声明・意見書

「法科大学院等の抜本的な教育の改善・充実に向けた基本的な方向性」に対する意見

意見の趣旨

  1.  中央教育審議会大学分科会法科大学院等特別委員会において取りまとめられた「法科大学院等の抜本的な教育の改善・充実に向けた基本的な方向性」(以下、「特別委員会3月とりまとめ」という。)は、法科大学院志願者の減少の原因について、時間的・経済的負担という一面のみの検討に終始している。それを受けて提唱された法曹コースの創設では志望者回復の要にはなり得ず、現に起きている法曹志望者激減に対する改革としての切迫感もなく、検討として不充分であると言わざるを得ない。
  2.  法科大学院制度の機能を回復させるため、最低限、次の点について早急に検討を行うべきである。
    (1) 法科大学院の入試選抜及び教育機能を回復させるため総定員をさらに削減すること、その場合、法科大学院の最低限の適正配置は維持すること。
    (2) 「未修者コースの制度改革を進める」ことを具体化すること。
    (3) 法科大学院生に対する経済的支援の充実をはかること。

意見の理由

第1 はじめに

  1.  2001(平成13)年6月12日に公表された司法制度改革審議会意見書においてプロセスとしての法曹養成制度の整備とその中核をなすものとして法科大学院の設置が提唱されて以来、法曹養成制度の抜本的な改革が行われ、2004(平成16)年4月から法科大学院が開校した。
     法科大学院志願者は、最初の年度こそ8万人近かったものの、その後は激減し、現在に至るまでその減少に歯止めがかかっていない。
  2. このような法曹養成の危機に対し、政府は、2015(平成27)年6月30日、法曹養成制度改革推進会議において、「法曹養成制度改革の更なる推進について」を決定し、法曹志望者数を回復させ新たな時代に対応した質の高い法曹を多数輩出していくための諸施策として、法科大学院の改革に関し次の基本的な考え方を示した。
    ① 2015(平成27)年度から2018(平成30)年度までの期間を集中改革期間と位置付け、法科大学院の抜本的な組織見直し及び教育の質の向上を図ることにより、各法科大学院において修了者のうち相当程度(地域配置や夜間開講による教育実績等に留意しつつ、各年度の修了者に係る司法試験の累積合格率が概ね7割以上)が司法試験に合格できるよう充実した教育が行われることを目指す。
    ② 法科大学院生に対する経済的支援の更なる充実や優秀な学生を対象とした在学期間の短縮により、法科大学院課程修了までに要する経済的・時間的負担の縮減を図る。
  3.  札幌弁護士会(以下、「当会」という。)は、法曹志望者が激減し、将来の司法を支えるべき有意で多様な人材を法曹界に輩出することが困難になりつつある事態が生じていることを踏まえ、2013年3月に「法曹養成制度の抜本的な改革を求める決議」を行い、法曹養成制度の抜本的な改革の必要性を唱え、法科大学院課程修了を司法試験受験要件から外すとともに、かかる場合の法科大学院のあり方について継続して検討すべきとする改革案を示していた。
     なお、同決議では、当会はそれまでと同様に法科大学院の運営への協力を惜しまないとも明言した。
  4.  当会は、上記の決議を維持しつつも、当面、法科大学院制度を中核とした法曹養成制度が継続する状況のもとでは、現在の制度を前提として、有意で多様な法曹志望者が激減する緊急事態を早急に改善し、法曹養成制度の機能を回復させることが重要であると考える。
     そこで、特別委員会3月とりまとめの問題点を指摘するとともに、法曹志望者回復に向けた検討課題について意見を述べる。

