札幌弁護士会は、「市民に身近で信頼される司法」を実現するための司法改革を真に前進させるため、政府に対し、以下の2点を要求する。
- 平成22年ころには司法試験合格者数を年間3000人程度にするとした司法制度改革推進計画に関する閣議決定(平成14年3月)を見直し、年間1000人程度を目標に司法試験合格者数を段階的に減少させ、その実施状況等を検証しつつ、さらに適正な合格者数を検討すること。
- 法科大学院の統廃合と入学定員の減員、法科大学院における教育内容の充実と成績評価・修了認定の厳格化、法科大学院生に対する経済的負担の軽減制度の充実、前期集合修習の復活など、法曹養成制度全体を早急に見直すこと。
決議の理由
【はじめに】
- 2001年(平成13年)6月、「司法制度改革審議会意見書―21世紀の日本を支える司法制度」(以下「司法審意見書」という)が発表された。
司法審意見書は、国民に身近で利用しやすく、その期待と信頼に応えうる司法を実現すべきという視点に立ちつつ、法曹人口について、「法曹に対する需要は量的に増大するとともに、質的にも一層多様化・高度化していくことが予想され」、「国民が必要とする質と量の法曹の確保・向上こそが本質的な課題であ」り、「司法試験合格者数は社会の要請に基づいて市場原理によって決定されるべきであ」る、と提言した。
その上で、同意見書は、司法試験合格者数を2010年(平成22年)ころまでには年間3000人に達成させることを提言し、このような法曹人口増加の経過を辿るとすれば、おおむね2018年(平成30年)ころまでには、実働法曹人口は5万人規模(法曹1人当たりの国民の数は2400人)に達することが見込まれる、とした。
また、同意見書は、法曹養成について、「司法試験という『点』のみによる選抜ではなく、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた『プロセス』としての法曹養成制度を新たに整備」すること、「その中核を成すものとして、法曹養成に特化した教育を行うプロフェショナル・スクール」である「法科大学院」を設置することを提言した。
- かかる司法審意見書を受けて、政府は、2002年(平成14年)3月、2010年(平成22年)ころには司法試験合格者数を年間3000人程度にすること等を内容とする「司法制度改革推進計画」を閣議決定し、その後2004年(平成16年)に法科大学院が設置され、2006年(平成18年)には初回の「新司法試験」が実施された。同年の司法試験合格者数は1558人(新旧司法試験の合計)、翌年以降の合格者数は毎年2100~2200人程度で推移している。
- 札幌弁護士会(以下「当会」という)は、このような経過の中で、2000年(平成12年)9月、市民が利用しやすい裁判制度と運用の実現等を司法改革の具体的な課題として指摘した上で、法曹人口は、法曹一元と裁判所改革、法曹の質の確保、司法基盤の整備と同時並行して「検証しつつ漸増」することによって適切な増加を図るべきである、との意見を発表するとともに、法曹養成制度についても、法科大学院構想が真に法曹の質を確保していく実際的な裏付けを持っているか、現行の司法試験制度の内容が適切かどうか、実務修習を基本に置く養成制度はどのような形が望ましいか等について十分に国民的な議論を尽くす必要がある、と提言した。
- 司法審意見書から10年を経て、司法過疎・司法アクセス障害が相当程度まで改善されたことをはじめ、民事訴訟の迅速化、労働審判制度の導入による個別労働紛争の早期解決、被疑者国選の実現及び対象事件の拡大、国民の司法参加など、市民の期待に応える司法改革が一定程度進んだ面はあることは確かである。
しかしながら、この間、司法試験の合格者数が大幅に増員された上、司法基盤の整備や法曹養成制度の充実等が十分に行われることなくひとり弁護士人口の急激な増員のみが進められたため、後に述べるとおり様々な「ひずみ」が現実に生じつつある。
- 当会は、このような状況を踏まえ、「市民に身近で信頼される司法」を実現するための司法改革を真に前進させるため、法曹人口と法曹養成制度について、以下に述べる理由により、頭書の決議をするに至ったものである。
【1 法曹人口について】
第1 過去10年間に弁護士人口が急激に増加したこと
司法試験合格者数は、司法審意見書が発表された2001年(平成13年)の990人から、年々増加の一途をたどり、2007年(平成19年)には2099人(新旧司法試験の合計)に達した後はほぼ横ばいで推移し、2011年(平成23年)は2063人となっている。
これに伴い、弁護士人口も増加の一途をたどり、2001年(平成13年)には1万8246人であったところ、2011年(平成23年)には3万人の大台を突破した。当会の会員数も、2001年(平成13年)当時は322人であったが、2007年(平成19年)以降は毎年40~50人の新規登録者を迎えるようになり、2011年(平成23年)のうちに会員数が600人を超えることは必至という急増傾向にある。
他方、この10年間における裁判官と検察官の新規採用数は、以下のとおりほとんど横ばいであり、司法試験合格者数の増員は、ひとえに弁護士人口のみの急増に帰している。
<司法修習修了直後における進路選択の状況>
