声明・意見書

札幌弁護士会男女共同参画・性の多様性尊重宣言 ~誰もが自分らしく活躍できる弁護士会であるために~

 日本国憲法が定める個人の尊重、法の下の平等の理念に基づき、性別や性的指向、性自認によって差別されず、誰もが自分らしく個性と能力を十分に発揮できる社会を実現することは極めて重要であり、先送りできない課題です。
 これは、女性や性的マイノリティだけではなく、すべての人にかかわる問題です。男女共同参画社会、性の多様性が尊重される社会が目指すものは、すべての人が、自由に生き方を選択し、対等な立場で協力し合い、個性や能力を生かして活躍できる社会であり、女性や性的マイノリティだけでなく、男性にとっても、生きやすい社会です。
 しかし、現実には、依然として大きな男女間の格差や差別、固定的な性別役割分担意識、性的指向や性自認などによる差別・偏見が根強く残っています。
 男女共同参画社会、性の多様性を尊重する社会の実現に向けて、司法の一翼を担い、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士会に求められている役割は大きく、当会は、自らの活動においても、総合的かつ継続的な取り組みを行うことが必要だと考えます。
 そこで、当会は、下記の活動指針を実現していくことを宣言します。
 記
1 男女共同参画・性の多様性尊重の推進を実現するための「基本計画」を策定します。
2 当会の政策・方針決定過程への女性会員の参画を推進します。
3 性別を問わず、会員が、家事・育児・介護等を担いながら、業務、会務活動、研修などに参加しやすくするための制度を整備します。
4 性別による差別的取扱いやセクシュアル・ハラスメント(いずれも性的指向及び性自認に関するものを含む)及びパワー・ハラスメントを防止するため、既存の制度の充実及び新たな制度の創設を図ります。
5 性別を問わず、全ての弁護士が多様な分野で活躍する環境を整えるための取り組みを推進します。
6 男女共同参画、性の多様性の尊重に関し、会員の理解を深めるため、研修や啓発を一層充実させます。
7 女性弁護士数の増加、女性弁護士割合の拡大を推進します。
8 男女共同参画、性の多様性を尊重する社会の実現に向け、対外的に様々な発信や取組を行っていきます。

                      2021年(令和3年)5月28日
                           札 幌 弁 護 士 会

(提案理由)
1 政府・社会の状況
 1999(平成11)年、男女共同参画社会基本法が制定され、政府は、2003(平成15)年に「社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が、少なくとも30%程度となるよう期待する」との政府目標(以下「202030目標」という。)を掲げ、5か年ごとに男女共同参画基本計画を策定し、その実現に向けた取り組みを進めてきた。2015(平成27)年には女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)が、2018(平成30)年には政治分野における男女共同参画の推進に関する法律が公布・施行された。
 国際社会に目を向けると、2015(平成27)年、国連で決定された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」では、持続可能な開発目標(SDGs)のひとつとして、「ジェンダー平等の実現」(2030年までに、政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において、完全かつ効果的な女性の参画及び平等なリーダーシップの機会を確保すること)が掲げられ、アジェンダ全体の実施においてジェンダー平等の視点を反映させること(ジェンダーの主流化)が不可欠とされた。これに沿って、諸外国ではスピード感を持った取り組みを推進している。
 しかしながら、日本の現状は、現時点では202030目標に到底到達しておらず、世界経済フォーラム(WEF)が示す世界156カ国を対象とした「男女格差報告」で日本は、2019(令和元)年は121位、2020(令和2)年は120位と、世界的に最低水準にある。その原因として、固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)が強く存在し、特に政治・経済分野への参画における男女間格差が大きいことが指摘されている。
 政府は現在の日本の状況を踏まえ、2020(令和2)年12月25日に閣議決定された第5次男女共同参画基本計画で目標を修正し、「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるよう目指し」「2030年代には、誰もが性別を意識することなく活躍でき、指導的地位にある人々の性別に偏りがないような社会となることを目指す」との目標を定めた。
今こそ、男女共同参画社会の実現に向けて、迅速かつ実効性のある取り組みが求められている 。

2 男女共同参画社会、性の多様性が尊重される社会が目指すもの
 男女共同参画社会、性の多様性が尊重される社会が目指すものは、すべての人が、自由に生き方を選択し、対等な立場で協力し合い、個性や能力を生かして活躍できる社会であり、女性や性的マイノリティだけでなく、男性にとっても、生きやすい社会である。
本年3月17日、札幌地方裁判所は、同性間の婚姻を認めない民法及び戸籍法の婚姻に関する諸規定は憲法14条1項で定められた平等原則に違反して違憲であるとする我が国ではじめての歴史的判決を言い渡した。
社会には、未だ性的マイノリティに対する差別や偏見が根強く存在しており、多様な性的指向・性自認を持つ人が、その個性を尊重され、差別されない社会を目指し、性の多様性を尊重するための取り組みをより一層推進すべきである。 
 また、女性や性的マイノリティだけでなく、男性にとっても生きやすい社会を実現するためには、家庭における役割の分担も含め、男性が自由な生き方を選択できるための支援も必要である。