第2 特別委員会3月とりまとめの問題点その1―法曹志望者激減の分析が不充分であること

  1.  今年度の法科大学院実入学者数は、1621人と昨年に比べ83人減少し、志願者数の減少に歯止めがかからなかった。
     また今年度の司法試験受験者数は5726人と昨年に比べ898人も減少しており、法曹志望者が減少したことの影響がそのまま反映された結果となっている。
     特別委員会3月とりまとめでは、法曹志望者減少の原因を「修了に要する期間と経済的負担、大学生の就職環境が良い状況であることもあり、法科大学院志願者及び入学者はいずれも減少を続けている」と分析しており、そこから提案されたのがいわゆる法曹コースである。
     即ち、特別委員会3月とりまとめは、法科大学院志願者が激減している主たる原因が時間的・経済的負担の重さにあることから、これを軽減する制度を提案することによって志望者を回復させようというものであり、そのために打ち出されたのが法科大学院と法学部との連携強化による法曹コースである。その中核は、早期卒業制度を利用して、学部3年・法科大学院2年の計5年で法科大学院を卒業できるようにすることで、法曹養成期間を1年短縮できるようにすることにある。法曹コースは、現状において早期卒業制度・飛び級制度を利用して法科大学院既修者コースに入学する者が少数であることを踏まえ、従来の早期卒業制度や飛び級制度の要件を緩和してその裾野を広げようとするものである。
  2. 法曹となった後の活動の場が示されていないこと。
    (1) しかしながら、以下に述べるとおり、法曹志望者が減少した原因は別にもある。特別委員会3月とりまとめは、上記の法曹養成制度改革推進会議の「法曹養成制度改革の更なる推進について」に対応して、法曹養成制度を中心にした制度設計を検討したものではあるが、その分析・検討は極めて限定的であり、提言されている法曹コースも、法曹志望者を回復させるには明らかに不充分である。
     即ち、法曹志望者が激減した最大の原因は、以下に述べるとおり、法科大学院志願者の時間的、経済的負担に見合った法曹のあるべき姿を描くことができない現状、換言すれば、司法試験合格後の法曹としての活躍の場が示されていないことにある。
    (2) 法曹が魅力ある職業になっていないこと。
     司法試験合格者数の大幅な増員をきっかけに弁護士一斉登録時期に未登録となる司法修習終了者が徐々に増加し、2010年12月の弁護士の一斉登録時期には2割を超える司法修習終了者が登録しない状態となり、その後も継続している。
     近時、弁護士一斉登録時期及びその後の1年間の未登録者数がこれまでに比べて減少していることを根拠として、司法修習終了後の就職状況が回復しているといわれているが、弁護士として新規登録したとしても、勤務弁護士の待遇面の低下、既存の事務所に籍を置かせてもらうだけの形態や、登録後間もなく独立する形態も見られ、法曹資格を取得しても職業としての安定性に欠けている点は否定できない。
     また、裁判官、検察官の採用人数は、2017年度過去最低を更新したが、このような状況も法曹を目指す動機としてはマイナスに作用するであろう。
     法曹を取り巻くこうした状況の改善策も合わせて検討されない限り、法曹が魅力的な職業として多くの学生に進路として選択されることは期待できない。
    (3) 組織内弁護士像のアピールは進路選択の要素にはなりにくいこと。
     特別委員会3月とりまとめでは、「法曹界のみならず企業、官公庁や地域社会における福祉部門など公的部門でもますます活躍が期待される」とする。
     しかし、学生が進路として法科大学院進学などの分野を選択していない原因として、時間的経済的負担及び法曹資格を取得するまでのリスクを勘案して組織内弁護士という進路を選択するよりも、大学卒業後直ちに就職した方が合理的であると判断する学生が相当数いるものと想定される。現に司法修習終了後組織内弁護士として就職する者の人数は劇的には伸びていない。
    したがって、組織内弁護士の活躍等をアピールしても、それのみで法曹志望者を増やすことは期待できない。