※各人数は修習終了直後の時点のものであり、特に平成22年度は、就職難のため、修習終了後相当期間を経過してから弁護士登録する者も相当数存在するものと思われる。
年度 |
弁護士 |
検察官 |
裁判官 |
H13 |
771 |
76 |
112 |
H14 |
799 |
75 |
106 |
H15 |
822 |
75 |
101 |
H16 |
983 |
77 |
109 |
H17 |
954 |
96 |
124 |
H18 |
1,223 |
87 |
115 |
H19 |
2,043 |
113 |
118 |
H20 |
2,026 |
93 |
99 |
H21 |
1,978 |
78 |
106 |
H22 |
1,714 |
70 |
102 |
第2 法曹に対する需要の増大に関する社会的基盤等の変化
- はじめに
そもそも、司法審意見書においては、構造改革・規制緩和を推進する政策の下で事前抑制型社会から事後救済型社会へ移行するに伴い、法曹とりわけ弁護士に対する需要がますます増大すると見込んだ上、わが国の法曹人口は諸外国に比べてあまりに少ないから、せめてフランス並の「実働法曹人口5万人規模」の実現を目指すべきであるとして、2010年(平成22年)ころには司法試験合格者数を年間3000人程度とすることが目標に設定された。
しかしながら、その後10年間の社会経済情勢の変化、とりわけ格差と貧困の拡大が社会問題化する下で、構造改革・規制緩和政策そのものが見直されるなど、司法審意見書の前提となった法曹に対する需要の増大に関する社会的・経済的基盤が大きく変わってきている。こうした社会的・経済的基盤の変化は、以下に述べるとおり、訴訟事件の減少傾向、相談件数の減少傾向、そして組織内弁護士等の需要の低迷にも現れている。
なお、フランスをはじめとする他国の弁護士がわが国における隣接士業(弁理士、税理士、司法書士、行政書士等)の業務を含めて行っていることに鑑み、わが国の弁護士数に上記4種の隣接士業の合計人数を加えた「弁護士等1人当たりの国民数」を比べると、2010年の時点で、わが国は755人と、フランスの1235人を大きく下回っており、ドイツの535人とも大差ない。法曹人口の多寡を検討する上ではこの点をも考慮する必要がある。
- 訴訟事件の減少傾向
まず、訴訟事件数の推移について見ると、わが国の全裁判所における新受全事件数は、2003年(平成15年)の611万件をピークに減少し続けており、2010年(平成22年)は431万件と、司法審意見書が出された当時の563万件よりもかえって少なくなっている。また、民事・行政事件の新受件数に限ってみても、2003年の352万件をピークに減少傾向に転じ、2010年は218万件弱にとどまっている。とりわけ、かかる事件数増加の原因は、もっぱら、いわゆる過払金返還請求訴訟事件数の増加によるものであると思われるところ、既に立法措置がとられたためかかる訴訟事件数は大幅に減少することが確実視されており、訴訟事件数全体の減少傾向にも拍車がかかる可能性が高い。
また、札幌地方裁判所における2001年から2009年までの新受事件数を比較すると、民事事件の第一審通常訴訟事件数は漸増傾向ではあるが、その原因はもっぱら上記の過払金返還請求訴訟の増加によるものである。この間、当会の会員数が322人から539人と大幅に増加しているため、会員1人当たりの訴訟事件数は減少傾向にある。
- 法律相談センター等における相談件数の減少
全国の弁護士会の法律相談センター、日本司法支援センター(法テラス)の地方事務所、自治体等において弁護士が担当した法律相談件数の推移をみると、2007年(平成19年)以降も増加傾向にあるのは法テラスの扶助相談(無料)のみで、その分だけ他の相談件数が減少しており、全体の相談件数は横ばい傾向にある。
当会の法律相談センターにおける相談件数も、2007年の2万8413件をピークに減少へ転じ、2010年には司法審意見書発表当時の水準(約2万1000件)にまで低下しており、市町村役場等の法律相談件数の推移もほとんどこれと変わらない。法テラス札幌事務所における相談件数も、2007年の発足から3年間は増加していたが、2009年と2010年は横ばい(1万0400件台)に転じている。
- 組織内弁護士などの需要の低迷
司法審意見書においては、「弁護士の活動領域の拡大」として、企業や政府、地方自治体において活躍する組織内弁護士が増加することが予想されていた。
しかしながら、企業内弁護士(インハウス・ローヤー)の数は2005年(平成17年)から増加傾向にあるとはいえ、2010年(平成22年)でも512人に留まっている。日弁連が上場企業及び生損保やマスコミ等を対象に実施し、1196社から回答を得たアンケート調査(2009年11月)においても、企業内弁護士を採用している企業はわずか47社(約4%)に留まる上、未採用の企業の97%が「顧問弁護士や企業内法務部があるので不自由していない」、「やってもらう仕事がない」といった理由で採用に消極的であった。
また、政府や地方自治体における弁護士資格を有する任期付公務員は、2005年の60人に対し2010年は89人と、ほとんど増えておらず、地方自治体における弁護士資格を有する常勤職員も、2011年5月末で12自治体22人に留まっている。日弁連のアンケート調査(2010年4月)においても、未採用の自治体の94.5%が「今後の採用予定はない」と回答した。
