労働者派遣法改正案に反対する会長声明
- 政府は,2015年3月13日,「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下「改正案」という。)を第189回通常国会に再度提出し,現在国会で審議中である。
- 改正案は,従来の専門26業務による区分を廃止した上で,派遣会社で無期雇用されている派遣労働者については,派遣期間の制限を行わないこと,派遣会社で有期雇用されている派遣労働者については,これまで業務単位であった上限3年の派遣期間の制限を人単位に変更することとしている。
同時に,改正案は,派遣先において,有期雇用派遣労働者の交代によって派遣の継続的受け入れが3年の上限を超す場合には,過半数組合か過半数代表者の意見聴取をしなければならないことや,派遣期間の上限に達した派遣労働者の雇用安定措置として,派遣元が,①派遣先への直接雇用の申し入れ,②新たな派遣就業先の提供,③派遣元での無期雇用化等のいずれかの措置を講じなければならないことを定めている。 - しかしながら,派遣期間の制限を人単位に変更するということは,労働者派遣法の制定以来の基本的な理念である「常用代替防止」の考えを実質的に放棄して、一般的恒常的業務について,派遣先において派遣労働者を永続的に利用することを可能とするものである。
また,過半数組合への意見聴取の義務付けは,あくまで意見の聴取を義務付けるものに過ぎず,その意見に使用者が拘束されるわけではない。このような規制に実効性がないことは,当会が昨年公表した2014年4月30日付け「労働者派遣法改正案に反対する会長声明」において既に指摘したとおりである。
さらに,上記①ないし③の雇用安定措置も,派遣元の働きかけによって,派遣先での直接雇用や新たな派遣就業先での就労が実現されるとは限らないし,2008年9月以降の景気後退期(いわゆるリーマンショック)の際には,有期雇用の派遣労働者だけでなく,無期雇用の派遣労働者の7割以上が解雇されていたことからすれば,派遣元における無期雇用がなされることも派遣労働者の解雇を抑制するものではないから,いずれも雇用を継続するための措置として十分とは言えない。 - 以上からすれば,改正案は,労働者派遣法の基本的理念である常用代替防止の考えを放棄する一方,定められた雇用安定措置は,実効性があるとは言い難いものであって,労働者全体の雇用の安定と適正な労働条件の確保が損なわれる結果をもたらすものである。
よって,当会は,改正案に対し,強く反対する。
以上
2015年(平成27年)6月11日
札幌弁護士会
会長 太田 賢二