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水戸地方裁判所土浦支部は、本年5月24日、1967年8月に茨城県北相馬郡利根町布川で発生した強盗殺人事件(いわゆる布川事件)について、櫻井昌司氏及び杉山卓男氏に対して、再審無罪判決を言い渡した。同判決は、両氏の捜査段階の自白について、捜査官らの誘導等により作成されたものである可能性を否定できないとして、その信用性に疑いがあること等を理由に、無罪との結論を導き出した。
虚偽の自白をする原因は、捜査機関による自白の強要ないし誘導等にある。布川事件のみならず、厚生労働省元局長事件、志布志事件等、今なお捜査機関は、自白獲得のために取調べにおける強要及び誘導等をなしている。このような捜査機関の自白強要等により虚偽の自白に追い込まれることで、冤罪が生まれるのである。冤罪を防止するためには、虚偽自白を防止する必要があり、虚偽自白を防止するためには、取調べの過程を可視化することが必要不可欠である。
しかし、取調べの可視化は、一部のみの可視化では全く意味をなさない。布川事件においては、取調べの一部につき録音され、編集された録音テープが虚偽自白の信用性を高め、有罪を根拠づける証拠となってしまった。一部のみの可視化では、虚偽自白の強要等の防止には役立たないばかりか、かえって冤罪を作り出す危険が高まるだけなのである。虚偽自白及び冤罪の防止には、取調べの「全過程」を可視化することが必要不可欠である。
また、布川事件では、有罪が確定した後である再審請求審になって初めて、検察官が証拠請求しなかった手持ち証拠が開示されたことにより、両氏が無罪であることを根拠づけることとなった。検察官が早期に手持ち証拠を開示ないし証拠の請求をしていれば、両氏がこのように長期間身体拘束されることはなかったであろう。真実発見及び冤罪防止のためには、検察官の手持ち証拠の全面開示が必要不可欠である。
両氏は、1967年10月に逮捕された後、1978年7月になされた上告棄却決定によって無期懲役刑が確定したため服役し、1996年に仮出獄されるまで29年もの長期間、身体拘束を受けてきた。検察官は、両氏が無実の罪を着せられ、人生の大半を刑務所等で暮らさなければならなかったことに思いを致し、本判決を真摯に受け止め、控訴することなく確定させるべきである。検察官は、「法の正当な適用を請求」(検察庁法4条)することを職務としており、控訴を断念することがその職責を全うすることである。
当会は、このような冤罪の悲劇を繰り返さないため、取調べ全過程の可視化及び全面証拠開示の実現に向けて、全力を尽くす所存である。
2011年5月30日
札幌弁護士会 会長 山﨑 博
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