声明・意見書

「消費者契約法の一部を改正する法律案」に関する会長声明

  1.  2018年(平成30年)3月2日、「消費者契約法の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」といいます。)が閣議決定され、国会に提出されました。
     本改正案は、消費者契約の取消事由となる不当な勧誘行為を追加し、消費者契約が無効となる不当な契約条項も追加するなど、近時の消費者契約に関する被害・トラブル事例を踏まえた対応策として立案されたものであり、当会としても、現在開会中の第196回通常国会において早期に改正法が成立することを求めるものです。
  2.  しかしながら、本改正案は、消費者契約法(以下「法」といいます。)4条3項に関し、①勧誘者において消費者が一定の事項に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、当該契約が必要である旨を告げること(本改正案4条3項3号)、②勧誘者において消費者が当該勧誘者に恋愛感情等を抱き、かつ、当該消費者が当該勧誘者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該契約を締結しなければ当該勧誘者との関係が破綻することになる旨を告げること(同項4号)により、消費者が困惑して契約した場合の取消しについて、いずれも当該消費者の「社会生活上の経験が乏しいことから」という要件を定めています。
  3.  かかる要件は、本改正案の作成に向けて検討が行われた内閣府消費者委員会消費者契約法専門調査会の2017年(平成29年)8月付報告書(以下「報告書」といいます。)や、これを受けた同委員会の同月8日付答申書(以下「答申書」といいます。)では示されていなかったものであり、上記要件が追加されることによって新たな取消権の適用範囲が狭められ、特に高齢者の不安をあおる勧誘などに対して適用が困難となりかねないものと懸念されます。したがって、この要件は、本改正案から削除すべきです。
  4.  また、本改正案には、いわゆる「つけ込み型」の不当勧誘について消費者の取消権を認める規定が盛り込まれていません。
     この点、報告書は「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型の被害事例の中には、必ずしも(中略)事業者の行為はみられないものが存在する。特に高齢者等の判断力の不足等を不当に利用し、不必要な契約や過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われる場合も存在して」いると指摘し、答申書も「特に、高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合における消費者の取消権」を「喫緊の課題」であると付言しており、こうしたいわゆる「つけ込み型」の不当勧誘に対する取消権を、今回の法改正において導入すべきです。
  5.  さらに、本改正案では、消費者契約の解除に伴う違約金等を定める条項について事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分を無効とする法9条1号に関し、消費者が「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を立証した場合には、その額を「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」と推定する旨の規定も盛り込まれていません。
     上記推定規定は、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」が当該事業者に固有の事情であり、消費者による立証は困難であることの対策として、報告書及び答申書が設けるべきとしていたものであり、これも今回の法改正において導入すべきです。
  6.  したがって、当会は、本改正案に関し、4条3項3号及び同4号から「社会生活上の経験が乏しいことから」という要件を削除すること、並びにいわゆる「つけ込み型」の不当勧誘に対する取消権、及び法9条1号について消費者が「事業の内容が類似する同種の事業者に生ずべき平均的な損害の額」を立証した場合にはその額を「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」と推定する旨の規定を導入することを求めます。

2018年(平成30年)4月27日
札幌弁護士会
会長 八木 宏樹

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