声明・意見書

死刑執行に関する会長声明

 2015年6月25日、名古屋拘置所において、1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。上川陽子法務大臣によるはじめての死刑執行であり、2012年の政権交代後において死刑が執行されたのは7度目で、合計12名になる。

 本件は、弁護人が被執行者による控訴取り下げの無効を主張していた事案であるところ、控訴取り下げは死刑執行の十分な根拠たり得ないものである。このことは、2014年7月、国際人権(自由権)規約委員会が、我が国に対し、「死刑の廃止を十分に考慮」すべきとする勧告を行い、その中で、日本の死刑制度には、死刑判決に対する必要的な上訴制度がないこと等のほか、手続面においても国際人権基準に照らし大きな問題があると批判していることからも明らかである。

 また、2014年3月27日、静岡地方裁判所が、袴田巌氏の第二次再審請求事件について、再審を開始し、死刑及び拘置の執行を停止する決定をした。袴田事件は、あらためて、えん罪による誤った死刑執行の危険を明らかにし、死刑制度の問題点を浮き彫りにした。

 袴田事件再審開始決定後である2014年11月に実施された死刑制度に関する世論調査では、「死刑もやむを得ない」との回答が80.3%であったものの、そのうち40.5%は「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」としており、国民の多数が死刑制度を支持しているとは言い難い状況にあり、むしろ速やかに死刑廃止について議論をする必要がある。

 さらに、2015年2月、最高裁判所は、立て続けに3つの事件について裁判員裁判による死刑判決を覆す判断をしたところ、これらの最高裁判所の判断は大きく報道された。現状の裁判員裁判では、死刑制度に関する極めて限られた情報のもと、死刑適用基準も不明確なまま、一般市民は死刑判断を余儀なくされているのであり、もはや同制度に関する議論を回避することは許されない。

 袴田事件により、誤判、えん罪による誤った死刑執行の危険が現実的危険であることが明らかとなり、死刑適用基準が大きく動揺し、死刑制度全般に関する国民的関心が今までになく高まっている。

 当会は、政府に対し、今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに、あらためて死刑の執行を停止し、死刑制度全般に関する情報を広く国民に公開し、死刑制度の廃止について全社会的な議論を直ちに開始することを求めるものである。

2015年(平成27年)6月26日
札幌弁護士会
会長  太田 賢二

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