3 弁護士・弁護士会が果たすべき役割
 弁護士・弁護士会は、人権擁護と社会正義の担い手として、個人の尊重、法の下の平等という憲法の理念を率先して実践すべき存在である。
 そして、弁護士会が男女共同参画及び性の多様性の尊重を推進する取り組みを進めることは、弁護士個人が性別や性自認・性的指向を問わず個性と能力を発揮するために不可欠であるとともに、司法におけるジェンダー・バイアスを排除し、社会における多様な人々の法的ニーズへのアクセスを確保することにつながる。さらに、弁護士・弁護士会が率先して取り組みを進めることで、男女共同参画社会及び性の多様性を尊重する社会の実現に寄与することになる。
 政府の第5次男女共同参画基本計画では、弁護士の女性割合を上昇させるため、①法曹養成課程における女性法曹輩出のための取り組み、②ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組み、③弁護士会内部でのクオータ制を含めた積極的改善措置(ポジティブ・アクション)の取り組みが要請されている。
日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)は、2007(平成14)年4月に制定された「日本弁護士連合会男女共同参画施策基本大綱」及び同年5月に採択された「日本弁護士連合会における男女共同参画の実現を目指す決議」に基づき、5か年ごとに男女共同参画推進基本計画を策定し、取り組みを進めてきた。直近では、2018(平成30)年に第3次男女共同参画推進基本計画を策定し、様々な取り組みを進めており、2018(平成30)年度から女性副会長クオータ制、2021(令和3)年度から女性理事クオータ制が施行された。また、同計画では、性の多様性の尊重について、会務や各種施策等において必要な配慮を行うこと等が施策として掲げられている。
 弁護士・弁護士会が、男女共同参画及び性の多様性を尊重する社会の実現に向けて果たすべき役割は大きく、迅速かつ実効性のある取り組みが求められている。

