声明・意見書

電気通信事業における利用者保護のための法的措置を求める意見書

2014(平成26)年5月29日
札幌弁護士会
会長  田村 智幸

第1 意見の趣旨

 携帯電話、スマートフォン、インターネット、光回線等の電気通信を利用して提供されるサービス(以下「電気通信サービス」という。)に関する契約について、次のとおり利用者保護のための法的措置を早急に実施すべきである。

  1. 訪問販売及び電話勧誘販売についての消費者保護規定の適用
     電気通信事業法第2条第5号に規定する電気通信事業者が行う同条第4号に規定する電気通信役務の提供で、特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)に規定する訪問販売(同法第2条第1項)又は電話勧誘販売(同条第3項)に該当するものについては、特定商取引法を適用するか、同法と同等の消費者保護規定(書面交付義務、クーリング・オフ制度、過量販売規制、不実告知の禁止及びそれらの違反に対する行政処分、罰則等)を電気通信事業法に導入すること。
  2. 電気通信事業者等の説明義務に関する規制の強化
    1. (1) 電気通信事業法第26条に規定する電気通信役務の提供条件の説明について、少なくとも同法施行規則第22条の2の2第3項に規定する事項については、同条第2項但し書きの規定に関わらず書面の交付を義務づけること。
    2. (2)同法第26条に規定する電気通信事業者等(電気通信事業者及び電気通信事業者の電気通信役務の提供に関する契約の締結の媒介、取次ぎ又は代理を業として行う者)による電気通信役務の提供条件の説明内容が実際の提供内容と異なる場合は、当該電気通信役務の提供を受ける者は、当該電気通信役務の提供に関する契約を取消し又は解除できるものとすること。
    3. (3)前項の取消し又は解除に関して、当該電気通信役務の提供に関する契約の締結に伴って、当該役務の提供を受けるために必要な機器(携帯電話端末等)の売買契約が締結されている場合は、当該取消し又は解除の効果は当該売買契約にも及ぶものとすること。

第2 意見の理由

  1.  近年、全国の消費生活センター等において、「携帯電話・スマートフォン」、光回線やプロバイダー契約などの「インターネット接続回線」、「モバイルデータ通信」などといった電気通信サービスに関する相談が増加している。国民生活センターの集計(PIO-NET)によれば、2012年度は約4万2800件であり、2013年度も前年を上回るペースで多数の相談が寄せられている。
  2.  電気通信サービスの料金体系は複雑かつ多様である場合が少なくなく、様々なオプションの設定、あるいは解約時に高額な違約金が規定されているものもある。
     また、電気通信事業者が直接販売することはほとんどなく、多くの場合は、代理店や取次業者等によって勧誘、説明が行われている。そして、代理店や取次業者の担当者が十分な知識を有しているとは限らず、説明が不十分、あるいは実際の提供内容と異なる説明がなされたままで契約の締結に至り、契約内容や料金に関するトラブルが多数発生するという事態を生じている。
     例えば、国民生活センターの2014(平成26)年3月6日付け報道発表資料によると、主な相談事例として、次のようなものが挙げられている。