- いわゆる「潜在的な法的需要」について
なお、わが国の社会においては、弁護士が助力し、さらには裁判や調停その他の司法制度を利用することが望ましい法的紛争が広く潜在的に存在している。弁護士自身がこうした「潜在的な法的需要」を掘り起こし、かつ、その需要に応えるため、一層の努力が必要であることは当然である。
しかしながら、弁護士人口が大幅に増加しただけで、こうした「潜在的な法的需要」が直ちに弁護士や司法制度の利用に結びつくわけではない。現実にも、過去数年間に訴訟事件数や法律相談件数、あるいは弁護士の活動領域が必ずしも増えていないことは、既に述べたとおりである。
「潜在的な法的需要」を弁護士や司法制度の利用につなげるためには、これらの利用を避けようとする市民意識や、利用に伴う経済的なコスト、法的手続の実効性などの様々な問題を克服することが必要であり、そのための司法基盤の整備・強化こそが求められているのであって、弁護士人口の増加ペースも、これによる現実の需要増大との間で適正なバランスを保つ必要がある。
第3 弁護士人口の急増に伴う「ひずみ」が生じつつあること
以上のように、司法審意見書が想定した法的需要が実際には存在しないという状況の下で、弁護士人口の急増によって、様々な「ひずみ」が生じつつある。
- 弁護士間の競争激化について
(1) 弁護士業務には自由競争になじまない側面があること
司法審意見書は、「実際に社会の様々な分野で活躍する法曹の数は社会の要請に基づいて市場原理によって決定されるもの」であるとしており、さらに進んで、弁護士を大量に増員しつつ自由競争の下での自然淘汰に委ねることによってこそ「質」の低下も防止できる、という見解も有力に主張されている。確かに、弁護士業務も民業の一種であり、経済効率や採算性を無視できない側面があることは否定できない。しかしながら、そもそも司法制度には少数者の正当な権利を擁護し救済するという役割が期待されており、その一翼を担う弁護士も「社会正義の実現と基本的人権の擁護」(弁護士法1条)を使命としており、その意味において公的インフラとしての性格を帯びている。実際にも、消費者被害や公害・環境訴訟、国を相手とする政策形成訴訟、あるいは冤罪事件の弁護や再審請求等、採算性を度外視しなければならない事件の弁護活動や、訴訟外の様々な公益的活動等に積極的に取り組んできた歴史がある。
ところが、このまま弁護士人口が急増の一途をたどり、弁護士業務が過当競争の状態に陥れば、集客競争ないし顧客争奪競争に追われることになりかねず、弁護士人口が増加した意義が失われかねない。
かかる意味において、弁護士業務には、そもそも市場原理下での自由競争に委ねることにはなじまない側面が存するのである。
(2) 弁護士間の過当競争によって被害をこうむるのは市民であること
また、弁護士にもある程度の自由競争は不可避としても、弁護士人口の急激な増加によってもたらされる弁護士間の過当競争は、弁護士業務のユーザーたる市民にとっても、利益より不利益をもたらしかねない。
すなわち、自由競争による自然淘汰とは、ユーザーからの評価が高い弁護士が生き残り、そうでない弁護士が淘汰されることを意味するであろうが、多数の訴訟案件等を抱え複数の弁護士に依頼する機会がある企業とは異なり、一般の市民にとっては、弁護士を適正に評価するための判断材料に乏しい上、接することができる情報の大半がCMやインターネット、車内広告であると思われる。このため、多額の広告宣伝費用を投じる経済力を有する弁護士が「高評価」を得る可能性があるところ、かかる弁護士が実際に良質なサービスを提供できているかどうかは、全くの別問題である。例えば債務整理案件の場合、本来なら個々の依頼者のおかれた状況に見合った方針(破産や個人再生、任意整理など)を選択し、経済的更生に資する解決を図るべきところ、巨額の広告宣伝費や人件費等を回収するため、ともすれば過払金返還請求訴訟など経済効率の良い事件のみを受任し、相談者の利益をないがしろにする弁護士も現に見受けられるところである。
また、弁護士間の競争激化の下で受任の機会が減った弁護士がもっぱら着手金目当てで、本来ならば訴訟提起になじまない事件や解決の見通しが立たない事件、あるいは正当とは言えない利益を求める事件を受任するなどの病理現象も指摘されている。
これらによって直接に被害をこうむるのは、ユーザーである市民にほかならない。
こうした「ひずみ」をなくすためには、弁護士の広告や業務内容に対する適正な規制の強化や個々の弁護士に関する情報開示等、弁護士会自身による自助努力をすべきことはもちろんであるが、それだけではなく、「ひずみ」の最大の発生原因とも言うべき弁護士人口の急激な増加を抑制することが必要である。
- 司法修習生の就職難とOJTの機会喪失について
(1) 深刻化する司法修習生の就職難
司法審意見書が発表された2001年(平成13年)当時は1000人に満たなかった司法試験の年間合格者数は、2004年(平成16年)以降は約1500人、2007年(平成19年)以降は約2100人と、文字通り激増した。
その結果、司法修習生の就職状況が年ごとに悪化しており、従前の勤務弁護士(イソ弁)とは異なり、法律事務所に籍を置くだけで給与が支給されない「ノキ弁」(軒先弁護士)や、いきなり単独で独立開業することを余儀なくされる「即独弁護士」が急激に増えている。