4 札幌弁護士会の今後の課題と目標
(1) 基本計画の策定
男女共同参画及び性の多様性尊重の理念を当会において更に推進するためには、「基本計画」を策定し、総合的かつ継続的な取り組みを行っていく必要がある。
(2) 政策・方針決定過程への女性会員の参画推進
当会では、2021(令和3)年4月1日現在での女性会員割合が約15.4%(総会員数826名、女性会員127名)である中で、執行部(会長・副会長)に占める女性会員の数と割合は、2020(令和2)年度、2021(令和3)年度はいずれも1名(20%)であるものの、これまでの推移(2019〔令和元〕年度0%、2018〔平成30〕年度0%)からすれば、現在の状況が安定的に維持できる状況にはない。また、執行部のみならず、常議員、各委員会の委員長においても、女性会員の割合は当会全体の女性会員割合と比較して少ない傾向にある。
弁護士会は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とし、50を超える専門委員会、対策本部を設け、社会における様々な法的課題について、その解決のための取組みを進めている。弁護士会が社会に存在する人権問題や法的課題を的確に把握し、効果的な取組みを進めていくためには、様々な環境や立場にある全ての弁護士が、性別にかかわらずその政策・方針の決定や各種活動に関わることが望ましい。ただし、数値目標を求めるあまり、特定の女性会員に会務負担が集中する事態は避けなければならない。
そのためにも、執行部の負担軽減あるいは業務の合理化、会務等の開催時間の配慮、IT技術の活用による会務の合理化等の施策を講じるとともに、それぞれの弁護士にとって参画の障壁となっている事由がないか、調査・分析を続けることが不可欠であり、全ての弁護士が政策・方針の決定や各種活動に広く、平等に参画しやすい環境整備を進めていく必要がある。
(3) 仕事とプライベートの両立を支援する制度の整備
男女を問わず、やりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家族や友人との時間、健康維持・趣味・社会活動などのための時間を十分確保すること(仕事と生活の調和〔ワーク・ライフ・バランス〕の実現)は、充実した人生を送るうえで欠かせないものである。
しかしながら、日本では、現在でもなお、性別による固定的な役割分担意識が根強く、女性が家事・育児・介護等(以下「家事等」という。)の多くを担わざるを得ず、仕事との両立に困難を感じ、他方、男性は仕事に追われ、家事等を担いたくても柔軟な働き方を選択しにくい現状がある。この問題は、個々の会員の自助努力だけで解決することは困難であり、弁護士会全体として取り組むべき課題である。
このため、例えば、会員が、男女を問わず、出産・育児、介護等のライフイベントに伴う労働時間の制約があってもキャリアを継続し、柔軟な働き方を選択することができるよう、出産・育児時期の支援制度の拡充、介護を担っている会員に対するサポート体制の構築等を行う必要がある。弁護士にワーク・ライフ・バランスの考え方が浸透することは、社会における適切な役割分担、仕事とプライベートの両立の促進にもつながるものである。
(4) 性別による差別的取扱い、セクシュアル・ハラスメント、パワー・ハラスメントの防止
性別による差別的取扱い及びセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ等」という。)は、いずれもジェンダー・バイアスに基づく重大な人権侵害である。また、力関係の格差に乗じて行われるパワー・ハラスメント(以下「パワハラ」という。)も、ジェンダー・バイアスが根底にあることも多く、セクハラ等と複合的に生じやすい。セクハラ等及びパワハラの根絶は、会を挙げて取り組むべき課題である。
当会は、2013(平成25)年に「性別による差別的取扱い等に関する規則」を制定し、2019(令和元)年には、セクハラ等に性自認・性的指向に関する差別やハラスメントを含むことを明らかにする改正を行った。
しかし、これらの規則に基づく相談制度等は十分周知・利用されているとはいいがたく、既存制度の周知・利用促進及び更なる改善が必要である。また、パワハラの防止に関する制度は、改正労働施策総合推進法に基づき要請されているところ、当会では未整備であり、同制度の創設も必要である。
(5) 全ての弁護士が多様な分野で活躍する環境を整えるための取り組み
女性弁護士の活躍分野を広げ、全ての弁護士が、性別や置かれた環境にかかわらず、社会に存在する法的紛争・課題の解決に関わることは、真の男女共同参画社会の実現のために不可欠なことであり、そのためには、現在女性会員に存在する業務上の障壁を除去する必要がある。
例えば、2021(令和3)年3月1日現在で、戸籍上の氏名以外の「職務上の氏名」の届出をしている弁護士の約87%は女性であり、女性弁護士総数の約37%であった(日弁連調査)。「職務上の氏名」を使用した業務は、銀行口座の開設や各種契約手続において未だに煩雑な手続きを求められる場合がある。「職務上の氏名」の届出をしている弁護士の大半が女性であること自体、ジェンダー・バイアスの表れであり、これによる不都合が生じないよう早急に改善を検討する必要がある。
また、男女共同参画社会の実現のためには、女性会員であることを原因に業務範囲が制限されていないか検討する必要があり、そのような事実がある場合は、女性会員の業務範囲を拡大するための措置を講じる必要がある。さらには、女性会員の様々な働き方やライフスタイルに応じたキャリア形成のための情報提供や支援策の拡充も重要である。
(6) 男女共同参画及び性の多様性に関する理解を深める研修・啓発の充実
当会における男女共同参画の推進及び性の多様性の尊重を実現し、更には弁護士としての使命を全うするためには、各会員の男女共同参画についての意識を高め、ジェンダー・バイアスや性の多様性への無理解からくる差別や偏見等について会員の認識を深めることが不可欠である。
そのためには、会員に対する研修の開催や意識啓発に向けた各種取り組みを積極的に行っていく必要がある。
(7)女性弁護士数の増加、女性弁護士割合の拡大への取り組み
弁護士全体に占める女性割合の拡大は喫緊の課題である。前述のとおり、当会の女性会員の割合は約15.4%、日弁連全体においても約19.3%にとどまっており、政府が定めた202030目標に大きく及んでいない。社会に存在する女性法曹に対するニーズに応え、女性の社会的地位を向上させるためには、女性弁護士の増加は必要不可欠である。
女性弁護士数の増加、女性弁護士割合の拡大に向け、女性が弁護士として活躍する魅力を伝えるため、中学、高校、大学、大学院等の教育機関に弁護士を派遣して出前授業を行ったり、シンポジウムを開催したりする等して情報提供を行い、女性に対する進路選択支援を積極的に行うことが望まれる。さらには、司法試験の女性合格者が弁護士を職業として選択しやすくなるような取り組みや、出産・育児・介護など業務外の事情での女性弁護士の離職を防ぎ、離職者の再登録を支援する取り組みも必要となる。
(8)男女共同参画、性の多様性を尊重する社会の実現に向けた対外的発信や取組み
男女共同参画・性の多様性を尊重する社会を積極的に推進する立場から、弁護士会は、会内だけではなく、市民・社会・学校等に向けた対外的な発信や各種取り組みを行っていくことが重要である。
現在、大企業の多くが、男女共同参画の実現や各種ハラスメントを防止するための社内規定の整備、性自認・性的指向に関する差別禁止の明文化や、トランスジェンダーガイドライン、同性パートナーを配偶者と認める人事制度や福利厚生制度を整備する動きがあるが、中小企業の取組みは未だ十分とはいえない。家庭内における役割の固定化やジェンダー・バイアス、性的マイノリティに対する偏見も未だ根強い。
これらの問題を是正すべく、当会が社会の先頭に立ち、男女共同参画の推進・性の多様性を尊重する社会の実現に向けて、積極的な活動を進める必要がある。

5 まとめ
 私達の住む社会は、日本国憲法のもと、性別を問わず、全ての人が個人として尊重され、自らが望むライフスタイルにて生きていける社会であるべきである。そのような社会を実現するため、当会は、本宣言を発出するとともに、引き続き男女共同参画及び性の多様性実現のために努力していく所存である。

以 上

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