声明・意見書

国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求める会長声明

  1.  国選弁護制度は、憲法37条3項が保障する弁護人依頼権を実質的に確保し、被疑者・被告人が、その資力に関わらず弁護人による援助を受け、防御権を行使するために不可欠な制度である。弁護人を務める弁護士は、被疑者・被告人の防御権が憲法上の権利として保障されていることに鑑み、私選・国選を問わず、被疑者・被告人の権利及び利益を擁護するため最善の弁護活動を行うことが求められている。
     実際の運用を見ても、2025年(令和7年)7月に「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」(以下「在り方協議会」という。)で作成された取りまとめ報告書によると、近年では9割近い被疑者が捜査段階において国選弁護人を選任し、ほぼ全ての事件において24時間以内に国選弁護人が指名されるなどしているということであり、その堅調な利用が確認されている。
  2.  近時、袴田事件、福井女子中学生殺人事件と、相次いで再審無罪判決が出された。また、通常審においても、プレサンス事件、大川原化工機事件など、えん罪事件は今も現に繰り返されており、刑事弁護活動の重要性が改めて認識されるに至っている。
     昨今の刑事弁護活動は、捜査段階初期からの身体拘束解放に向けた集中的な活動や、取調べの可視化(立会い)、複雑長期化する公判前整理手続への対応、さらに更生保護をめぐる環境調整(入口支援)など多岐にわたっており、かつて想定されていたものとは質的にも量的にも全く別次元のものとなっている。
     しかし、現在の国選弁護人の報酬基準には、弁護活動の専門化や高度化、さらに物価の上昇等といった事情は一切反映されていない。それは独立行政法人日本司法支援センター(法テラス)が2006年(平成18年)に定めた国選弁護人の報酬基準の基本的な枠組みが20年近く経った現在でもほぼ踏襲されており、報酬額が実質的に据え置かれているためである。
     そのため、国選弁護事件の平均的な報酬は、専門化・高度化に対応した適正な弁護活動を行うために必要な対価としては非常に低廉になっていると言わざるを得ない。
  3.  また、現行の国選弁護費用体系では、当事者鑑定の費用をはじめ、弁護活動に要する多くの費用が賄われていない。近時、佐賀県警察科学捜査研究所の職員によるDNA型鑑定で不正行為が発覚したが、本来、捜査機関側の鑑定の信用性を争うべき事案は多いし、弁護側による科学的鑑定が決め手となって、えん罪被害の救済が図られてきた事案も多々ある。効果的な弁護活動を実現するためには、適正な弁護報酬のみならず、当事者鑑定費用をはじめとする各種の弁護活動費用が不可欠である。
  4.  さらに地方の実情として、札幌地方裁判所管内の面積は広大であり、被疑者・被告人との接見や公判期日への出頭の際には遠距離の移動を伴うことも多い。公共交通機関が充実していない地域の警察署に速やかに接見に赴くためには、自家用車を利用せざるを得ないところ、北海道の厳しい自然環境下での自家用車による長距離移動は、路面の凍結、ホワイトアウトによる視界不良等、相当に神経を使う過酷なものとなることも多い。
     被疑者・被告人の防御権は、被疑者・被告人がどの地域に居住し、どの地域で事件が発生したかにかかわらず、等しく保障されなければならない。北海道内の司法過疎地域における刑事司法を持続可能なものとするためには、冬期間移動の困難性を考慮した手当の創設や、遠距離接見等加算報酬を実際の移動距離や公共交通機関の待機時間も含めた移動時間に見合ったものとすることも必須である。
  5.  当会は、これまで、国選弁護が被疑者・被告人の権利擁護のため憲法上必須の制度であるとの認識の下、会費を財源とする会独自の予算で、当番弁護士制度、勾留阻止や取調べ立会いなど捜査段階での弁護活動に対する援助、弁護活動に遠距離移動を要する事件に対する援助、弁護活動に必要な当事者鑑定等の費用の援助、更生保護のための活動に対する援助等、各種弁護活動を援助する制度を創設し、市民が費用負担の心配なく弁護人による援助を受けることができる体制の拡充に注力してきた。
     しかし、無罪推定の原則を採用し、被疑者・被告人に弁護人による援助を受ける権利を保障している我が国において、その権利を保障するために必要十分な国選弁護人の報酬や費用は、本来全て国費によって賄われるべきものである。在り方協議会で取り上げられた多岐に亘る新たな刑事弁護活動に対し、これに見合った報酬や費用を国費で賄うための確固とした予算措置の議論が必要不可欠である。
  6.  国選弁護制度は、市民の自由と人権を守るために不可欠な制度である。弁護活動が専門化・高度化する一方で、報酬が物価の上昇等を全く反映せず、その実質価値が低下し続ける現状のままでは、制度は維持できず、市民の権利保障が危機に瀕する。
     よって、当会は、被疑者・被告人の更なる権利擁護と公正な刑事司法制度実現のため、国会、法務省、財務省に対し、国選弁護業務のための予算拡充及び国選弁護制度の基礎報酬と各種弁護活動費用の抜本的改善を求める。
  7.    以 上
     

     2026年(令和8年)3月12日
    札幌弁護士会
    会長  岸 田 洋 輔

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