さらに、司法修習を修了した時点で弁護士登録を見合わせる人数が、2007年に初めて100名を超え、2010年(平成22年)には258人にも達している。これは、市民の権利擁護の担い手となるべく法曹養成教育を修了し国家試験を経て法曹資格を得た者が「働きたくても働く場所がない」ことを意味しており、貴重な国家予算を投じて養成された人材を有効に活かすことができないという点でも、こうした者がOJTの機会がないまま「即独弁護士」となれば利用者に被害をもたらしかねないという点でも、一般的な就職難とは質を異にする重大な社会問題である。
当会においては、北海道弁護士会連合会との共催で「就職説明会」(毎年1月)、「就活応援パーティー」(毎年7月)を行い、個々の司法修習生に対する就職活動の支援や、会員弁護士に対する新規採用の促進要請等の取り組みを強めた結果、過去4年間は毎年35~52人の新規登録弁護士を迎え入れ、今のところ文字通りの「即独弁護士」はいないが、かかる状態を今後とも維持するという保障はない。
(2) 就職難に伴うOJT機会の喪失と質の低下のおそれ
弁護士は、プロフェッションとして高度な専門知識と厳しい職業倫理が要求されるとともに、司法権の担い手として「基本的人権の擁護と社会正義の実現」という使命をも課せられている(弁護士法1条)。
しかしながら、法科大学院と司法修習における法曹養成教育を経ただけでは、これを全うすることは困難であって、通常は、数年間にわたって法律事務所に勤務し、雇用主などの先輩弁護士と法律相談、事件処理などを共同で担当することを通じて、法律実務家としての技能や弁護士倫理を体得していくことが必要不可欠のプロセスである。まさに、これが弁護士にとってのOJT(On the Job Training)である。
しかして、あまりに急激な司法試験合格者数の増加に伴い、かようなOJTの機会を得られない新人弁護士が増えていくことは、法律実務家として必要な技能や倫理を十分に体得していない弁護士を社会へ大量に送り出していくおそれがあり、ユーザーである市民の権利保障に支障をきたす事態になりかねない。もっとも、特に地方においては新人弁護士が直ちに1人で事務所を開業する例も少なくなく、その場合にはその地方の先輩弁護士が様々な形で面倒を見ることが事実上のOJTとして機能してきたが、それも新人弁護士数の激増により困難となりつつある。
当会においては、「即独弁護士」の出現を想定しつつ、様々な研修プログラムや個別の「即独弁護士」支援策を準備してきたが、これだけでは、個々の法律事務所における系統的なOJTを代替することはできない。さらなる方策を会の叡知を結集して検討していかなければならないことはもちろんであるが、こうしたOJT機会喪失の最大の原因とも言うべき弁護士人口の急激な増加を抑制することが必要である。
第4 当会の取り組んできた主な課題と到達点
- 当会における会員数の増大とその影響
司法審意見書の発表当時は300人余にとどまっていた当会の会員数は、その後の司法試験合格者数の急増に伴って急ピッチで増加し、とりわけ、2007年(平成19年)以降は、新規登録者数が毎年40~50人台に上るとともに、それまで皆無に等しかった他会からの登録換が年に10人を超えるようになり、2010年(平成22年)は20人に達した。
この結果、当会の会員数は、過去10年間でほぼ倍増し、2011年のうちに600名を超えることがほぼ確実視されており、その半数近くが登録5年未満の若手会員によって占められることになる。
<当会における会員数の増加状況>
年度 |
会員数 |
入会者数 (うち新規登録者) |
司法試験合格者数 |
2001 (平成13) |
322 |
10(10) |
990 |
2002 (平成14) |
329 |
11(11) |
1183 |
2003 (平成15) |
333 |
16(16) |
1170 |
2004 (平成16) |
364 |
29(29) |
1483 |
2005 (平成17) |
385 |
24(21) |
1464 |
2006 (平成18) |
410 |
33(26) |
1558 (うち旧司法試験549・新司法試験1009) |
2007 (平成19) |
459 |
62(52) |
2099 (旧248・新1851) |
2008 (平成20) |
504 |
57(48) |
2209 (旧144・新2065) |
2009 (平成21) |
539 |
45(35) |
2135 (旧92・新2043) |
2010 (平成22) |
591 |
65(45) |
2133 (旧59・新2074) |
※会員数は各年度末の数値である。
※なお、2011年(平成23年)の新司法試験合格者数は2063人である。
当会においては、ここ数年、若手弁護士が、岩見沢、小樽、苫小牧、室蘭といった札幌地・家裁の支部所在地のみならず、札幌近郊の都市で独立開業する傾向が見られる。現在では恵庭、千歳、北広島、江別、登別の各市内にも法律事務所が開設されており、道内の他の地・家裁の支部所在地への公設事務所や弁護士法人支所等の展開とともに、司法過疎や司法アクセス障害の解消に向けて大きく前進している。
