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平成21年11月より法務省法制審議会民法(債権関係)部会において民法(債権法)の全面改正に向けての審議が行われており、論点とりまとめ作業が進められている。近日中には、中間的な論点整理案に関するいわゆるパブリックコメント手続が行われる予定となっていたが、そのような中、本年3月11日、東日本大震災が発生した。
民法は、国民生活や企業の経済活動等に直結する極めて重要な基本法であるから、同法の改正を検討するにあたっては、広く国民・企業・各種団体等に意見を求め、慎重に審議を行う必要がある。とりわけ消費者・労働者・中小零細事業者など社会的弱者が不利益を蒙ることのないよう、公正で正義にかなうものとならなければならない。
ところが、今回の東日本大震災により、東日本の太平洋沿岸部を中心に、広範囲に壊滅的な被害が発生し、今なお、多くの被災者が不自由な避難所暮らしを余儀なくされている。また、福島第一原子力発電所の事故は、地震発生から約2か月を迎える現在でも事態の収束の目処が立っておらず、被災地域の住民や企業・各種団体等はもとより、日本全体が震災後の対応に追われている状況にある。
かように深刻な社会情勢にもかかわらず、拙速にパブリックコメント手続や審議を進めた場合、民法(債権法)改正に向けての検討に国民や企業・各種団体等の意見を適切にくみ取ることができず、国民生活の実態や社会情勢の変動を十分に反映した内容とはならない危惧があるといわざるを得ない。
このため、被災地である仙台弁護士会から既にパブリックコメント手続の延期等を求める会長声明が出され、その後も大阪弁護士会や兵庫県弁護士会、福岡県弁護士会から同様の会長声明が相次いで出されている。
広く国民各層の意見を求めるというパブリックコメントの趣旨からすれば、被災地において、論点整理案に十分な検討ができない時期にパブリックコメントの手続をとることが不適切であることは当然である。しかも、この論点整理案作成までの審議期間中、東日本大震災により惹起される多様な法律問題は全く想定されていなかった。今回の論点整理案に対するパブリックコメントは、現在進行形の危機的状況を正確に把握してからなされることが、社会の基盤をなす民法をより実効的に改正するために不可欠である。
よって、当会は、国に対し、東日本大震災に伴う混乱状況が収束し、かつ、国民生活及び企業活動等が落ち着きを取り戻すまでの相当期間、少なくともパブリックコメント手続を延期すること、あわせて、東日本大震災の影響に十分配慮した審議日程を組むことを求める。
2011年5月9日
札幌弁護士会 会長 山﨑 博
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