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声明・意見書2011年度

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法曹の養成に関するフォーラム第一次取りまとめに関する会長声明

内閣官房長官、総務大臣、法務大臣、財務大臣、文部科学大臣及び経済産業大臣の申し合わせにより開催されている「法曹の養成に関するフォーラム」(以下、「フォーラム」という)は、2011(平成23)年8月31日、司法修習生の給費制問題について貸与制への移行を基本とする第一次取りまとめを行った。

給費制の問題は、単に司法修習生に対する経済的支援の問題にとどまらず、法曹養成制度全体の在り方、ひいては法曹人口問題を含めた我が国の司法制度の在り方と密接に関連する重要な問題である。ところが、フォーラムは、5月25日から8月31日までの約3か月という短期間に5回、給費制問題についてはわずか2回の実質審議のみによって上記取りまとめを行った。

かかる取りまとめは、東日本大震災の発生によってフォーラムが十分な時間をかけることができなかったという事情を考慮することなく、かつ、法曹養成制度全体ないし司法制度の在り方に関する基本的な理念、給費制の意義・趣旨といった本質的な観点からの検討をすることもなく、単に、財政難と修習終了後の法曹、特に弁護士の売上や収入といった経済状況を念頭に置いた貸与金の返済能力の有無という、貸与制移行を前提としてその制度設計上の許容性の観点を中心とした拙速な議論だけで行われた結果であり、法曹志願者が経済的理由により法曹になることを断念することがないよう法曹養成制度に対する財政支援の在り方について見直しを行うべきであるとの衆議院法務委員会決議(昨年11月24日付)及び国会の意思にも反するものであると言わざるを得ない。

現在、法科大学院適性試験志願者は激減し、その質の低下も指摘される等現在の法曹養成制度は危機的状況にある。その一次的な原因は、司法試験合格率の低迷、修習終了後の就職難、法科大学院の高額な学費負担にあると考えられるが、さらに根本的な問題として、法曹人口は弁護士の人数だけが激増し、裁判官・検察官の人数は微増しているに過ぎず、特に未だに裁判官や検察官が常駐していない支部があるといった法曹人口の職域的・地域的偏りの問題や、法曹が要求され活躍する場面の整備・拡充が当初見込まれていた様には殆ど進んでいないといった国政上の問題が存在する。このような諸課題に対する検討を行うことなく給費制を廃止して貸与制を実施することは、本来、司法制度の整備・充実の責務を担うはずの国が、経済的理由により法曹となることを断念する傾向をさらに加速させ、わが国の司法制度を衰退に追い込みかねない。

給費制は、司法修習生に対して個人的な経済的便益を与えることを意図した制度ではない。これは、司法制度の最終的な受益者はその利用者である国民であり、国にはかかる制度を担う人的インフラである弁護士や裁判官、検察官になろうとする司法修習生を養成する責務があるとの考え方の下、司法修習生に修習専念義務を課すことに伴い憲法上の様々な権利を制約することの合理的な代償措置なのであり、そうであるからこそ、これまで多くの国民から支持を得てきたのである。

当会は、このような観点から、引き続き給費制の存続を訴えるとともに、少なくともフォーラムで法曹養成制度全体の議論が結論を見るまでの間は貸与制を実施しないよう法改正を求める次第である。

2011年9月8日
札幌弁護士会 会長  山﨑 博

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