名等の報道を行わないよう強く求める次第である。

 令和7年1月16日
                       札幌弁護士会 
                       会長 松田 竜 

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