地方消費者行政に対する財政措置の継続・拡充を求める意見書
第1 意見の趣旨
- 国は、2018年(平成30年)度の地方消費者行政に係る交付金減額が地方公共団体の消費者行政に及ぼす影響を具体的に把握するとともに、同年度本予算で確保できなかった交付金額について、補正予算で手当てすべきである。
- 国は、2019年(平成31年)度の地方消費者行政に係る交付金を、少なくとも2017年(平成29年)度と同水準で確保すべきである。
- 国は、地方公共団体が実施する消費者行政機能のうち、消費生活相談情報をPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録する事務、重大事故情報の通知事務、悪質業者・違反業者に対する行政処分を行う事務、適格消費者団体の活動支援事務など、国が行う消費者行政につながる事務については、その費用について国の恒久的な財政措置を講じるべきである。
第2 意見の理由
- 消費者生活相談体制の整備等、地方消費者行政の充実・強化は、国による地方消費者行政推進交付金・地方消費者行政強化交付金等の措置によって一定の前進が図られてきた。2017年(平成29年)度における地方消費者行政推進交付金の最終予算(補正予算を含む)は42億円となっている。他方、この交付金措置が2017年(平成29年)度で一区切りを迎えようとする中、自主財源の確保や人員(行政職員・消費生活相談員)措置、消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)の設置が進まない等の課題が残されている。
- こうした中、2018年(平成30年)度予算に向けて、地方から国に対して60億円を超える予算要求がなされた。しかし、消費者庁の2018年(平成30年)度予算概算要求は40億円にとどまり、最終的には地方消費者行政強化交付金として、前年度の最終予算を大幅に下回る、わずか24億円が認められるにとどまった。これは地方公共団体の要請に国が全く応えられていない結果であり、消費生活相談体制の維持など消費者行政が後退していく懸念がある。
- これは、特に小規模な自治体を多数抱える地方において、地方消費者行政の格差という問題として顕在化する恐れがある。
2017年(平成29年)度の地方消費者行政現況調査結果によれば、消費者行政予算(広義・消費者行政本課及び消費生活センター以外の部署も含めた自治体全体の消費者行政予算)のうち自主財源のない市町村は、人口2万人以上の市町村では各人口区分に応じて0%~6.4%であるのに対して、人口1万人以上2万人未満の市町村では15.7%、人口1万人未満の市町村では29.3%に跳ね上がる。つまり、今回の交付金額の減額は、自主財源に乏しい地方の小規模な地方自治体ほどその影響は甚大であり、特に小規模な地方公共団体における消費者行政の体制が後退し、比較的税収に余裕があり自主財源を確保しやすい都市部の地方公共団体とそうではない地方の小規模な地方公共団体との間で消費者行政の充実の程度について格差が発生・拡大していくことが想定される。
しかも、一般的に、地方の小規模な地方公共団体ほど消費者被害の被害者となりやすい高齢者の割合が多い現状に鑑みると、地方消費者行政の格差の発生・拡大という問題は、高齢者の消費者保護防止という要請や、消費者庁が2018年(平成30年)度予算概算要求において掲げた「誰一人取り残されない」社会の実現に逆行するものであるといえる。 - さらに、消費者庁には地方支分局がないこともあいまって、地方消費者行政の機能強化が進まない場合、消費者被害情報の収集・分析、法執行、消費者被害防止の広報啓発等、国の消費者行政も進まないことが懸念される。そもそも、地方公共団体が行う消費者行政のうち、消費生活相談情報をPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)に登録する事務、重大事故情報の通知事務、悪質業者・違反業者に対する行政処分を行う事務、適格消費者団体の活動支援事務などは、国が行う制度改革や法執行・情報提供などを通じて国の消費者行政につながっているという側面が強く、純粋な地方自治体の事務というよりは、本来的に国が費用負担をすべき側面が強いものであり、こうした業務に関する費用については、国の恒久的な財政措置を講じるべきである。
- よって国は、意見の趣旨記載の措置を講じるべきである。
以上
2018年(平成30年)6月8日
札幌弁護士会
会長 八木 宏樹