これは、最近における弁護士人口の増加が背景にあることは事実であるが、次項において述べるとおり、弁護士人口増加の当然の結果ではなく、当会のこれまでの継続的な努力が結実したものにほかならない。
- 当会における取組みとその到達点
(1) 司法過疎・司法アクセス障害の解消に向けた取組み
当会では、1999年(平成11年)、法律相談センターの支部を岩見沢市と滝川市に開設したのを皮切りに、岩内町、静内町(現在は新ひだか町)、小樽市、室蘭市とたて続けに支部センターを開設した。これに引き続き、新さっぽろ、麻生、千歳にも都市型の支部センターを開設した。
また、当会は日弁連と協力して、2005年(平成17年)、公設事務所(ひまわり基金法律事務所)を倶知安町に開設したのを皮切りに、室蘭市、静内町、岩内町、伊達市、浦河町にも公設事務所を開設した。
さらに、当会をはじめ道内の4単位弁護士会で構成する北海道弁護士会連合会も、2004年(平成16年)、弁護士過疎地に赴任する弁護士を養成するため、道内の弁護士全員が毎月一定の負担金を拠出することによって運営される「すずらん基金法律事務所」を設置した。その後、同事務所で一定期間の研鑽を積んだ若手弁護士が、中標津、北見、名寄、岩内、稚内、伊達、静内、留萌、倶知安、浦河の公設事務所へ次々と赴任し、弁護士過疎の解消と地域住民の法的サービスの充実のために日々奮闘している。このような取り組みは全国的にも初めての試みであり、その後、他の弁護士会連合会でもこれをモデルとした法律事務所を相次いで開設している。
こうした努力の結果、かつて札幌地・家裁の支部に3か所も存在した「ゼロ・ワン支部」(弁護士が全く存在しないか1人しかいない地域)がなくなり、道内全域においても、2011年12月には旭川地・家裁紋別支部管内に2つ目の公設事務所が開設され、これをもって「ゼロ・ワン支部」は全て解消されることになる。
(2) 刑事・少年事件の受任態勢強化に向けた取組み
当会では、かねてから捜査弁護の必要性を大いに議論し、また研修会などを通じて会員全体の理解を深めた結果、当番弁護士名簿や被疑者・被告人国選弁護人名簿の登録率が向上し、今では全会員の過半数が登録しており、とりわけ新規登録会員の登録率はほぼ100%に近い数値で推移している。
また、当会では、少年の身柄事件(少年鑑別所への観護措置がとられる事件)では全件に国選付添人が選任されるよう法改正を目指し、当面は全ての身柄事件に私選の付添人をつけるという自主的な援助事業に取り組んでおり、特に新規登録後数年内の弁護士がその中心的な役割を果たしている。
このような成果は、単に当会の会員弁護士数が増加しただけで得られるものではなく、当会が一貫して公的弁護制度の拡充を目指して当番弁護士制度や、刑事被疑者・少年付添人の援護制度を設け、会員弁護士への意識啓発活動を続けてきたからにほかならない。
- 小括
当会としては、司法過疎や司法アクセス障害のいっそうの克服に向け、また、国選被疑者弁護人制度や国選付添人制度の対象事件拡充を目指し、さらなる努力を重ねる決意である。
しかしながら、こうした問題への対応は、もはや弁護士数の増加によって解決できる問題ではない。むしろ、裁判所や検察庁の支部機能の強化やそのために必要な裁判官・検察官やスタッフの増員、公的弁護制度の充実などの司法基盤の整備・強化が喫緊の課題となっているのである。
また、弁護士人口が現状のペースで急増を続けるならば、採算性の点で大きな困難を伴う司法過疎地へ進出する弁護士が増えてくることが予想されるところ、とりわけそれがOJTの不十分な弁護士であれば、「質」の確保の上でも問題が生じ、地域住民に被害をもたらすことが危惧される。
もちろん、新規登録弁護士にとってのOJTの必要性は、都会であろうとなかろうと変わらないが、こうした地域であればいっそう、その弊害の大きさが際立ってしまう。
かかる意味において、司法過疎の解消等の課題の解決を弁護士人口の増加に委ねてしまうことは、自ずから限界があるだけではなく、大きなリスクを市民に負わせてしまうことにもなりかねない。
第5 当面の司法試験合格者数を、年間1000人程度を目標として段階的に減少させた上、その実施状況等を検証しつつ、さらに適正な合格者数を検討する必要があること
- 「年間3000人」という閣議決定は早急に見直されるべきである
以上述べた理由により、司法審意見書が発表されてから10年が経過した現状を踏まえ、弁護士人口急増に伴う「ひずみ」をこれ以上拡大させないためにも、司法審意見書に基づく「年間3000人」という閣議決定は早急に見直されるべきである。
- 年間1000人程度を目標として段階的に減少されるべきである
さらに、当会として、政府に対し、当面の司法試験合格者数を年間1000人程度を目標として減少させた上、その実施状況等を検証しつつ、さらに適正な合格者数を検討することを求める。
かかる司法試験合格者数の減少に当たっては、現に法科大学院に学ぶ学生達への影響を最小限に抑えるためにも、段階的に実施するなどの配慮が必要であることは言うまでもない。
- 「年間1000人程度」とする理由について
司法試験合格者数を「年間1000人程度」まで減少させるべきという理由は、以下のとおりである。
① 現に弁護士人口の急増に伴う「ひずみ」が生じつつあり、これをさら拡大させないためには、法曹養成制度全体の改善とOJTの充実による最低限の「質」の確保を図る必要があるところ、とりわけ司法修習生の就職先を確保した上で十分なOJTの機会を保障するためには、せめて、今後の司法試験合格者数を毎年1000名程度(弁護士人口の純増ペースとしては毎年500名程度)に抑える必要があること。
