「商品先物取引法施行規則」改正案に対する意見書
2014年(平成26年)4月28日
札幌弁護士会
会長 田村 智幸
第1 意見の趣旨
農林水産省及び経済産業省が2014(平成26)年4月5日に公表し、意見募集を行っている商品先物取引法施行規則の改正案について、同規則第102条の2を改正して、ハイリスク取引の経験者に対する勧誘(同条第1号)及び熟慮期間等を設定した契約の勧誘(同条2号)を不招請勧誘禁止の適用除外としていることには強く反対する。
第2 意見の理由
- 商品先物取引は、複雑な仕組みに基づくハイリスク・ハイリターンの特殊な取引であり、投資の知識や豊富な経験が必要であるにもかかわらず、自ら勧誘を要請していない一般市民に対する強引な勧誘や不十分な説明等により、長年にわたり深刻な被害を発生させてきた。
その結果、2009(平成21)年7月の商品先物取引法改正により、不招請勧誘(顧客の要請によらない訪問・電話による勧誘)禁止規定が導入され、2011(平成23年)1月から施行されるに至っている。しかも、その同法改正の際の国会審議における附帯決議では、不招請勧誘禁止の対象について、「当面、一般個人を相手方とする全ての店頭取引及び初期の投資以上の損失が発生する可能性のある取引所取引を政令指定の対象とすること」や、「施行後1年以内を目処に、規制の効果及び被害の実態等に照らして政令指定の対象を見直すものとし、必要に応じて、時機を失することなく一般個人を相手方とする取引全てに対象範囲を拡大すること」とされるなど、商品先物取引における不招請勧誘禁止規制と適用対象の範囲は、国会における慎重な審議を踏まえて定められたものである。 - 今回の改正案は、商品先物取引法第214条9号により定められている不招請勧誘禁止規制について、省令(施行規則)の改正で適用除外を拡大しようとするものであるところ、同号括弧書きにより省令で禁止の対象から除外することができるとされているのは「委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのない行為」に限定されている。
ところが、改正案は、不招請勧誘禁止の適用除外の範囲を大幅に拡大していて、事実上、不招請勧誘を解禁するにも等しいものであり、「委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのない行為」とは到底言えない。
このように、本改正案は、法律による委任の範囲を超えて適用除外を大幅に拡大し、省令(施行規則)により法律の規定を骨抜きにするものであって、手続的にも容認できるものではない。 - そして、改正案(施行規則第102条の2第2号)では、勧誘時に顧客の年齢が70歳未満であることを確認し、70歳以上の場合は契約できないとしているものの、逆に言えば、商品先物取引業者が、一般消費者に勧誘目的で無差別に訪問又は電話すること自体は、相手方が何歳であっても禁止されないことになる。
また、商品先物取引業者において、不招請勧誘を行った相手方が70歳以上であった場合、後日、当該相手方から申出があったものとして取引を開始させるといった潜脱行為も容易に予想される。
さらに、7日間の熟慮期間を設定するという条件のもとに70歳未満の一般消費者に対する不招請勧誘を事実上、解禁していることについては、旧海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律に類似の規定(14日間の熟慮期間)がありながら、被害防止・救済には全く機能しなかったことからも、実効性はおよそ期待できないところである。
そもそも、複雑でハイリスク・ハイリターンな取引に不慣れな一般消費者が、商品先物取引業者の外務員から、自ら要請していない勧誘(不招請勧誘)を受けて基本契約を締結した後、わずか7日の間に、取引を開始するかどうか熟慮し、場合によっては取引を開始しない旨の判断を適切になし得るというのは非現実的というほかなく、7日間の熟慮期間の設定が、不招請勧誘による商品先物取引被害の歯止めになるとは到底考えられない。 - 以上のとおり、改正案は、長年にわたる商品先物取引による深刻な被害を防止するため不招請勧誘禁止を制定した国会の慎重な審議を何ら考慮しないばかりか、法律の委任の範囲を超え、法律の改正なくして省令(施行規則)によって法律の規定を事実上骨抜きにする手続的な問題があるほか、内容においても被害防止・消費者保護の実効性がなく、かつての商品先物取引被害を再燃させかねないものであり、当会は強く反対する。
以上