声明・意見書

生活保護基準について一切の引下げを行わないよう求める会長声明

 2017年12月22日、政府は、生活扶助基準を最大5%引下げ、年間約160億円を削減する2018年度当初予算案を閣議決定しました。

 今回の引下げは、2017年12月8日の第35回社会保障審議会生活保護基準部会において、2018年度から生活扶助基準本体や母子加算を大幅に引き下げる案が提示されたことを受けたものです。同案における引下げの考え方は、生活保護基準を第1・十分位層(所得階層を世帯別に10に等分した下位10%の世帯階層)の消費水準に合わせるということです。しかし、厚生労働省が公表した資料によっても、生活保護の捕捉率(生活保護基準未満の世帯のうち実際に生活保護を利用している世帯が占める割合)が2割ないし3割程度にとどまるものと推測されることから、第1・十分位層の中には、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている人たちが多数存在することは確実です。実際、第1・十分位層の単身高齢世帯の消費水準が低過ぎることについては、生活保護基準部会においても複数の委員から指摘がなされています。生活保護基準は、憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であるにもかかわらず、かかる第1・十分位層を比較対象とすれば、生存権保障水準を割り込む結果になりかねません。

 この点、2013年8月から2015年4月までに行われた総額最大10パーセントもの生活保護基準の引下げについても、同様の問題点が指摘されています。今回の更なる生活保護基準の引下げは、既に「健康で文化的な最低限度の生活」を維持し得ていない生活保護利用者を更に追い詰めるおそれが極めて高く、断じて容認できません。

 また、上記閣議決定によれば、都市部の単身世帯等を中心に約7割の世帯が引下げとなり、3歳未満の児童養育加算は月額1万5000円から1万円に、母子加算は平均2万1000円から1万7000円に削減され、学習支援費の定額支給が実費支給(年間上限あり)に変更される等して実質的に削減されるなど、子どものいる世帯にも大きな影響が及びます。この点、生活保護基準部会報告書(2017年12月14日付)も、子どもの健全育成のための費用が確保されないおそれがあること、一般低所得世帯との均衡のみで生活保護基準を捉えていると最低限度の生活すらままならず、絶対的な水準を割ってしまう懸念があることに注意を促しているところです。

 さらに、前述のとおり、生活保護基準は、憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であることから、最低賃金、就学援助の給付対象基準、介護保険の保険料・利用料や障害者総合支援法による利用料の減額基準、地方税の非課税基準等の労働・教育・福祉・税制などの多様な施策の適用基準と連動しています。そのため、生活保護基準の引下げは、生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすほか、生活保護を利用していない世帯の子ども、高齢者、障害者、労働者を含む市民生活全般の生活水準に重大な地盤沈下をもたらすものです。

 よって、当会は、政府に対し、一切の生活保護基準の引下げを行わないよう求めます。

2018年(平成30年)1月29日
札幌弁護士会
会長 大川 哲也

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