第3 特別委員会3月とりまとめの問題点その2―法曹コースについて

 以上述べたように、法曹コースの提唱だけでは法曹志望者回復にとって不充分であるが、法曹コース自体も以下に述べるような多くの問題点を抱えている。

  1.  法曹コースを提唱するだけでその具体化を先送りするなど改革に切迫感がないこと。
     法曹コースは、現時点で未だ骨格すら固まっておらず、想定される法曹コースの規模も、全体的な規模を示すことなく、単に各法科大学院の定員の5割程度を上限として認める、とするだけで具体性がない。2015年6月に示された法曹養成制度改革推進会議の上記「法曹養成制度改革の更なる推進について」から、法曹養成制度集中改革期間の3年間を経てなされた取りまとめが法科大学院と法学部を対象とした法曹コースの提唱に止まるというのでは、検討のためにかけられた時間からみても極めて限定的で不充分であり、法曹養成全体の問題を更に先送りするものであると言わざるを得ない。
  2.  法曹コースは制度として種々の問題があること。
    (1) 特別委員会3月とりまとめにおいて法曹コースの導入が提言されたものの、法曹コースに関する制度設計の具体化はこれからであり、特別委員会内の議論でも、法学部との連携の意味、授業内容などについて充分なコンセンサスが得られていない状況である。
    (2) 法学部の志願者が減少していることを過小評価していること。
     特別委員会3月とりまとめは、法曹志望を決めた時期として、中学生、高校生の段階であったとの回答がそれぞれ3割程度あったというアンケート結果(「法学部に在籍する学生に対する法曹志望に関するアンケート調査結果」法務省、文科省、2016(平成28)年9月23日から10月19日実施)に基づき、こうした層を法曹コースに取りこむことを想定している。
     しかし法学部の入学者数については、法学大学院の志願者減と相まって減少を続け、平成23年頃から横ばい傾向にある。すなわち、法学部への志願者数が回復しているとまではいえず、むしろ法科大学院の低迷に連動している状況にある。法曹コースを創設したところで、法学部の低迷ないし停滞の原因を解消しない限り、法学部に多様な学生が集まり、更に法曹コースを選択する、という即効性のある改革になるのか疑問がある。
     特別委員会3月とりまとめでは、法学部の教育の改善・充実策等についても言及されているものの、いずれも今後の課題とされるにとどまっている。
    (3) 学部2年生で法曹コースを選択するリスクが大きいこと。
     特別委員会3月とりまとめでは、基本的に学部2年次進級時点以降に法曹コースを選択するのが適当とされ、成績評価において「法科大学院の既修者コースの進学に必要な学識を培うことができる充実した教育を行い、学年毎に厳格に成績を評価すること」とし、優秀な成績を修めた学生が法科大学院(既修コース)に進学できるものとされている。
     しかし、厳格な成績評価は充実した教育の成果を測るためのものであるから、前提として法学部での教育の改善・充実が先に検討・提言されるべきであるのに、この点については今後の課題とされるにとどまっている。法学部と法科大学院との関係については「連携の実効性を高めて、教育等の充実を図るため、教員組織の状況等を踏まえ、これを活用する」としているが(時期を合わせて専門職大学院の必要専任教員のうち学部との兼務を規制していた制度が改正され、平成30年4月1日に施行されている)、これは現状の法学教育における人材不足が如何ともしがたくなったことの結果であり、実際には法曹コースのための法学部の改革でもあることから、むしろ法学部全体の教育の改善・充実を行うことは極めて困難となり、後述するように法学部自体の役割や機能を犠牲にしかねない。
     また、優秀な成績を修められなかった学生は法科大学院の特別の選抜枠には入れないことになり、その学生が法曹以外の進路を考えたとき、厳格な評価によって成績がつけられているとすれば、同じ大学の法学部に在籍している他の学生との比較においてハンディとならざるを得ない。あるいは途中で法科大学院へ進学せず、別の進路を選択したときも同様の問題が生じる。こうした疑念が解消されない限り、学部2年生で法曹コースを選択することは極めて大きなリスクとなり得るのであって、求める人材が確保できるのか、疑問が残る。
    (4) 他大学の法学部との連携について
     法学部は設置しているものの法科大学院を設置していない大学では、他校の法科大学院との連携によって法曹コースを設置することになる。この点、特別委員会3月とりまとめでは、特に法科大学院を持たない地方の法学部、法科大学院を廃止した大学の法学部などが積極的に他の法科大学院と連携して法曹コースを設置することを期待するとしている。
