声明・意見書

国会での採決強行による特定秘密の保護に関する 法律の制定に抗議し、同法の廃止を求める声明

  1.  先般の臨時国会で、特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)が成立した。
  2. (1) 本法律がその内容において、基本的人権を侵害するものであること、民主主義を軽視するものであり、憲法上の諸原理をないがしろにするものであることは、当会が2012年3月23日に公表した「秘密保全法制定に反対する会長声明」及び2013年11月21日に公表した「特定秘密の保護に関する法律案の制定に反対する会長声明」において明らかにしてきたところである。すなわち、本法律には①行政機関の長が指定する「特定秘密」の範囲がその法文上広範、不明確であり、その結果、国民が国政に関する重要な情報から遠ざけられることになりかねない②「特定秘密」の漏えい行為や「特定秘密」の取得行為のみならず、これらの未遂や共謀、独立教唆又は扇動をも処罰する点、処罰範囲が極めて広範であることから、国政に関する情報について国民がアクセスすることや公務員がこれを外部に発する行為を萎縮させる可能性が大きく、また報道機関による取材行為を刑罰によって萎縮させ、取材の自由・報道の自由を実質的に失わせることになり、ひいては民主主義の前提である国民の知る権利を侵害する③「特定秘密」の取扱をする者について、公務員のみならず民間事業者に対しても、高度のプライバシーといえる情報に関し「適性評価」を目的とした調査を許容する点、国民のプライバシーの権利を侵害するおそれがある上、個人の政治活動や思想信条にまで踏み込む調査がなされる危険性さえ孕んでいると評価できる、等の問題点があることから、当会は本法律に一貫して反対してきた。
     かかる指摘は、当会のみならず、かねてより日本弁護士連合会並びに全国の弁護士会が同じくしてきたところである。また研究者や人権団体はもとより、最近は、ジャーナリストや文化人などからも同様の指摘がなされるに至っている。加えて、国連人権高等弁務官からは「『秘密』の定義が十分明確ではなく、政府が不都合な情報を秘密扱いする可能性がある」と懸念が表明され、諸外国からも「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(いわゆるツワネ原則)」に反するとの指摘を受けるなど、国内外を問わず、本法律の制定を深く憂慮する声が出されていたところである。
    (2) なお、国民からの批判の声に押される形で、参議院での審議の最終盤において、「第三者機関」を設置する構想などが政府答弁としてなされている。
     しかしながら、かかる構想はそれ自体、衆議院では何ら審議されていなかったうえ、そもそもここで検討されている「第三者機関」はいずれも行政機関内に設置されるか、あるいは運用基準策定に関する総理大臣の諮問機関としての位置づけにすぎないものであることから、「第三者による監視によって、特定秘密指定の適正を確保する」するものとは到底いえない。したがって、かかる機関が設置されたとしても、基本的人権を侵害し憲法上の諸原理をないがしろにする本法律の危険性は何ら払拭されるものではない。
  3. (1) また本法律に関しては、その内容のみならず、その審議自体が極めて粗雑であり、不十分であったといわざるを得ない。
     すなわち本法案の審議においては、法案内容の不備や不明確な点が次々と指摘されたにもかかわらず、担当大臣が答弁を二転三転させるなど、政府が本法案について十分な検討すらせず国会に上程していたことが明らかになった。これに比例するように、国会内外では、本法律について十分な審議時間を経た慎重審議を求める声が高まっていたところである。
     それにもかかわらず政府与党は、まず衆議院において特別委員会で強行採決したうえ、本会議においてもその採決を強行した。
     当会は2013年12月2日に「特定秘密の保護に関する法律案の衆議院での採決の強行に抗議し、参議院での廃案を求める会長声明」を公表し、かかる採決の強行に強く抗議している。
     (2) しかしながら政府与党は、参議院においても十分な審議時間を確保しないまま、参議院特別委員会においても再び強行採決の愚行を繰り返した。
     当会は2013年12月5日に「参議院国家安全保障委員会における特定秘密保護法案の強行採決に関する札幌弁護士会会長談話」を公表し、かかる強行採決は民主主義に対する挑戦であり、今臨時国会での成立を目指す拙速な審議態度を直ちに改めるように政府与党に求めたものの、これが容れられることなく、同月6日、本法律は成立するに至った。
     (3) 基本的人権を侵害し、憲法上の諸原理をないがしろにする本法律を、十分な審議時間を確保することもないまま、民主主義のルールを無視して成立させたことは、我が国における民主主義を踏みにじるものであり、断じて許すことができない。当会は、かかる政府与党の姿勢に対し最大級の非難をする。
  4.  当会はこの間、本法律案の廃案を求め、市民集会やデモ行進、街頭活動などにより本法律案の危険性を訴えてきた。またある世論調査によればその過半数を占めたという本法律案への反対や慎重審議を求める国民・市民の声は、近年まれな大規模のデモ行進や街頭行動、国会議員への要請行動などとして現れ、当会もこれら国民・市民とともに反対運動を展開してきたところである。当会は、これら国民・市民の活動は基本的人権を保持するための国民自身による「不断の努力」(憲法12条)を表すものと考える。
  5.  当会は、このような国民・市民の声を無視する形で成立した、基本的人権を侵害し、民主主義を始めとする憲法上の諸原理をないがしろにする本法律を即時に廃止するよう求める。
     加えて、本法律に基づく関連法令の改正やその運用によって国民・市民の基本的人権が不当に制約されることのないよう監視し、国民・市民とともに本法律の廃止に向けた取り組みを継続していくことをここに表明する。

2013年(平成25年)12月10日
札幌弁護士会会長 中村 隆

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