② 毎年の司法試験合格者数を年間1000人に抑えたとしても、弁護士数は一定のペースで増加を続けるのであり、そのペースを維持すれば、法曹人口は平成36年ころ約4万人、平成54年ころには約4万8000人に達する(なお、仮に年間1500人とすれば、平成39年ころ約5万人に達する)見込みであることが、日弁連のシミュレーション(弁護士の実働年齢を27歳から70歳までの43年間と仮定したもの)によっても明らかにされていること。
すなわち、司法審意見書は、法曹人口を将来的にフランス並みの5万人程度まで増員することを提言していたが、この目標値が果たしてわが国に妥当なものかどうかはさておくとして、「年間1000人程度」としても、将来的には5万人に到達すること。
③ 司法試験合格者数を年間1000人程度まで段階的に減少させることは、法科大学院制度それ自体の否定につながるものではなく、続く第2章で述べるとおり、法科大学院の統廃合や入学定員の削減、成績評価や修了認定の厳格化をはじめとする法曹養成制度の抜本的な見直しによって解決を図ることが可能と思われること。
- 減員の実施状況等を検証することの必要性について
以上述べたとおり、当面の間、司法試験合格者数を段階的に年間1000人程度まで減員した上で、これによって、既に述べたような「ひずみ」が解消できるかどうか等の検証が必要不可欠である。
そして、かかる検証の結果を踏まえつつ、将来的な法曹人口の伸びを視野に入れて、適正な司法試験合格者数を検討すべきである。
第6 法曹人口についてのまとめ
以上述べたとおり、司法審意見書から10年が経過する間に弁護士人口が急激に増加した反面、同意見書が想定した弁護士に対する需要はさほど増加せず、かえって様々な「ひずみ」が顕在化しつつある。当会においても、司法過疎・司法アクセス障害の解消や刑事・少年事件の公的弁護制度への対応上はこれ以上の弁護士人口の急増は必要ではなく、かえって弊害が生じかねない。そして、かかる「ひずみ」の解消のためには、毎年の司法試験合格者を3000人まで増加させるという閣議決定を見直し、年間1000人程度を目標として段階的に減少させた上、その実施状況等を検証しつつ、さらに適正な合格者数を検討することが必要である。
これは、当会が従前から目指してきた「市民に身近で信頼される司法」を実現するための司法改革を真に前進させる上で必要なことなのである。
【2 法曹養成制度改革について】
第1 新しい法曹養成制度の概要
- 新しい法曹養成制度の基本的枠組み
「はじめに」で述べたとおり、司法審意見書は、2010年(平成22年)ころまでには司法試験合格者数を3000人に増員するとともに、法曹の質を確保するためには法曹養成に特化した法科大学院を設置すること、法科大学院は、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度の中核をなすものとして位置付けた。
これは、従前の司法試験は「受験者の受験技術優先の傾向が顕著となってきたこと、大幅な合格者数増をその質を維持しつつ図ることには大きな困難が伴うこと等の問題点が認められ、その試験内容や試験方法の改善のみによってそれらの問題点を克服することには限界がある」 という司法審意見書の問題意識に基づくものであった。
- 法科大学院制度の基本理念
司法審意見書では、法科大学院における法曹養成教育は、理論的教育と実務的教育を架橋するものとして「公平性、開放性、多様性」を旨としつつ、専門的資質・能力の習得と、豊かな人間性の涵養、向上を図るという教育理念を掲げた上、入学者選抜においても、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法学部以外の学部の出身者や社会人等を一定割合以上入学させるなどの措置を講じるべきである、との方向性を打ち出した。
- 司法試験制度の改革
司法審意見書は、司法試験の基本的性格につき、「点」のみによる選抜から「プロセス」としての新たな法曹養成制度に転換するとの観点から、その中核としての法科大学院制度の導入に伴い、法科大学院の教育内容を踏まえた新たなものに切り替えるべきである、と提言した。
その上で、上記の観点から、法科大学院の学生が在学期間中その課程の履修に専念できるような仕組みとすることが肝要であり、法曹となるべき資質・意欲を持つ者が入学し、厳格な成績評価及び修了認定が行われることを不可欠の前提とした上で、法科大学院では、その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきである、とした。
- 司法修習制度の改革
司法審意見書は、新司法試験実施後の司法修習は、修習生の増加に実効的に対応するとともに、法科大学院での教育内容をも踏まえ、実務修習を中核として位置付けつつ、修習内容を適切に工夫して実施すべきである、と提言した。
その上で、前期集合修習と法科大学院における教育との役割分担の在り方については、今後、法科大学院の制度が整備され定着するのに応じ、随時見直していくことが望ましい、とした。
