最低賃金の大幅引き上げを求める会長声明
- 2016年7月28日、中央最低賃金審議会は、今年度の最低賃金の引き上げの目安額について、全国の加重平均で24円とすることを決めた。この決定を受け、北海道の最低賃金審議会が最低賃金額を答申し、最終的に北海道労働局が最低賃金を決定することとなる。
- 今回の目安額を基に計算すると、全国平均の最低賃金額は時給822円となる。北海道についていえば、4つのランクの中のCランクであり、引き上げの目安額は22円であり、仮に、このとおり最低賃金を引き上げると、最低賃金額は786円となる。
この全国の加重平均で24円という引き上げは、過去最高の引き上げ額であるが、到底、十分な引き上げといえる額ではない。すなわち、822円という金額では、フルタイム(1日8時間、月22日)で働いても、総支給額で月収14万4000円余り、年で173万円余りである。ワーキングプアの一つのラインは年収200万円であるとされているが、この金額はそれを大きく下回るものである。この金額では、単身で生活しても経済的な不安に直面するものであるし、まして家族を養うことは極めて困難である。 現に「札幌市で若者がきちんとした生活をするためには、男性=月額225,002円、女性=月額220,249円(ともに税等込み)が必要」であり、「試算の月額を、賃金収入で得るとすると、時給換算で男性=1,295円、女性=1,267円」になるとする調査結果も公表されている(2016年6月3日北海道労働組合総連合「北海道最低生計費試算調査の結果について」から引用)。 - 先進諸外国の最低賃金を見ると、フランスは9.67ユーロ(約1219円)、イギリスは7.2ポンド(25歳以上。約1151円)、ドイツは8.5ユーロ(約1071円)であり、アメリカでも、15ドル(約1688円)への引上げを決めたニューヨーク州やカリフォルニア州をはじめ最低賃金を大幅に引き上げる動きが広がっている(円換算は2016年4月上旬の為替レートで計算)。これらと比較しても、日本の最低賃金は低い水準に留まっている。
- そもそも最低賃金制度とは、「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働力の質的向上」等を目的とするところ(最低賃金法第1条)、この「賃金の低廉な労働者」は、その時代時代における経済状況、産業構造及び人口動態等の変化に影響を受けながら、推移・変動するものである。
現在の我が国では、最低賃金周辺の賃金で働く労働者の中心は非正規雇用労働者である。非正規雇用労働者は、全雇用労働者の4割にまで増加し、特に、女性と若年層でその割合が高い。しかも、家計の補助ではなく、自らの収入で家計を維持する必要のある非正規労働者が大きく増加した。貧困率が過去最悪の16.1パーセントにまで悪化し、女性や若者など全世代で深刻化している貧困問題を解決し、男女賃金格差を解消するためにも、最低賃金の大幅な底上げが必要である。 - また、最低賃金の地域間格差の問題も看過できない。現在、最も低い地域が693円、最も高い東京が907円で、その差額は214円となっている。今年の最低賃金引き上げの目安額は最低賃金が高いAランクの地域が25円で、低いDランクの地域が21円であり、その格差は拡大される傾向が続いている。このような格差は、若年労働者が地方から都市部へ流出し、地方が衰退する大きな理由の一つになっており、地方の活性化を進めるためにもこの格差を解消する方向で進めることが重要である。
- 2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において、2020年までに「全国平均1000円」にするという目標が明記されており、この目標は今も維持されている。
また、前述の調査の結果等も踏まえるならば、2020年までに北海道の最低賃金を1000円にすることも喫緊の課題というべきである。そのためには、北海道の最低賃金を5年間で236円、毎年47円以上、引き上げる必要がある。 - 以上から、当会は、北海道最低賃金審議会に対し、北海道における最低賃金を少なくとも47円引き上げて、時給811円以上の金額を答申することを求めると共に、北海道労働局に対し、最低賃金の大幅な引き上げを決定するよう求める。
2016年8月4日
札幌弁護士会
会長 愛須 一史