声明・意見書

速やかな「谷間世代」の不平等・不公平是正等を求める会長声明

  1. 日本国憲法下で新たな司法修習制度が開始された1947年当初から、司法修習生には国費による給費が支給されていました。この給費制は、司法制度の最終的な受益者は、その利用者たる国民であることから、「国には司法制度を担う人的インフラである法曹について、公費をもって養成する責務がある」という考え方に基づくものです。
  2. ところが、2011年、司法修習生の大幅な増加、司法制度改革を実現するための財政負担等の理由により、「国家財政の効率的分配」の名のもと、給費制は廃止されてしまい、新65期以降の司法修習生は給費を受けることができなくなりました。これに対し、当会は、前述した国の責務の放棄に他ならないとし、日本弁護士連合会(日弁連)、全国の弁護士会と共に、給費制の復活に向けて活動を展開してきました。
  3. その結果、2017年4月19日、改正裁判所法が成立し、第71期以降の司法修習生に対して一律に修習給付金が支給されることとなりました。この法改正は、当会や日弁連、全国の弁護士会が求めてきた給費制復活を一部実現するものであり、上記国の責務の一部を果たす措置と評価できます。もっとも、金額が従前の水準に達していない等、必ずしも十分とは言えず、さらなる検討や改善が必要です。
  4. 中でも、深刻な問題は、この改正裁判所法が、無給での司法修習を強いられた新65期から70期までの司法修習生合計約1万1000人には遡及適用されなかった、という点です。この期間の司法修習生は、制度の狭間で給費を受けられていないという意味で「谷間世代」と呼称されていますが、この「谷間世代」も、前後の世代と同様、修習専念義務を課され、司法制度の担い手として必要な能力・素養を習得してきました。そして、司法修習で築いた基礎をもとに実務に就き、現在、国の三権の一翼を担う司法制度及び国民の基本的人権の擁護に不可欠な存在として活動しており、司法を支える重要な担い手となっています。この「谷間世代」に対しても、前述した国の責務が存在することは、何ら変わることはありません。改正裁判所法の法案審議の過程において、与野党を問わず、国会議員から「谷間世代」の救済の必要性が訴えられていたにもかかわらず、誠に遺憾なことに、何らの具体的な救済策が講じられていないのが現状です。かかる不平等、不公平は決して許容されるものではありません。
  5. この点、「谷間世代」の司法修習生には、給費に代わって、国から金銭の貸与がなされてきました。これらの司法修習生の多くは貸与金を借入れて生活をせざるを得なかったところ、最も早い新65期司法修習修了者の貸与金返還開始日が2018年7月25日に迫っています。返還が一部でも開始されてしまうと、不平等・不公平の是正に関する具体的方策の検討が複雑となり、制度設計が著しく困難になってしまいます。その意味からも、この是正は喫緊の課題なのです。
  6. また、「谷間世代」の弁護士の中には、「仮に貸与金の返済がなくなれば、現在以上に弁護団活動や会務活動に注力できる」旨の意見を持つ者や、「貸与金の返済が、結婚等の今後のライフプランに影響を与える」との懸念を表明する者も多数存在しています。「谷間世代」の法曹が、それぞれの生活基盤を整えて能力・意欲と技術・工夫をいかんなく発揮し、より幅広い分野で国民の権利擁護のために活躍する環境を整備するためには、貸与金の返還という経済的負担から解放することが必要不可欠です。
  7. 当会は、これまでと同じく、日弁連及び全国の弁護士会と一体となって、「谷間世代」の全員に対して、国費による司法修習期間における修習給付金相当額の一律支給等、不平等・不公平を是正するための活動を積極的に展開していく所存です。そして、本来であれば、遅くとも2018年7月25日までには「谷間世代」の不平等・不公平を是正するための措置が講じられるべきですが、これが間に合わない場合に備え、まずは是正措置が講じられるまでの間、前記貸与金返還の開始日を延期すべきです。
  8. 以上、当会は、国及び関係機関に対し、「谷間世代」の不平等・不公平を是正するための方策を速やかに講じることを求めます。また、その暫定措置として、前記貸与金返還開始日を、上記是正策が講じられるまでの間延期する措置を実施することを求めます。

2018年(平成30年)1月12日
札幌弁護士会
会長 大川 哲也

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