その後、最高裁判所に設置された司法修習委員会における議論の結果、現在の前期集合修習に相当する教育は法科大学院に委ね、新司法修習は実務修習から開始することとしつつ、制度移行期である新司法修習の第1期生(新60期)を対象に、司法研修所において4週間にわたる実務導入教育(導入修習)が実施された。第2期生(新61期)からは、かかる導入修習から、各実務修習地に司法研修所教官が出張して講義を行うという方式に切り替えられ、1年間の修習期間が①分野別実務修習8か月(民事裁判、刑事裁判、検察、弁護に各2か月ずつ)、②選択型実務修習2か月、③集合修習2か月、という各課程で構成されることになった。
第2 法科大学院の現状と問題点
しかしながら、法科大学院を中核とする「新しい法曹養成制度」の現状につき、司法審意見書の提言内容を体現しているかどうか、という観点から見るに、以下のような問題点が指摘されている。
- 法科大学院教育の「質」について
前記のとおり、この新制度は、従前の司法試験では「大幅な合格者数増をその質を維持しつつ図る」ことは困難であるという問題意識に基づいて創設されたものであるが、実際には、法科大学院における教育の「質」につき、様々な問題が生じている。
(1) 法科大学院間の教育内容の格差
法科大学院における教育内容については、設立認可時に設置基準に合致しているかどうかの適格認定がなされたものの、その具体的な教育内容については各法科大学院の裁量に委ねられる部分が大きかった。そのため、各法科大学院間における法律実務教育の内容に格差が生じている。
また、一部の法科大学院には、質の高い教員の数を確保することが困難であるため、司法試験に合格できる水準を満たすだけの教育内容を提供できないところも見受けられる。
その結果として、各法科大学院間には司法試験合格率においても大きな格差が生じている。
(2) 法科大学院における成績評価と修了認定が厳格になされていないこと
新制度においては、第三者評価(適格認定)を受けた法科大学院の修了者には新司法試験の受験資格が認められるが、これは、各法科大学院において成績評価と修了認定が厳格にされることが不可欠の前提とされていた。
しかしながら、かかる成績評価と修了認定は、各法科大学院における相対的評価であって、これを厳格に行い、大量の原級留置者・退学者を出すことになると、入学志願者が減って法科大学院の存立が危うくなる可能性もあるため、実際には成績評価と修了認定が厳格になされていないという現状にある。その結果、過剰な法科大学院修了者が年々累積しつつある。
さらに、新司法試験の合格率は年々下がる一方で、2011年(平成23年)の合格率は23.53%となった。かかる現状は「その課程を修了した者のうち相当程度(例えば約7~8割)の者が新司法試験に合格できる」教育が行われるものとして設置された法科大学院の理想とはかけ離れたものであると言わざるを得ない。
(3) 司法修習との連携不足
既に述べた経過により、前期集合修習が廃止され、司法修習生はいきなり実務修習に入ることとされた。
しかしながら、法科大学院では前期集合修習に代わる実務教育が必ずしも十分に行われていないため、司法修習生の中には、実務修習に必要不可欠とされる訴状、準備書面等の起案能力や要件事実の理解を欠いたまま実務修習に入らざるを得ない者も少なくない。そして、これらの修習生にとっては、分野別実務修習における教育内容も十分に理解できないまま修習期間が進行してしまうという不都合が生じている。
のみならず、分野別実務修習期間がそれぞれ2か月に短縮されたことにより、各分野とも1つの事件の全体の流れを経験できず、全体の流れの中での個々の手続の位置づけも理解できないまま、当該事案に対応しなければならない。また、そもそも2か月間では接することができる事件の数自体が限られてしまい、十分な臨床教育が受けられないという不都合も生じている。
以上のとおり、法曹の質を確保する上で必要不可欠な実務基礎教育を、前期集合修習に代えて法科大学院で行うことは、極めて困難となっている。
- 多様なバックグラウンドを有する人材の確保について
前記のとおり、法科大学院の入学者選抜においては、多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法学部以外の学部の出身者や社会人等を一定割合以上入学させるなどの措置が講じられるはずであった。しかしながら、実際には、かかる人材確保の上でも、様々な問題が指摘されている。
(1) 法科大学院適性試験志願者数の激減
法科大学院適性試験は、大学入試センターと日弁連法務研究財団という2つの団体が実施することとなり、同試験の志願者数は、初回の2003年(平成15年)は合計5万9393人に達したが、その後は減少の一途をたどり、2010年(平成22年)は合計1万6470人と、初回比約72.3%もの大幅減となった。
このことと相まって、司法試験出願者数も2004年(平成16年)の5万0166人をピークとして減少し続け、2010年は2万7215人となった。
かように、法曹を志す者の減少傾向が顕著となっており、結果として、有為な人材を法曹界に迎え入れることができなくなり、この国の司法制度の健全な維持そのものが脅かされてしまうのではないか、という危惧が生じている。
(2) 社会人、非法学部出身者の割合の減少
