憲法記念日に当たっての会長声明
本日、憲法記念日を迎えました。日本国憲法が施行されて72周年になります。
日本国憲法は、立憲主義及び民主主義に立脚し、わが国が、平和で基本的人権を尊重する社会を作り上げていくために重要な意義を有してきました。改めていうまでもなく、日本国憲法は、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義を基本原理としており、国民主権及び民主主義や平和主義は、「人類普遍の原理」であり、これを護り続けていかなければなりません。
当会は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士の団体として、これまでも会長声明において、こうした憲法の基本原理や憲法の規定に矛盾、抵触するとして、特定秘密保護法、いわゆる安保関連法や共謀罪等の制定に反対するとともに、制定後は、これらの法律の廃止を求めることを表明してきました。しかしながら、現時点においても、特定秘密保護法、安保関連法や共謀罪等の廃止に向けた法改正の動きは見受けられずむしろ、特定秘密の指定が進み、安保関連法に基づく自衛隊の新たな活動が増え続けており、憲法の基本原理や憲法の規定との矛盾、抵触が解消されているとは言い難い現状があります。
こうした中、与党である自由民主党を中心に、憲法第9条に「自衛隊」を明記することや、大規模災害時に政府に特別の権限を認める「緊急事態条項」の創設などを憲法改正の優先事項として検討を進めています。
当会は、集団的自衛権行使を容認する安保関連法は憲法第9条違反であるとの立場を表明しており、その違憲問題を正面から問うことなく憲法改正がなされてしまうことは、憲法第9条を中心とする恒久平和主義を本質的に変質させる可能性を否定できず、この点について強い懸念を表明しています。また、緊急事態条項については、基本的人権の尊重に対する大きな脅威となる危険があるだけでなく、そもそも、その必要性も認められないとして当会はこれに強く反対してきました(2017年1月24日付会長声明)。
いうまでもなく、憲法改正は主権者である国民の総意に基づいてなされるべきものですが、各種世論調査では、憲法改正は、国政の優先課題とされておらず、国民の中では憲法改正の機運が高まっているとはいい難い状況にあります。加えて、国会においても憲法改正に関する議論が十分なされているとは到底言えない状況にあり、憲法改正そのものが目的化されてはなりません。
また、日本国憲法の改正手続に関する法律(憲法改正国民投票法)について、国民の間の十分な議論とそれに基づく国民の意思が正確に反映されるものになっていないという問題点があることから、当会は、繰り返し同法の改正を求めてきました(2018年5月3日付会長声明など)。しかしながら、憲法改正国民投票法の抜本的な改正についても進んでいないのが現状です。
当会は、こうした状況の下で、拙速に憲法改正手続きが進められることには問題があると考えます。当会は、引き続き、憲法問題に関する課題ないし問題点を整理し、国民が主権者として憲法問題を考え、議論し、適正な判断と意見表明ができるよう寄与していくとともに、憲法改正国民投票法の見直しに向けた取組みを行っていきます。
当会は、日本弁護士連合会や全国の弁護士会と連携した取組みを行っていますが、沖縄弁護士会は、普天間基地の辺野古移設問題を、沖縄県民の尊厳に関わる重要な人権問題、憲法問題であると位置付け、2018年12月10日、「辺野古新基地建設が、沖縄県民にのみ過重な負担を強い、その尊厳を踏みにじるものであることに鑑み、解決に向けた主体的な取り組みを日本国民全体に呼びかけるとともに、政府に対し、沖縄県民の民意を尊重することを求める決議」を総会で可決しました。沖縄弁護士会は、同決議において、全ての日本国民に対し、沖縄の問題を自らの問題、日本の問題として捉え、同じ国民として痛みを分かち合い、苦しみを共有し、主体的に解決策を模索することを呼びかけましたが、当会は同決議を真摯に受け止めます。
2019年(令和元年)5月3日
札幌弁護士会
会長 樋川 恒一