     しかし、学部のカリキュラムや学生の成績評価はそれぞれの大学で異なることから、法曹コースに関する連携が一般的・広範囲に行われることは困難であり、特定の法科大学院と法学部との個別の連携とならざるを得ない。
     また、法曹コースを設置した大学の法学部においては、法科大学院への進学を推進できる充実した教育を行うことになっている(法科大学院の基本科目に相当する科目等について充実した教育を行うことが想定されている)が、当該法学部の負担が大きいものにならざるを得ず、現実的に広く具体化が可能な構想とは言い難い。
    (5) 法曹コースを選択しない者のための選択肢が検討されていないこと。
     特別委員会3月とりまとめでは、法曹コースを選択しない又は同コースに進級できなかったものの法科大学院を目指そうとする者に対する検討はほとんど行われていない点も問題である。
     現状では司法試験合格者数は1500人程度となっているが、法曹コースの構想が想定しているのはその1割程度であり、これだけで法曹志望者を回復させるのは無理がある。
    (6) 法曹志望者を増やすための改革は予備試験に対抗することではないこと。
     周知のとおり法科大学院における時間的・経済的負担を回避するため、司法試験予備試験(以下、「予備試験」という)を受験する法曹志望者が相当数存在し、現状では1万人を維持している。予備試験に合格すれば法科大学院を経由せずに司法試験受験資格を取得できるため、現に優秀な学生は、法科大学院ではなく予備試験を選択することが常態化している。
     このような現実を踏まえると、特別委員会3月とりまとめで提唱された法曹コースは、法曹志望者全体を増やすためのものというよりは、法曹志望者の中で予備試験に流れる優秀な学生層を食い止めるための位置づけであると批判されてもやむを得ない。
     即ち、第83回法科大学院等特別委員会で配布された「平成29年司法試験予備試験受験状況」(資料1-4、5)では、各法科大学院の予備試験合格者数が二桁となっている法科大学院に黄色印が付されているが、これらはすべて司法試験合格者数上位校である。こうした法科大学院から予備試験に流れていく層を何とか食い止めるための制度が法曹コースにほかならない。
     現在、課題とされるべきは法曹養成全体の改革であり、法曹志望者全体を増やすことであって、優秀な学生層の予備試験への流出を阻止することではない。
     法曹志望者を増やすことによって法科大学院を選択する者が増えるような改革こそが求められている。
    (7) まとめ
     以上のとおり、法曹コースの創設は、予備試験に流れかねない層を法科大学院に呼び戻すための対策にしかならない可能性があるだけでなく、種々の問題を内包したものであって、法科大学院制度改革を目指すとする「法曹養成制度改革の更なる推進について」で示された法曹養成制度改革推進会議決定の要請に対する抜本的な改革案というにはほど遠いものである。
     即ち、特別委員会3月とりまとめでは法曹コースが提言されたが、経済的・時間的負担の軽減の一部が提唱されたに過ぎず、給付型支援を含めた経済的支援の充実を推進するとした点については検討さえされていない。何よりも重要な法科大学院の教育の質の向上という点については法学部との一貫教育(法曹コース)に比重が置かれるだけで、未修者コースの改革は先送りするなど、法曹コースに偏ったものとなっている。
     このように、法科大学院等特別委員会では法曹コースの創設が提言されただけで具体的な制度設計はこれからとされているのでは、現在危機に陥っている法曹養成制度の改革に対する切迫感・スピード感が全くない。
     更に、2015(平成27)年6月30日の法曹養成制度改革推進会議決定では、法科大学院改革に関する基本的な考え方の第1点目として、「法科大学院の抜本的な組織見直し及び教育の質の向上を図ることにより、各法科大学院において修了者のうち相当程度が司法試験に合格できるよう充実した教育が行われることを目指す」とされていたにもかかわらず、特別委員会3月取りまとめでは、単に「各法科大学院は、法学部との連携の実効性を高めて、教育等の充実を図るため、教員組織の状況等を踏まえ、これを活用する」と言及するにとどまり、他方で、法科大学院進学時に優れた法律学の学識・能力を有すると認められる者を対象とし」た既修得とみなせる単位の上限を上げることの検討というように優秀な志望者の確保ばかりに重点が置かれ、抜本的な教育の改善・充実に関する検討が極めて不充分である。