現存する法科大学院のほとんどは昼間に講義等が行われるため、入学に当たっては事実上、勤務先を退職することを余儀なくされ、法科大学院に通学している間もほぼ勤労収入は見込めないため、その間の生活費だけでなく、授業料や教材費など、相当な金額を予め確保しておく必要がある。
このため、法科大学院への入学者中、社会人入学者が占める割合は、設立当初(2004年)は48.4%であったところ、その後は徐々にその比率が下がり、2010年度には24.1%となった。また、非法学部出身が入学者中に占める割合も、2004年は34.5%であったが、2010年は21.1%まで低下した。
また、新司法試験の合格者中、非法学部出身者が占める割合も、既修者のみが受験した初回(2006年)の11.5%は例外として、2007年の22.3%から年々漸減傾向にあり、2010年は19.0%に低下した。
司法試験制度に比べて、法曹資格を得るために要する時間と費用の負担が格段に重くなったことも影響して、あえてリスクを冒して法科大学院に入学しようとする社会人や非法学部出身者の数が減少しているものと思われ、かかる減少傾向を踏まえて社会人入学者枠を撤廃した法科大学院もある。
このような現状では、司法審意見書が提言した「多様なバックグラウンドを有する人材を多数法曹に受け入れるため、法学部以外の学部の出身者や社会人等を一定割合以上入学させる」という構想は、有名無実化しつつあると評価せざるを得ない。
第3 当面の改善策について
かかる法科大学院をめぐる問題点を解決するためには、以下に述べるとおり、①「質」の確保を図るための改善策と、②多様なバックグラウンドを有する人材の確保を図るための改善策の、両方を講じる必要がある。
- 「質」の確保を図るための改善策
(1) 法科大学院の統廃合及び入学定員の減員
法科大学院間の教育レベルの格差を解消し、法曹の「質」を確保できるだけの教育を十分に行うためには、教育資源を集中させるとともに、更なる少人数制教育を施すことによって、各法科大学院における教育の質を向上させ、併せて、実務基礎教育の充実を図ることが喫緊の課題である。
そのためには、法科大学院の統廃合及び入学定員の減員が前提条件であると思われるが、後記の「多様なバックグラウンドを有する人材の確保」という観点からは、夜間のみの通学が可能な法科大学院の存続が特に考慮されるべきである。
(2) 成績評価と修了認定の厳格化
新しい法曹養成制度の理念である「プロセスによる法曹養成」を実効化あらしめ、司法試験や司法修習との連携を強化するためには、進級時における成績評価と修了時における認定とをいっそう厳格化し、在学中の段階的な選抜によって法科大学院修了者の質の確保を図ることが必要不可欠である。
そして、各法科大学院における成績評価と修了認定の厳格化を担保するための方策がとられるべきである。
(3) 前期集合修習の復活
法科大学院において、従前の前期集合修習の内容、とりわけ実務法律文書の起案、講評の実施が困難であるという現状に鑑みれば、端的に、司法研修所における前期集合修習を復活させることが、過去の実績・蓄積に照らしても、効率的かつ最善の措置であることは論をまたない。
本決議の第1項に述べるとおり、司法試験の年間合格者数を1000人程度にまで減員すれば、かかる前期集合修習を復活させることも十分可能となるはずである。
- 多様なバックグラウンドを有する人材の確保を図るための改善策
(1) 経済的負担の軽減
既に述べたとおり、新しい法曹養成制度の下では、法曹資格を得るために多大な時間と費用がかかり、しかも法科大学院在学中に勤労収入を得ることが困難であるため、このことが大きな原因の1つとなって、社会人出身者や非法学部出身者の志願者が減少傾向をたどっているものと思われる。
そもそも、司法制度を支える公的インフラとしての性格を持つ法曹の養成は、法科大学院から司法試験、司法修習に至るまでの全「プロセス」において、国が責任をもって担うという基本的視点を持つことが肝要である。
その上で、法曹を志す者の経済的負担を軽減するため、司法修習生に対する給費制を維持することはもちろん、適正な法科大学院の統廃合と入学定員の減員が行われることを前提として国庫からの補助金を増額するとともに、償還不要の奨学金制度をいっそう拡充すべきである。
(2) 司法試験合格者数の見直し
法曹を志す者全体に占める社会人経験者や非法学部出身者の割合が減少の一途をたどっているのは、前記のような経済的負担の大きさをはじめ新しい法曹養成制度それ自体の問題点もさることながら、昨今の司法修習生の就職難をはじめ、法曹という職業そのものの魅力が低下していることも大きな原因の1つであると思われる。
したがって、多様かつ有為な人材に法曹を志してもらうためにも、現に在学する法科大学院生に配慮しつつ、司法試験の合格者数を、既に述べたとおり、現実の需要等を踏まえた適正な人数に至るまで段階的に減少させることが必要である。
第4 法曹養成制度に関するまとめ
以上述べたとおり、法曹の質を確保しつつ多様かつ有為な人材を確保するためにも、法科大学院の統廃合と入学定員の減員、法科大学院における教育内容の充実と成績評価・修了認定の厳格化、法科大学院生に対する経済的負担の軽減制度の充実、前期集合修習の復活など、法曹養成制度全体を早急に見直す必要がある。
よって、主文のとおり決議する。
2011年11月29日開催
札幌弁護士会臨時総会