声明・意見書

帯広刑務所の支所化に伴い、帯広刑務所視察委員会活動が札幌刑務所に移管されることに対する意見書

 当会は、令和7年9月29日、法務省北海道矯正管区担当者より、令和9年4月から帯広刑務所を支所化し、これに伴い、帯広刑務所及び同施設の支所である釧路刑務支所の視察委員会活動を本所となる札幌刑務所に移管する旨の説明を受けた(以下「本説明」という。)。
 以上に対し、当会は次のとおり意見を述べる。

第1 意見の趣旨

  1.  国は、支所化された刑事施設にも視察委員会を設置できるよう刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律を改正すべきである。

  2.  国は、法改正などの法整備がなされるまでの間、支所化した刑事施設の視察が滞ることのないよう適切な対応を講ずべきである。

第2 意見の理由

  1.  被収容者の人権保障に支障を及ぼすこと
     帯広刑務所及び同施設の支所である釧路刑務支所の視察委員会活動が、その本所となる札幌刑務所に移管されることは、被収容者の人権保障に支障を及ぼし、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「本法律」という。)の目的に反するおそれがある。
    ⑴ 刑事施設視察委員会制度と実情について
     刑事施設視察委員会制度は、名古屋刑務所における重大な人権侵害事件を受け、本法律第7条に基づいて平成18年に創設された制度であり、刑事施設視察委員会は、刑事施設を視察し、その運営について施設長に意見を述べる独立機関として位置づけられている。
     令和4年12月に名古屋刑務所において再び受刑者に対する重大な人権侵害事件が繰り返されたことをきっかけに、令和5年6月には、法務大臣の委嘱を受けた第三者委員会より、刑事施設視察委員会の活動をより充実させる内容を含む組織基盤整備の提言(以下「令和5年提言」という。)がなされた。
     これを受け、令和6年10月には法務省矯正局作成の「刑事施設視察委員会活動の手引き」が改定され、刑事施設視察委員会の業務内容として、①被収容者や職員に向けた広報資料の作成、②昼夜単独室処遇者に対するアンケートとそのとりまとめ、③一般職員との面談実施の充実、④監査に対するヒアリング対応、⑤他施設の委員との情報交換が追加で記載された。
     本法律に基づき、札幌刑務所においては7名の委員が、帯広刑務所では4名の委員が、年間7回、それぞれの刑事施設に赴き、会議、視察、面談及び意見書対応等を行っている。令和6年度の意見書処理数は、札幌で年間1600通超、帯広・釧路で年間合計1650通超にも及んでおり、いずれも増加傾向にある。
    そのため、いずれの視察委員会でも、その限られた人員での対応は限界を迎えつつあるのが実情である。
    ⑵ 帯広刑務所の支所化の影響
     本説明によると、帯広刑務所視察委員会活動の札幌刑務所移管後も、釧路刑務支所及び帯広刑務所の刑務所機能は当面各施設に残り、現在収容中の被収容者は引き続き各施設に収容されるということであった。
     そのため、今後は札幌刑務所視察委員が、その支所となる帯広及び釧路の各施設についても対応することになるが、上記のとおり札幌刑務所の視察委員会活動だけでも対応の限界を迎えつつある中で、さらに帯広及び釧路の各施設の膨大な業務を担当することはおよそ不可能である。
     しかも、刑事施設視察委員の人数は、本法律第8条1項により上限が10名と定められているところ、仮に札幌刑務所視察委員を現在から3名増員して上限人数まで選任したとしても、今後、従前4名の帯広では視察委員が選任されないことからすれば、実質的には定数減となるのであって、札幌刑務所視察委員会の人員だけですべて対応していくことは困難である。
     さらに札幌刑務所と帯広刑務所・釧路刑務支所間の移動は、片道3時間ないし4時間超を要することから、現地での迅速な視察や被収容者面談の実施にも支障が生じる。
     仮に、視察委員会議においてビデオ会議システムを利用するなどしても、それだけでは「施設運営状況の直接的確認」や「被収容者との面談」という刑事施設視察委員会活動の中核的職務を十分に代替することはできない。
    ⑶ 小括
     以上のとおり、帯広刑務所視察委員会活動の札幌刑務所移管は、各施設における視察委員会の活動を実質的に制限・縮小させることになり、被収容者の人権保障の観点から相当でないうえ、令和5年提言の趣旨にも逆行すると言わざるを得ない。

  2.  決定プロセスが極めて不適切であること
     本説明によれば、帯広刑務所が支所化され、その本所を札幌刑務所と定める手続はすでに決定されているということであった。
     しかし、同決定に先だって当会には何らの事前協議や意見聴取がなされなかった。これは決定プロセスとして極めて不適切であると言わざるを得ない。
    ⑴ 被収容者に対し、これまで当会が担ってきた役割
     当会は従前より、被収容者に対する出張法律相談の実施やよりそい弁護士制度の活用による出所支援を行っているほか、ときには、人権救済の観点からの調査・勧告の実施を行うなど、札幌刑務所及び法務省北海道矯正管区との間では、立場は違えど緊密に連携等しながら、刑事施設における被収容者の人権保護の役割を担ってきた。
     刑事施設視察委員会の運用についても、制度創設時から会員の推薦、委員への助言などを通じて制度運用に協力してきたほか、日本弁護士連合会が開催する刑事施設視察委員会弁護士委員全国会議などを通じて、令和5年提言の以前から全国の刑事施設視察委員会が相互に情報共有できる機会を率先して確保するよう努めてきた。
    ⑵ 事前協議の申し入れを行ってきた事実
     日本弁護士連合会は令和5年8月18日、「拘置支所等の刑事施設の廃止や収容業務停止について反対し、長期的・広域的な整備計画の立案とともに協議を求める意見書」を発出し、全国で相次ぐ拘置支所などの刑事施設の廃止や収容業務停止については「当連合会(日弁連)並びに当該施設所在地の弁護士会及び地方自治体と協議し、その意見を踏まえる」よう求めていた。
     また、当会としては、岩見沢拘置支所機能の月形刑務所への統合と廃止、小樽拘置支所、室蘭拘置支所の札幌拘置支所への統合に際して刑事司法への影響を説明し、刑事収容施設移転・統廃合の検討に際しては事前協議を行うよう申し入れを行ってきた。
    ⑶ 小括
     これらの事実経過を踏まえれば、当会に対して何らの事前相談や協議を経ることなく、帯広刑務所視察委員会活動の札幌刑務所移管が一方的に決定されたことは、その決定プロセスとして、極めて遺憾で不適切であると言わざるを得ない。

  3.  本法律の目的を達するため必要となる措置
     帯広刑務所視察委員会活動が札幌刑務所に移管された後も、これまでと同様の視察が帯広及び釧路の各施設で実施可能となるべく、国は、帯広及び釧路の各施設にも刑事施設視察委員会を設置することができるように法改正すべきである。
     また、国は、法改正がなされるまでの間、札幌刑務所視察委員会の委員を上限である10名とし、帯広及び釧路近郊の医師、弁護士などを積極的に選任するべきである。
    加えて、札幌近郊の視察委員が帯広・釧路の各施設に対しても必要十分な視察、実効性のある視察を実施することができるよう、十分な予算措置等も講じるべきである。

  4.  結論
    よって、当会は、国に対し、意見の趣旨記載のとおりの対応を求める。

 令和8年3月9日
札幌弁護士会
会長 岸田洋輔

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