「特定複合観光施設区域の整備の促進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明
昨年来、国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)に所属する有志の議員によって、「特定複合観光施設区域の整備の促進に関する法律案」(以下「カジノ解禁推進法案」という。)が国会に提出され、今国会において審議されると報道されている。
同法案は、カジノを含む特定複合観光施設区域の整備促進を目的とし、その為の関係諸法令を整備するための基本法的な性格を有するものとされ、「カジノを解禁する」という結論を定め、政府に対し関係法令の整備を行うことを義務付けるというものである。しかしながら、「カジノを解禁する」ということは、我が国の刑法において違法行為として禁止 されている「賭博」を合法化するものであるが、以下に述べるとおり、同法案には、賭博を合法化できるような正当な理由は認められない。
そもそも、 カジノ解禁推進法案自体 、カジノ解禁により確実に予想される弊害として、「暴力団員その他カジノ施設に対する関与が不適当な者の関与」、「犯罪の発生」、「風俗環境の悪化」、「青少年の健全育成への悪影響」、「入場者がカジノ施設を利用したことに伴い受ける悪影響」(同法案10条)などを認めているにもかかわらず、それらに対する具体的かつ有効な予防策及び解決策は何ら示されていない。 刑法が賭博行為に刑罰を科してまで禁止していることを 踏まえるならば、カジノ解禁による弊害に対する具体的かつ有効な予防策及び解決策を設けることは、カジノを解禁するための必要条件と言うべきであろう。この点だけを見ても、カジノ解禁推進法案は欠陥法案というべきである。
実際、カジノを解禁している各国においても、犯罪の増加は避けられておらず、かかる犯罪の増加から地域風俗環境の悪化はもとより、公序良俗の乱れ、マネーロンダリングのおそれ、青少年への悪影響など、深刻な弊害が生じている。
カジノ解禁により生ずる弊害の中でも、特に、ギャンブル依存症の問題は深刻である。依存症となった者は、ギャンブルをするために借金を繰り返して経済的に破綻する者、あるいは窃盗、横領といった財産上の犯罪に走る者もいれば、最悪の場合、強盗、殺人、放火といった凶悪事件に発展することもある。既に日本においては競馬・パチンコなどのギャンブルが存在し、相当数のギャンブル依存症患者が発生している現実があり、その周囲には、借金の後始末をする家族や友人、あるいは犯罪の被害者となってしまった者等、ギャンブル依存症によって多大な苦しみを背負うこととなった者が多数存在している。それらの者に対する有効な対策も無い現状において、さらにカジノを解禁すれば、徒にギャンブル依存症患者を増加させ、経済的破綻や犯罪増加などの社会問題をいっそう深刻化することは明らかである。
その一方で、立法目的として掲げられている経済効果は、確かに一定の効果があるとの試算も存在するものの、現実には、先に解禁した韓国、米国等ではカジノ設置自治体の人口が減少し、また、その適正な維持に伴う各種規制コストや犯罪対策、環境整備対策、依存症対策等、弊害に対処するためのコスト増加により、むしろ多額の損失を被ったという調査結果も存在しているのであって、表面的なカジノの経済効果を安易に認めることは妥当ではない。
以上のとおり、本来、刑法によって違法とされるカジノ=賭博を解禁する合理的な理由は認められず、むしろこれにより生ずる弊害が明らかであるにもかかわらず、その対策について何ら検討せず、「カジノ解禁」という結論に向けて拙速な成立を目指す「カジノ解禁推進法案」について、当会は反対の立場を表明し、同法案に反対するものである。
以上
平成26(2014)年5月29日
札幌弁護士会
会長 田村 智幸