声明・意見書

定期購入契約の規制強化を求める意見書

2021年(令和3年)1月15日
札幌弁護士会
会長 砂子 章彦

第1 意見の趣旨
スマートフォンの普及やインターネットを利用した通信販売の利用が拡大する中で、「定期購入契約」のトラブルが急増している実態を踏まえ、国は、特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)について、以下の改正を行うべきである。

 

  1. 1 インターネットの広告画面及び申込画面に関する規制の強化
    • (1) インターネットの広告画面及び申込画面において、2回目以降の購入が義務付けられる定期購入契約であることに気付かせないような以下の表示方法を、特商法14条1項2号の指示対象行為として具体的に禁止するとともに、禁止される表示例をガイドライン等によって明確化すること。
      • ア 「お試し」「初回無料」「モニター」等の文言を強調し、当該注文・当該商品の受領で終わるような誤認をもたらす表示。
      • イ 初回分の価格や数量と、2回目以降に義務付けられた購入代金の総額や総量とを分離した表示。
      • ウ 「いつでも解約できる」「解約自由」等の文言を強調しつつ、実際に解約する際の条件や具体的な解約方法が限定されていることは目立たないようにする表示。
    • (2) 通信販売業者が、インターネットの広告をいわゆるアフィリエイト広告として広告代理店又はアフィリエイターに委託した場合であっても、広告主である通信販売業者がその表示内容について責任を負う旨を法又は通達若しくはガイドラインに明示すること。
  2. 2 不当な解約制限の禁止
    通信販売業者に対し、不当な解約制限を禁止し、申込(注文)時と同じ方法によって解約の申し出を受け付けることを義務付け、これに違反した場合には、2回目以降の契約について違約金の無い中途解約権を申込者に認めること。

 

第2 意見の理由

  1. 1 定期購入契約のトラブル急増
     インターネットの利用拡大、特にスマートフォンの普及によって、インターネットによる通信販売(以下、「ネット通販」という。)のトラブルが年々増加している。中でも、健康食品や化粧品等について、実際には2回目以降の定期購入契約が附帯しているにもかかわらず、「お試し」などの文言を使用することで当該商品の購入・受領だけで済むかのような誤認をもたらす広告や、「初回無料(又は著しく低額)」などの有利な条件のみを強調し、2回目以降の支払義務があるという不利な条件は目立たなくするような広告が氾濫して社会問題となっている。独立行政法人国民生活センターの集計によれば、消費生活相談の件数は近年横ばい傾向であったものの、定期購入契約の相談件数は2015年度の4、141件から年々増加し、2019年度は44、370件と、2015年度の10倍以上、前年度と比べても2倍以上に急増した1
  2. 1 消費者庁公表「令和2年版消費者白書」44頁

  3. 2 定期購入契約の特徴と問題点
     ネット通販で問題となっている定期購入契約には、以下のような特徴と問題点がある。

    • (1) 「お試し」等の文言が、申込者(注文者)に対し、「試しに買ってみよう」という気にさせるものの、2回目以降の購入も義務付けられていることには気づかせず、このような文言それ自体が誤認をもたらすものである。
    • (2) 広告には衝撃的な勧誘文言や写真が数多く並ぶが、ネット通販で主に利用されるスマートフォンの画面は非常に小さく、全体を閲覧するには数回から数十回のスクロールを要し、記載内容の一覧性がない。そのため、2回目以降の契約内容が分離した場所に記載されていると、申込(注文)者はそれに気付きにくい仕組みになっている。
    • (3) アフィリエイト広告が多用されており、インターネット利用者の閲覧を促すため虚偽又は誇大広告が氾濫している2
    • (4) 初回の購入代金は無料又は非常に低額の設定となっているものの、2回目以降は、殊更に多量・高額の設定となっている。
    • (5) 広告画面や申込画面では「いつでも解約できる」等としつつ、実際には解約申出の方法を電話連絡に限定したり、受付時間も短くすることで解約を事実上困難にし、所定の解約申出期間を途過させることで、販売業者が2回目以降の商品を送付して代金を請求する問題が多発している。
  4. 2 アフィリエイト広告とは,SNS,ブログ,バナー広告等の作成者(アフィリエイター)が,広告主である通信販売業者又はその委託を受けた広告代理店等からの依頼により,当該広告主が供給する商品・役務の紹介記事(体験談や評価等)を広告サイトに掲載する形式の広告。それぞれの契約内容によるが,多くは,消費者のサイト閲覧や実際の購入実績等に応じて報酬が支払われる仕組みになっている。

  5. 3 特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会の報告
     上記の問題点を踏まえ、消費者庁が2020年2月に設置した「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」(以下、「検討委員会」という。)では、「詐欺的な定期購入商法」について、「特定商取引法における顧客の意に反して通信販売に係る契約の申込みをさせようとする行為等に関する規制を強化すべきである。」「意に反して申込みを行わせる悪質事業者を念頭に、解約・解除を不当に妨害するような行為を禁止するとともに、解約権等の民事ルールを創設する必要がある。」「特定商取引法に基づくガイドラインである「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」の見直しを早期に実施するとともに、法執行を強化する必要がある。」との意見を取りまとめ、春の通常国会における法改正が検討されている3
  6. 3 「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会 報告書」(2020年8月19日)7~8頁。