    1. (1)電話勧誘販売・訪問販売
      • 夜遅く電話で勧誘され回線契約を申し込んだが、説明のなかったプロバイダーも契約したことになっていた。
      • 今後は今の固定電話は使えなくなると言われて光回線を契約してしまった。
      • 勧誘電話をかけてきた事業者に遠隔操作でプロバイダーの設定をしてもらったが、頼んでいないオプションサービスも契約したことになっていた。
      • 訪問してきた事業者に光回線契約を申し込んだら、知らない間に映像配信サービスも契約したことになっていた。
      • 勧誘が繰り返されて迷惑だ。
    2. (2)店舗購入
      • パソコンを買いに家電量販店に行ったところ、パソコンを安く買えると光回線を勧誘され契約したが、後日、覚えのないオプションも契約していることが分かった。
      • 広告どおりの通信状態ではなかったので解約を申し出たが、解約料等を請求された。
    3. (3)その他
      • キャッシュバックするという広告を見て光回線等を申し込んだが広告どおりの金額がキャッシュバックされない。
  3.  こうした事態に鑑み、総務省では、2011(平成23)年10月、「電気通信サービス利用者WG提言」を公表しており、その中では、広告表示、勧誘、重要事項説明、適合性の原則、契約解除に係る問題及び契約解除の手続面の課題などが示され、これらの問題に対する今後の方向性として、①利用者視点から分かりやすい広告表示を行う、②勧誘に関し、依然として多数の相談が寄せられる状況になっていることから、電気通信事業者ごとの取組に加え、業界を挙げた取組強化、③消費者が、契約に当たり、サービスの利用条件や不利益事実などをしっかりと理解できるよう取組を進めていく、などが挙げられていた。
     また、内閣府消費者委員会も、2012(平成24)年12月11日付け「電気通信事業者の販売勧誘方法の改善に関する提言」を公表して、「総務省は、代理店を含む電気通信事業者による自主基準等の遵守の徹底を図るとともに、(中略)クーリング・オフや自動更新の問題についても改善を促すこと」、さらに「相談件数が明確な減少傾向になる等の一定の改善が見られない場合には、総務省及び消費者庁は協議を行った上で、(中略)消費者が契約内容を十分理解して利用できる環境の実現を図るための法的措置を講じることを含め、必要な措置を検討し確実に実施すること」を求めている。
     しかし、その後も、相談件数が何ら減少していないことは前述のとおりであり、もはや電気通信事業者等の自主的対応による改善は期待できず、一刻も早く法的規制の強化を講じることが必要な状況となっている。
  4.  先に挙げた相談事例にもあるように、電気通信サービスに関する契約においては、訪問販売や電話勧誘販売がなされてトラブルが生じている場合が少なくない。PIO-NETによれば、2013年度の「インターネット接続回線」に関する相談件数(通信回線契約のほかプロバイダ契約も含む)のうち約65%、「固定電話サービス」に関する相談件数のうち約51%が訪問販売及び電話勧誘販売によるものである。
     ところが、電気通信事業者が行う電気通信役務の提供については、特定商取引法第26条第1項第8号、同法施行令第5条及び別表第2・32号により、同法の訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売の各規制を適用しないものとされている。これは、「その勧誘若しくは広告の相手方、その申込みをした者又は購入者若しくは役務の提供を受ける者の利益を保護することができると認められる販売又は役務の提供として政令で定めるもの」(同法26条第1項第8号)として適用除外とされているものであるが、他方で、電気通信事業者が行う電気通信役務の提供を規制する電気通信事業法には、訪問販売や電話勧誘販売の場合に特定商取引法のような消費者保護の規定は設けられていない。そのため、消費者が訪問販売や電話勧誘販売で突然の「不意打ち」による勧誘を受けて契約してしまった場合に、クーリング・オフなどによる救済が得られない状況となっている。訪問販売や電話勧誘販売の問題性は、その勧誘方法自体によるものであり、取引の内容が電気通信役務の提供であっても、消費者保護を図るべき必要性においては他の取引と何ら異なるところはない。
     したがって、電気通信事業者が行う電気通信役務の提供で、訪問販売又は電話勧誘販売に該当するものについては、特定商取引法の適用除外とすることを止めて同法を適用するか、同法と同等の消費者保護規定(書面交付義務、クーリング・オフ制度、過量販売規制、不実告知の禁止及びそれらの違反に対する行政処分、罰則等)を電気通信事業法に導入すべきである。
  5.  また、現行の電気通信事業法第26条は電気通信事業者等の電気通信役務に関する料金その他の提供条件の概要についての説明義務を定めているが、その説明義務違反があった場合については、電気通信事業者は利用者からの苦情及び問い合わせについて適切かつ迅速に処理しなければならないと規定されているのみで(同法第27条)、説明義務の遵守を実効的に担保するための措置は講じられていない。
     この点、同法の目的が「電気通信役務の円滑な提供を確保するとともにその利用者の利益を保護し、もって電気通信の健全な発達及び国民の利便の確保を図り、公共の福祉を増進すること」(同法第1条)にあるとされていることからすれば、同法第26条の説明義務を電気通信役務を受けようとする者に対する契約上の義務として位置づけ、その義務に違反して実際の提供内容と異なる説明がなされた場合には電気通信役務の提供に関する契約の取消し又は解除ができるものとする民事的効力を定めることも可能であり、実効的な規制方法として必要である。
     そして、この説明義務の違反にかかる民事的効力を規定するに際しては、説明の有無及び内容を明確化して後の紛争を防止する観点から、同法施行規則第22条の2の2第2項但し書きが書面の交付に代えて電子メールやファイルの記録等による説明方法を許容していることを改め、少なくとも同条第3項に規定する事項については書面の交付を義務づけるべきである。
  6.  加えて、電気通信役務の提供に関する契約においてはそれと同時に、当該役務を受けるために必要な機器(携帯電話端末等)の売買契約が締結される場合があり、前述したような電気通信役務の提供に関する契約の取消しや解除の効果がそれのみに止まるとすると、当該役務が提供されないにもかかわらず、同時に購入した機器の売買代金を支払い続けなければならないといった不合理が生じる。したがって、取消し又は解除の効果が当該売買契約にも及ぶものとする規定を設ける必要があり、これは、特定継続的役務提供取引に関する特定商取引法第48条第2項や割賦販売法第35条の3の11第3項等と同様の考え方に基づくものである。

以上

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