声明・意見書

いわゆる共謀罪の創設を含む組織犯罪処罰法案の閣議決定に関する会長声明

 政府は、2017年3月21日、いわゆる共謀罪の新設を含む組織犯罪処罰法案(以下「新法案」という)を閣議決定した。
 いわゆる共謀罪法案は、これまで3度国会に上程され、いずれも廃案となっている。当会は、これまで、数度にわたり共謀罪法案に反対する会長声明を発してきた。そこでは共謀罪の本質的問題点について、思想・信条の自由の侵害の危険性、既遂処罰の原則への抵触、監視社会に結びつく危険性などを厳しく指摘してきた。
 そして、2016年12月14日に発した「いわゆる共謀罪法案の国会への再提出に反対する会長声明」では、「組織的犯罪集団」の定義が曖昧であり捜査機関による恣意的な判断を制限できないこと、対象犯罪数が600以上にのぼり対象犯罪が不当に広く人権侵害を招く危険性が非常に大きいこと、準備行為の内容及び範囲が具体的ではなく犯罪と無関係な行為も「準備行為」に含まれるものとされかねず処罰範囲を限定する機能を有さないことについて述べたところである。
 2017年3月21日に閣議決定された新法案では、政府がテロ対策と説明したことと整合させるために、「組織的犯罪集団」の例示として、「テロリズム集団その他の」との文言を挿入し、対象犯罪を277の犯罪に減らされた。また、準備行為について、計画に基づき行われる必要があるともされている。
 しかし、新法案には、「テロリズム集団」の定義がないばかりか、「テロリズム集団」は「組織的犯罪集団」の一例に過ぎず、「組織的犯罪集団」の定義が曖昧であることに変わりはないことから、「テロリズム集団その他の」という文言を付加することによって捜査機関による恣意的な判断を制限できると解することはできない。
 また、対象犯罪が減らされた点についても、依然として組織犯罪やテロ犯罪と無縁な広範な犯罪が対象とされており、人権侵害を招く危険性が大きいことにも変わりはない。
 さらに、仮に準備行為に至る経緯が限定されたとしても、準備行為自体は法益侵害への危険性を帯びる必要がないと説明されているため、犯罪と無関係な行為が「準備行為」とされる危険性は依然として存在し、処罰範囲を限定する機能を有するとはいえない。
 加えて、テロ対策としては既存の法律によって対処できるものと考えられ、仮に不十分な点があるのであれば、個別の立法事実を踏まえて個別の犯罪として立法化を検討すべきである。
 結局のところ、新法案は、テロ対策に名を借りて、過去に3度廃案となった際に批判された問題点を何ら解決せずに立法化するものに他ならない。
 そして、通信傍受制度の拡大が法制化されたことを考え合わせると、共謀罪の成立によって、テロ対策の名の下に、捜査機関によって市民の会話が監視・盗聴される社会を招来させるおそれが一層高まるといえる。
 当会は、テロ対策に不必要であり、憲法の保障する思想・信条の自由、表現の自由、集会・結社の自由等の基本的人権を侵害するおそれが強い新法案に強く反対する。

2017年(平成29年)3月24日
札幌弁護士会
会長 愛須 一史

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