  7. 4 広告画面・申込画面に関する規制の強化(意見の趣旨1(1))
    • (1) 特商法11条1号から3号では、複数回にわたる契約の全ての回の代金の総額、代金支払方法及び商品引渡時期を広告画面に表示することが、また、同法11条1号・5号及び省令8条7号では、2回目以降の契約締結が必要であることや金額その他の販売条件を広告画面に表示しなければならないことが、それぞれ規定されている。
       また、特商法14条1項2号並びに省令16条1項1号及び2号では、契約の申込みとなることが容易に認識できない申込画面表示や、申込内容を容易に確認・訂正できない申込画面表示が禁止されており、その具体例は消費者庁のガイドラインに示されている4
    • 4 消費者庁「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」

    • (2) しかし、上記規制では、所要事項が広告のどこかに表示されていれば、それ自体に著しく虚偽又は誇大な表示がない限りは表示義務に違反していないと解される可能性がある。
       そのため、定期購入契約の広告画面や申込画面において「お試し」「初回無料」、「モニター」等として、あたかも当該1回きりの申込(注文)と商品の受領・代金支払によって契約がいったん終了するかのような誤認をもたらす表示、すなわち定期購入契約の実態と矛盾しかねない文言を殊更に使用したり、広告画面において、2回目以降の高額な代金設定や複数回の購入義務を初回分とは分離した箇所に記載し、あるいは小さな文字等で目立たないようにするなどして巧みに申込画面に誘導するなど、申込(注文)者の誤認を殊更に誘発する手法は、必ずしも表示義務違反とは言いきれない場合があり、現在被害が急増している定期購入契約のトラブルを規制するには極めて不十分である。
       そして、このような商法が蔓延すれば、本来の「お試し」としての試供品を用いた健全な営業活動や、新商品の宣伝や購買層の拡大等を図るために「初回ご注文の方に限り〇〇円」等の広告をしている一般企業に対しても悪影響を及ぼしかねないのであって、その点でも看過できない社会問題といえる。
    • (3) よって、定期購入契約であることを殊更に気付かせないようにする広告画面及び申込画面の表示は、「意に反する申込みをさせようとする行為」(特商法14条1項2号)として指示対象行為に加えるとともに、禁止される具体的な表示例をガイドライン等で明確化すべきである。
  8. 5 アフィリエイト広告に対する通信販売業者の責任を明確化すべきこと(意見の趣旨1(2))
     通信販売業者による誇大広告は特商法12条、省令11条1号及び4号で禁止されているが、インターネットの広告の作成を他の者に委託した場合に、当該受託者による違反広告について委託者が責任を負うか否かの明文規定がないため、アフィリエイト広告では広告主である通信販売業者が責任を負わない旨の主張をするケースがみられる。
     しかし、広告主は、自社の商品・役務がどのアフィリエイト広告を通じて契約成立に至ったのかを全て把握できる仕組みとなっており、そのアフィリエイト広告の表示内容によって消費者を誘引し、売上げを獲得する関係にあるのであるから、アフィリエイト広告の表示内容に不当表示があるときは、広告主がその責任を負うものと解すべきである。
     実際にも、既に埼玉県では、ダイエットサプリメントの通信販売業者に対し、自社サイト及びアフィリエイトサイトにおける商品の効果・効能に関する誇大広告等の違反を理由として、2020年3月31日付けで特商法に基づく業務停止命令等の行政処分を行っており5、広告主がアフィリエイト広告の責任を負う場合があるという行政庁の解釈はあるものの6、法に明記されていないことから通信販売業者に周知されているとはいえず、全国各地で急増するトラブルの原因ともなっている。
     よって、現行特商法上も、アフィリエイト広告の法令違反については広告主である通信販売業者が責任を負う場合があることを前提に、定期購入契約のトラブル急増の実情に鑑み、広告主である通信販売業者の責任を法律上明記するか、少なくとも通達若しくはガイドラインにおいて明示し、周知徹底を図るべきである。
  9. 5 「埼玉県 県政ニュース報道発表資料 ダイエットサプリメント等の販売を行う通信販売事業者に対する措置命令について」(2020年3月31日)
    6 消費者庁の「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(2016年6月30日付)では,広告主が表示内容の決定に関与している場合,アフィリエイターにその表示内容の決定を委ねている場合であっても,広告主は景品表示法及び健康増進法上の措置を受けるべき事業者に当たるとの解釈を示している(12頁)。

  10. 6 不当な解約制限を禁止し、中途解約権を導入すべきこと(意見の趣旨2)
     ネット通販の定期購入契約では、通信販売業者が「いつでも解約できる」等として解約・返品特約を謳って消費者を誘引し、インターネット上で購入の申込みを受け付けておきながら、解約申出に際してはインターネット上では手続させず、営業時間内に営業所宛てに電話連絡をさせる等の方法で、具体的な解約申出手段を限定しているケースが多い。しかも実態としては、解約希望者が何度電話を架けても繋がらず、所定の申出期間内に解約できないまま2回目以降の商品が届いてしまい、高額な代金を請求されるという被害が後を絶たない。
     そこで、ネット通販によって定期購入契約の申込みを受ける通信販売業者が解約・返品特約を定める場合には、不当な解約制限を禁止することとし、その実効性を確保するため、申込みと同じ方法で解約申出を受け付けるよう義務付け(たとえばインターネットでの申込については、インターネットによる解約申出体制を整えるべき義務)、通信販売業者がこれに違反した場合には、2回目以降の契約について違約金無しで解約できるようにすべきである。

以上

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