第4 今後の課題

  1.  法科大学院の総定員をさらに削減すること
    (1) 現在、法科大学院志願者の減少により、法科大学院の定員が充足されない状況が常態化している。直近では、平成28年度で定員2724人、実入学者数1857人、平成29年度で定員2566人、実入学者数1704人、平成30年度では定員は2330人、実入学者数1621人である。
     法曹志望者の減少が顕著である中で、多数の有為な法曹志望者を積極的に増やす必要があることからすれば、現在の法科大学院数、定員数はかえって制度への信頼を失わせている。それは法科大学院の入学者選抜が充分に機能していないとの疑問を払拭できない状況にあるからであり、一部の司法試験合格率が低迷している法科大学院においてはそれが顕著である。
     そこで法科大学院の総定員数を実態に合わせて削減していくことが必要である。実態に見合わない入学定員は入学試験における選抜機能を失わせるだけでなく、ひいては法科大学院全体の信頼を失わせることになる。
     また、人的、予算的に考えても、実務家教員も含めて適切に配置される必要があることに加えて、後述するように法学研究における人材養成にも大きな支障を来しかねないことをも考慮すれば、法科大学院を適正規模にすることも必要である。
     こうしたことから、法科大学院の統廃合ということも選択肢の1つとして法科大学院全体の入学総定員数を削減してくことにより法科大学院制度の機能回復と信頼回復がなされなければならない。法科大学院志願者を回復させるための大前提である。
    (2) 法科大学院の最低限の適正配置は維持すること
     法科大学院は、開校当初74校が設立されるという濫立状態であったが、現在では39校となった。地方の法科大学院の多くは学生募集停止に至り、その結果、四国では法科大学院はなくなり、北海道、東北、北陸、中国、九州なども拠点となった札幌、仙台、金沢、岡山、広島、福岡(沖縄)に法科大学院を残すのみとなった。ICT技術を用いた地方での法科大学院の授業のあり方が検討されているが、その効果的な実施には現状では課題が多いことも率直に認める必要がある。
     法科大学院制度における適正配置は、医学部のように各県1校の設置は困難である反面、すべて東京、大阪などに赴かない限り法科大学院に入学できないということになれば、地方の潜在的な法曹志望者を遠ざけてしまうことになりかねない。総定員の削減によって法科大学院の統廃合も不可避としても少なくともそれぞれの地方の拠点となる法科大学院は維持されるべきである。地方在住の者が法曹になるための選択肢として予備試験しかないということになれば、地方の法曹志望者を一層減少させる要因になる。
     司法という国のインフラを担う人材の育成について国が責任を負うことは当然というべきであり、地方の法科大学院を維持するために、国は相応の財政的支出をする必要がある。
     現状の法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラムでは地域配置(同一都道府県内に2校以下)も加算対象としてはいるものの、その位置づけは低い。地方において地域の法的需要を担う人材の育成に取り組む法科大学院の活動に対して大幅な加算を行い、充分な財政基盤の確保につなげていくなど、求められているのは充分な財政支援である。
  2.  未修者コースについて
    (1) 特別委員会3月とりまとめでの未修者コースの位置づけ
     未修者コースは、法科大学院制度において、法学部出身者以外の者、社会人など法曹の多様性を確保するという観点から提唱されたものである。
     現状では、未修者コースの入学者数は平成28年度で635人、平成29年度で567人、平成30年度で509人となり、減少に歯止めが掛かっていない。また、司法試験合格率においても既修者コースとの開きが顕著となっている。このような状況を踏まえ、特別委員会3月とりまとめでは、未修者コース入学者に占める純粋未修者や実務経験者の割合について3割以上と定めた文部科学省告示の見直しを提言するに至った。また、試験的に実施されてきた共通到達度確認試験の導入を本格化させる内容となっている。
    (2) 未修者コースの現状と問題点
     未修者の到達度を考えるにあたっては、1年で既修者レベルに到達させるという当初の制度設計が実現困難であったということを前提に検討する必要がある。未修者コースをストレートで修了する割合は低く、司法試験合格率も低迷していることから、質の確保が喫緊の課題となっていた。
     各法科大学院の進級判定・修了判定においてかなりばらつきがあるだけでなく、根本的には未修者コースにおける入試選抜が機能していないことが原因とされている。未修者コースの質そのものの信頼を低下させかねないことから統一的な判定方法として未修者コースの1年次修了時点での共通到達度確認試験の導入が既定路線となっている。
     しかし、未修者コースに関係する教員、未修者コースから法科大学院課程を修了した法曹資格者などからは、1年で既修者コースに追いつくことは難しく3年間を通して既修者と同等の実力を身につけてきたという声を聞く。これを前提とすると、未修者コース1年で選別する共通到達度確認試験の導入は、未修者コースの改善ではなく、切り捨てとなりかねない。これでは未修者コースの志望者を回復できないどころか、より一層志望者を減らし、多様な人材の供給を阻むことになる。
    (3) 未修者コースに関する法科大学院相互の連携について
     特別委員会3月とりまとめでは、未修者教育を行う法科大学院全体において法学未修者に対する効果的な教育方法を共有することや複数法科大学院で連携して教育を実施することが必要であるとされているというだけで、未修者コースの具体的なあり方については今後の課題として先送りにされている。
    (4) 未修者コースも改革内容を具体化すること
     前記の法曹コースは学生を早い時期から法曹養成に特化させるものであり、他方で未修者コースの改革が先送りされていることから、他学部出身者や社会人をますます法曹を目指すルートから遠ざけてしまうことが強く懸念される。
     そのため、現状において未修者枠3割目標の数値を撤廃したことはやむを得ず(平成30年4月1日施行)、未修者コースに関する対応については各法科大学院の自主性に委ねざるを得ないとしても、未修者コースをこのままの状態で放置することは許されない。法科大学院制度を維持する以上、法曹志望者の多様性確保のために、未修者コースに合ったカリキュラムの検討など「未修者コースの制度改革を進める」ことを具体化すべきである。
  3.  法科大学院生に対する経済的支援の充実をはかること
     この間、司法修習生に対する経済的支援が一部ではあるが復活した。これは法曹志望者を確保する上で不可欠の改正ではあったが、それはあくまで司法試験合格後のことであり、それだけで法曹志望者を回復させるには不充分である。法曹養成制度の中核たる法科大学院制度を維持するための財政的援助は不可欠である。
     法科大学院課程の修了後に多額の借金を負っていることがこれから法曹として巣立つ者の姿というのであれば、法曹志望者に対する負のメッセージにしかならない。
     法曹コースによる時間的、経済的負担の軽減は一部の層には機能するかもしれないが、法曹コースを選択しない大多数にとっては従前と変化がないのであるから、その中で志望者数を回復させるためには財政的な援助は不可欠である。
     法曹養成は、他の専門職の養成と異なり、三権分立の一翼である司法という、国の社会インフラに必要な人材を供給するものである。特別委員会3月とりまとめにおいても若干は触れられているものの、前掲「法曹養成制度改革の更なる推進について」でも取り上げられた給付型支援についての検討が不充分である。
     以上の次第で、法科大学院生の負担を軽減するため財政措置を実施することは不可欠であり、給付型を中核とした奨学金制度を充実させる必要がある。

第5 特別委員会ではほとんど議論されず、しかし、法曹養成制度を検討する上で落としてはならない検討事項

  1.  「法曹コース」設置が法学部のあり方に及ぼす影響につき検討されるべきこと
     法学部には法学の基礎研究も含めた独自の存在意義がある。法科大学院と法学部を切り離してきたことには、法学部教育として意味があった。司法制度改革審議会意見書では「法曹以外にも社会の様々な分野に人材を輩出しており、その機能は法科大学院導入後も基本的には変わりない」としていた。
     しかし法曹コースは、3年次での卒業への要件を緩和してしまう点で、法学部教育のあり方を変えてしまう。
     法学部に法曹コースを導入することによって、司法試験受験のための法学部教育に傾斜しないのか、特別委員会3月とりまとめでは「理論と実務に精通した研究者を養成」と掲げるものの、法学研究者の養成に影響はないのか、法学研究が現状に対する批判的な視点を失わないか、法学部の多くの学生は法曹コースとは無縁であるのに、法学部があたかも法曹養成のためのものであるかのように誤解され、法学部への志願者を遠ざけはしないか、などの懸念がある。
     法曹コースの創設により多大な影響を受ける研究機関としての法学部・法学部大学院法学研究科や法学部教育の観点からの検討が欠如している点は極めて問題が大きい。
  2.  法科大学院、司法試験、司法修習の有機的関連について引き続き検討されるべきこと
     司法制度改革審議会意見書は、法学教育、司法試験、司法修習を有機的に連携させたプロセスとしての法曹養成制度の整備を求め、その中核として法科大学院の設置を提言した。特別委員会3月とりまとめでも、法科大学院の立場からの司法試験・司法修習との有機的な連携の在り方も含め、さらに検討を深める事項を引き続き議論していくものとしている。
     司法修習こそ実務を学ぶ上での中核であるが、司法修習期間の伸張や法廷実務を学ぶ前提としていわゆる前期修習を復活させるなど、最高裁司法修習委員会2004年とりまとめの見直しも含め、司法修習を充実させるための議論が不可欠である。

第6 結語

特別委員会3月とりまとめは、引き続き特別委員会での議論を経て、中央教育審議会大学分科会等で更なる検討がなされ、国の施策へと結実するものと想定されるが、当会は、今後も、各議論状況を注視しながら、有意かつ多様な法曹志望者が増加するための方策について、適宜の場面で意見の発出や運動等を精力的に行っていく所存である。

以上

2018年(平成30年)5月30日
札幌弁護士会
会長 八木 宏樹

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